業界NEWS:インフレ圧力上昇 食品界は今こそ価格是正を
新型コロナ影響も含むインフレ圧力が上昇する中、食品界で価格是正を重視する声が強まってきた。世界的な食糧需給の変化やわが国の長期的なデフレなどを背景に、原料・コスト環境のさらなる悪化が懸念されている。行き過ぎた価格競争を続ける限り、国内の安定供給に弊害が生じるだけでなく、事業存続や人的投資も不可能になると危機感は強い。従来の商売の在り方を見直し、コスト上昇分と付加価値を織り込んだ適正売価実現の流れを作るべき局面だ。
昨年は諸外国の経済活動再開による食糧需給のひっ迫や輸送コンテナ不足、円安の進行などを受け、食糧価格が高騰。主原料価格は20年比で菜種と大豆が倍増したのをはじめ、小麦24%増、粗糖27%増と大幅に上昇し、これら原料を使用する食用油や調味料、麺類、菓子などの商品値上げにつながった。
今後も食品値上げの拡大が想定される一方で、小売業の価格競争には目立った変化がない。昨年は一部大手チェーンがPB商品の価格凍結を実施したり、値上げに踏み切ったNB商品の下をくぐる売価設定で開発を行う動きも散見された。一昨年のコロナ特需による販売実績の維持へ向け、卸に納価の引き下げを求める動きも再び拡大しているという。
30年続くデフレ下、値上げしない企業は消費者の支持を集めたが、長期の需要不足と物価停滞はわが国の経済成長を阻害。昨年は日本の物価水準が国際相場についていけず、輸入原料を買い負ける事態も相次ぎ浮き彫りとなった。
こうした情勢に食品界はいよいよ危機感を強めており、日本食糧新聞が経営トップを対象に行った新春インタビューでも、今年の重点課題に「価格是正」「安売り競争からの脱却」をあげる声が相次いだ。
「“安い日本”は企業や国民の努力のたまものではあるが、限界に来たのは明らかだ。長期のデフレと食品の低価格からの脱却を急がなければ、ますます原料などの購買力を失い、世界から取り残されてしまう恐れを感じる。適正な価格是正が望まれる」(メーカー)
「あらゆる物価が高騰しており、適正価格の実現に向けた売価アップが業界として重要だ。コンテナ不足を含め調達への影響は地球規模で、従来の極力安いものを求める考え方では商品の集荷自体ができなくなる可能性がある」「企業は人的コストも含め未来への投資が不可欠で、もう消耗戦をしている場合ではない。誰かの犠牲で成長しているような企業は、いずれ誰にも支持されなくなる。デフレ脱却こそが、食品流通業の重要なテーマ」(卸)
「小売業もマインドセットを変えなければならない。価格対応は必要としても、付加価値をいかに付けるかという質の競争に取り組むべきで、それが日本全体の好循環につながっていくはずだ」(小売業)
今年は日銀の金融緩和の継続や米国の利上げなどで円安が130円台まで進むと予測する向きもあり、1月14日の3省連携会合では輸送コンテナ問題は夏場まで解消が難しいとの見通しも示された。今後も食を取り巻くコスト環境は厳しさを増すと想定され、製配販3層を挙げて価格是正へ取り組むスタンスが求められる局面だ。
一方で日本は過去30年、賃金が全く伸びていない厳しい現実がある。岸田政権の「官製春闘」の実現性が問われる中、ただ値段を上げるだけでは消費減退や売上げ縮小を招く可能性が強い。
食品各社は売価上昇と並行して自社商品やサービスの付加価値を増大させ、購買意欲を喚起する努力も不可欠となる。
●外食も値上げの動き クオリティー維持のために
食材や物流費などの高騰を受け、飲食店でも値上げの動きは既に始まっている。牛丼チェーン3社は、昨秋から主力商品を40~60円程度値上げした。丸亀製麺は、看板商品の「釜揚げうどん(並)」(290円)や「丸亀うどん弁当」(390円~)は価格据え置きとしたが、うどん6品は1月から20~30円値上げしている。ミスタードーナツも3月からドーナツ、パイ、マフィンなど、イートイン価格で11円ほどの値上げを予定している。
飲食店は現在、苦境に立たされており、顧客離れのリスクから値上げに躊躇する店は多いだろう。しかし、原材料の高騰、「安すぎる日本の外食」に対する将来的な懸念など、消費者の理解は確実に深まりつつある。クオリティーの高い料理とサービスを維持するためにも、体力を削ぐばかりの低価格競争から脱却し、「適正な価格への改定」に踏み切る決断が今、必要だ。この決断こそが、店はもちろん顧客、そして今後の外食産業においても必ず利する結果となるはずだ。