外食の潮流を読む(100)「揚州商人」の2代目社長が放つ創業者のオーラは社風創りの現れ

2023.10.02 536号 10面

 中国ラーメン「揚州商人」というチェーン店がある。東京エリアに37店舗(2023年7月末)展開していて、店頭にラーメンのサンプルが三十数個ずらりと陳列、店内はかつての中国の路地裏にあった飲食店のイメージ。「中国料理のラーメン」をうたうラーメンは1杯1000円ちょっとで、エンターテインメントが存在している。このラーメンチェーンの業績がいまコロナ前の130%で推移しているという。

 同チェーンを展開しているのはホイッスル三好(本社/東京都杉並区、代表取締役社長/三好一太朗)。同社は、現社長・一太朗氏の父である三好比呂己氏が1990年4月に設立した。三好創業者は起業家の家庭で育ち、父から家業である中国料理店を継承することを期待されたが、家族から離反した。そして、88年にラーメン店の「活力ラーメン元氣一杯」を千葉・稲毛海岸にオープンして、ラーメン店を展開するようになった。

 「揚州商人」は90年に弟から譲渡されたもの。それが今日のワンダーランドの業態に育っていったのは、90年代に巻き起こった「ラーメンブーム」がきっかけとなった。「全国のとてつもないおいしいラーメンが身近に食べられる時代になる」ことを察知した三好創業者は、家業である中国料理にヒントを得て、中国に渡って“個性的なラーメン店”のアイデアを探った。それが今日の「揚州商人」の源流となった。

 さて、筆者は6月末、三好現社長に取材をする機会を得た。三好社長は86年6月生まれの36歳。若い2代目社長である。三好社長は幼少の頃から父の店に親しみ、父の事業をリスペクトして、15歳で父に事業を継承することを宣言したという。

 私はこの度初めて三好社長と面談したが、いわゆる「2代目社長」のイメージをみじんも感じなかった。むしろ「創業者のオーラ」を放っていた。

 三好社長は大学卒業後、9ヵ月間ホイッスル三好を支援するコンサルティング会社に勤務。その後、ホイッスル三好に「社長室付」の肩書で勤務した。三好創業者(当時社長)から言われたことは「毎週全店を見て回れ」ということだった。その通り、三好社長は毎週全店を回り、客席に座って店内を見渡して気づきを考え、休憩室では「何が問題だと感じているか」と従業員と膝を詰めてコミュニケーションを交わした。改善するべきポイントは早急に行った。

 外部からの人材採用も積極的に行った。従業員のモチベーションを高めるために年1回アワードを行い、優れた従業員を表彰した。社内行事や研修スケジュールを緻密に組み立てて、自ら講師となって全体をけん引。そして、女性の育児に関わる費用を保障する制度をつくり、外国籍人材を起用するなど多様性を尊重する環境をつくった。同社には公式YouTubeがあり、三好社長が司会を務めて楽しい職場を発信している。

 三好社長が放つ「創業者のオーラ」は、自ら社風を築き上げていることによって現れているのだろう。

 (フードフォーラム代表・千葉哲幸)

 ◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。

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