トップインタビュー ペッパーフードサービス・一瀬邦夫社長 ステーキを庶民の味に
‐‐高級ステーキハウス「ステーキくに」から低価格の「立喰いステーキの店・ペッパーランチ」の展開を始めた動機は何でしたか。
一瀬 グルメブームや食文化の多様化が進んだ結果、本物志向が強いにもかかわらず、リーズナブルな価格が要求される時代が来つつあります。それと同時に、かつては高価な料理の代名詞だった「ステーキ」が庶民性を帯びてきました。以前から若い人たちがお腹いっぱいステーキを食べられる店作りをしたいと思っていましたので、やっと環境が揃ったというところです。
二五年間のステーキレストラン経営の実績とノウハウの蓄積を基に独創的なアイデアでペッパーランチを誕生させました。
‐‐チェーンの一号店は食品スーパーを経営していた方の転業によるFC店舗と聞きました。思い切ったスタートでしたね。
一瀬 一号店は九四年7月に神奈川県の大船にオープンしました。その年の3月に東京・晴海のホテル・レストランショーで行った当社の電磁調理器による実演試食を見た熱心な加盟希望者の方です。当然私も直営からの展開を考えていましたがこの方の熱心さにおされた形でFCからの出店と異例の形となりました。ペッパーランチオープン直後、近所に大手チェーンの天丼専門店や牛丼専門店が次々とオープンしました。これら和風ファストフードの主な客層は若い人中心で基本的には当チェーンと同じ。ところが、近所の盛業の飲食店が売上げを落としていく中、ほとんどその影響を受けませんでした。むしろ、宣伝もしないのにクチコミでお客が増えていきました。これは私自身も驚きました。改めて、競合にも強いという確かな手応えを実感しました。
‐‐約一年半で一一号店に拡大し、今後急展開が予想されていますが、好調の秘訣を教えてください。
一瀬 最大の特徴はステーキの提供方法です。遠赤外線を含み熱効率が非常に優れた「スースリング」という特殊な鉄板を採用し、これを電磁調理器で急速に加熱します。二八〇度に加熱された鉄板にステーキ肉や野菜を盛りつけ、わずか一分半でお客様に提供できます。目の前でジュージューと音を立ててステーキが焼きあがっていきます。
また、この鉄板は熱が冷めにくく、二〇分経っても八〇度ぐらいに保たれ、まさにシズル感あふれるステーキを最後まで楽しんでいただけます。同時にこの方式は客回転率を上げることにもつながり、昼食ピーク時の売上げを逃しません。
ペッパーランチが提供するステーキは通常のレストランと同質で価格は半額以下です。直営一号店の浅草店は厨房二・五坪を含めて一二坪、U字カウンター一八席の小さな店舗です。これに炊飯ロボットを導入して洗米から炊飯まで自動化し、食器洗浄機、自動券売機などなど、自動化・合理化できるところは徹底して機械化しています。これにより、ピーク時でも三人ですべてのオペレーションが可能です。
‐‐“立喰い”とうたっていますが椅子席ですね。
一瀬 そうなんです。店名を決めるときクイックサービスを何らかの形で表現したいという考えを“立喰い”に込めました。「うまい、早い、安い」で吉野家の牛丼のステーキ版をめざしています。
‐‐今、牛丼は価格競争の真っ最中で大変そうですが、ペッパーランチの売れ筋商品は何ですか。
一瀬 ビーフペッパーライス六三〇円、サービスステーキ六五〇円、ペッパーステーキ(リブアイロール一五〇g)八〇〇円、サーロインステーキ(二〇〇g)一一〇〇円などで、いずれもライスがついています。店名にもなっていますが、粗びきのブラックペッパーとオリジナルソース、ブレンドバターの絶妙なハーモニーのファンは大変多いです。スーツ姿のサラリーマンや家族客も多いので、紙エプロンの使用をすすめたり、お冷やを注いだりと機械にできない心のこもった「おもてなし」にはとても力を入れています。安いからノーサービスではなく、サービス業なのですから気持ちのいいサービスはやはりするべきだと思っています。
‐‐今後の展開についてお聞かせください。
一瀬 本格的にFC展開に取り組みます。その一つとして西日本の地域FC本部として長崎ちゃんめんを展開、昨年株式を上場した(株)パオさんとエリア契約を交わしました。五年後の株式上場をめざしています。
‐‐ありがとうございました。
「ステーキくに」「ペッパーランチ」で年商は約一二億円。ホテルのコックから独立して洋食店を開店し、なかで人気だったステーキを特化してこんにちの「ステーキ人生」を歩む。
「コック出身が最高の武器。味には絶対の自信がある」。高級ステーキ店のノウハウを持って低価格で、若者がターゲットの市場に切り込みをかける。五四歳、静岡県出身。パワー全開である。
(文責・福島)