地域ルポ JR浜松町駅南口界隈(東京・港区) 大手チェーンが夜の客争奪合戦
JR浜松町駅。山手線、京浜東北線、東京モノレールが乗り入れる。一日当たりの乗降者数約三一万五〇〇〇人(平成5年度)。JR東京地区では一四番目に多い乗降者数だ。地域には世界貿易センタービルをはじめ、東京ガス、富士通、東芝、清水建設、昭和電工といった大手企業のほか、大小のオフィスビルが林立する。また、近接地には旧芝離宮、浜離宮、ニューピア竹芝、竹芝シーバンス、芝公園、増上寺など観光・レジャースポットも点在しており、街は常に活気にあふれている。
浜松町は世界貿易センターが位置する駅北口と、田町寄りの南口(金杉橋口)の二つのエリアを軸に広がるが、この範囲は狭い。西側に第一京浜国道が南北を貫いているので、面としての広がりには限界がある。
東側も線路(ガード)であることに加え、旧浜離宮などの庭園が展開するほか、海岸通りと首都高速一号線が縦断しているので、“街”としての発展は望めないわけだ。しかし、狭隘な街区でありながら、飲食店舗、とくに居酒屋の存在が目立つ。
地域のサラリーマンをターゲットにした居酒屋ビジネスということだが、夕刻の退社時ともなれば、どこの居酒屋も大賑わいという状況を呈する。
とくに、南口はバブル期のビル建設に伴って、ここ二、三年前から居酒屋の出店ラッシュが続いており、地域の新たな“飲み屋街”としての性格を呈してきている。
浜松町駅南口。近接地の地名をとって「金杉橋口」と呼ばれているが、行政地番は「浜松町二丁目」になる。
バブル経済ピーク時の八七~八八年ごろに地上げが激化して、港区でも顕著にビル化が進んだ地域だ。
駅改礼口から通りに出る。階段通路からいきなり道路に出るという立地で、一日三〇万人以上もの乗降者がある駅の出入口にしては余りにも地味で、貧困という印象だ。
その南口から西方向、第一京浜に二〇〇mほどストレートに伸びているのが、このエリアのメーンストリート。
この通りの両サイドや中ほどの南方向の通り、また、メーンストリートの一本南側の通りが地域の新地(南口飲み屋街)で、ここ、二、三年の間に大手チェーンを含め店舗出店が活発化したところだ。
バブルがはじけてビル余り現象となり、居酒屋出店を刺激したということになるが、賃料も坪家賃一万五〇〇〇~二万円、保証金一〇~二〇ヵ月前後というのがこの地域の一般的相場だ。
つまり、賃貸条件がバブル期に比べ大幅にダウンしたので、出店が容易になったということだ。
「駅に近く、人の流れがあって、集客の見込める場所のよい物件となりますと、そう数はありません。それと、ここはビジネス街ですから、土・日・祭日の営業にハンディがあり、この点の集客力が発揮できないと厳しい戦いを強いられることになる」と語るのは、大手居酒屋チェーンの店長。
天狗の南口店は三年前のオープン。北口および第一京浜大門交差点周辺にも二店舗を出店しており、居酒屋チェーンの中でも知名度は高い。中高年のサラリーマンから学生(ヤング)まで多様な客層に支持されており、集客力は安定している。南口店客単価二五〇〇円、月商三〇〇〇万円(推計)
賃貸条件は下がっても、人の呼べる物件、場所の確保は難しいということだ。しかし、現在の南口エリアはたそがれともなると、居酒屋の灯が点り、サラリーマンの往来で夜の賑わいを増す。
大手居酒屋チェーンでは養老の瀧、天狗、白木屋、チムニーなど。昼は喫茶、夜はダイニングバーに変身する「プロント」も出店している。
中堅どころの居酒屋ビジネスでは、すしと刺し身居酒屋「魚がし日本一」、酒ギャラリー「Sui」、居酒屋・宴会処「喜多屋」など、大小合わせて目につくだけでも二〇店近くが存在する。
「ほとんど二、三年前の出店ですね。正直いってオーバーストアー気味です。大手チェーンはマニュアル、低価格志向で、主力ターゲットを若者層においていますが、彼らは“浮動票層”だと思うのです」
「店から店へと移る。必ずしもひいきの店を持たないということです。ですから、こちらは手づくり志向の料理で、落ち着いた雰囲気づくりと和やかなサービスを心がける」
「つまり、中高年層や若年層でもアッパー志向の顧客の集客で、大手チェーンと差別化し、共存していくという考え方です」(チムニー店長)
大型店舗でマニュアルによるマスセールス、一方は手づくり志向で個性を主張する出店形態。浜松町南口界隈はその両者が軒を連ねて、夜な夜なサラリーマン諸氏のアルコールニーズに対応している。
狭いエリアでのパイの取り合いになるか、それとも新たな“飲食ゾーン”としての地位を確立して、来街者を増大させるか、南口界隈今後の推移に関心がもてるところだ。
チムニーは、スーパーイオングループ(ジャスコ)がチェーン化している居酒屋。東京中心に現在七〇店を出店。浜松町店は南口の通りから一本南に入ったところ。三年前のオープン。ビル一、二階での出店で計一〇三席。メニュー単価三〇〇~四〇〇円前後の低価格に加え、現場で調理加工する手づくり志向と食材の新鮮さを売りものにしている。中心客層は三、四〇代。客単価二五〇〇円。店の規模は小さいが内容が伴っているので、大手企業のアッパー志向の客がきてくれる(石原店長)。しかし、会社が休みになる土・日・祭日は人の流れが少なくなるので、今後これをどうカバーしていくかが、大きな課題だ
魚がし日本一は、南口から三〇mほどのところにある。平成5年12月オープン。地下一、地上一、二階の出店。計一二〇坪、一三〇席。新橋、田町界隈にも出店しており、計六店を展開。(株)にっぽん(本社=東京都港区芝)の経営。すし、巻き物、魚介、焼き物料理が売り物で、九割が固定客。客単価昼八〇〇~九〇〇円、夜三〇〇〇円。月商二〇〇〇万円を確保。これは目標以上の数字。営業時間ランチ午前11時30分~午後2時30分。夜平日5時~10時30分。土曜日5時~9時。日・祭定休
大手居酒屋チェーンが、呉越同舟の形で同じビルに出店。地下1階に養老の瀧(110席)、天狗(350席)、地下2階白木屋(230席)、地上1階Sui(112席)。Suiは、(株)エイペックス(本社=東京都品川区大崎)の直営で、平成7年6月オープンのニューフェース。旬の魚介類と有名地酒を武器に集客力を発揮。客単価3000円。月商900万円をキープ
居酒屋・宴会処喜多屋。地上4階、地下1階建てビル全館での営業。6年前の開業。少人数客からグループ、宴会客までフロアごとに店内造作が異なり、多様な使い方ができる。いわば“多目的居酒屋”という出店形態。計300席。浜松町エリアには南口店ほか、北口、大門、西口、喜多郎など計4店を出店している