外食の潮流を読む(97)誰にもまねできない手作り餃子が、人気でコロナ禍でも出店加速する

2023.07.03 533号 11面

 『ミシュランガイド東京2019』でビブグルマンを獲得した店に「GYOZAMANIA西荻窪」という居酒屋がある。ビブグルマンとは「5000円以下でコスパのよい良質な店」に与えられる評価のこと。若い経営者が独立開業した場合、これを獲得することは大きな誉れであり、飛躍のチャンスとなる。

 同店は「餃子居酒屋」だが、餃子の注文を受けてから皮を延ばしてあんを包むという店内手作りが特徴。焼き餃子、水餃子とも皮がふわりと食感が軽く、肉汁がしっかりと閉じ込められている。こうした工程をとらない餃子とは明らかに違う。

 同店を営むマニアプロデュースの代表、天野裕人氏(41)がこのメニューと巡り合ったのは、前職の外食企業(現エー・ピーホールディングス)で北京事業を担当していた当時。住んでいたマンションの下で営業していた屋台がこのような餃子の調理方法をしていて、それがとてもおいしかった。17年に独立するときにこの屋台のことを思い出した。飲食業のヒット業態はまねられることが多いが、「注文があってから餃子の皮を延ばしてあんを包む」という面倒な調理方法は、まねられることはないと想定。実際にまねる店は現れていない。餃子居酒屋という業態は10年以降急激に増えていったが、この餃子の提供方法は同じ業態でくくられても一線を画している。

 その後、西荻窪の店は19年に引き払って、品川に移転。20年6月に「餃子マニア品川本店」をオープンし、30坪72席の店舗は20~30代の女性を中心に連日にぎわっている。客単価は3100円。焼き鳥、串カツと似たような大衆的な価格であっても餃子の専門性が高いことが、これらの客層から人気を得ている秘訣であろう。

 さらに最近、姉妹店でサイドメニューを3品に減らし、餃子を13種類ラインアップするという実験をしたところ大いに人気を博した。餃子のあんは「塩もつ」「冬瓜」「ラムセロリ」という具合に、特徴のはっきりとした変わりダネを作った。すると「もう一品食べてみたい」という動機が生まれるようで、餃子の注文数が増えて客単価が上がったという。お客から「餃子以外のメニューはないんですか?」と問われると「当店は餃子専門店ですから」と返答してことが足りる。これがまた好感を持たれた。そこで、他の姉妹店でもこの路線を踏襲していくという。店内手作りの餃子の店は、餃子が売れれば売れるほど利益が増えるのが特徴だ。

 同店のこの仕組みはコロナ禍において、大いに発揮された。同社の店舗数は現在23店舗(直営6店舗、FC17店舗)となっているが、20年6月から23年1月までの間に19店舗を出店、うち16店舗がFCである。しかもそのほとんどが地方都市の加盟店だ。誰にもまねられない手作り餃子の専門店がコロナ禍にあって救世主となった。同社では今年FC店舗を10店舗増やして、来年には餃子のセントラルキッチンを作り、餃子の卸業に進出していきたいと考えている。

 (フードフォーラム代表・千葉哲幸)

 ◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。

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