外食の潮流を読む(101)インバウンドの多い店で生じている客数が増えるプラスの循環
以前、この連載でインバウンド対策に熱心に取り組んでいるKUURAKU GROUP(本部/千葉県船橋市、代表/福原裕一)を紹介した。代表の福原氏はインバウンド復活の兆しが見えてきた昨年の中ごろから、前月の来店状況を毎月フェイスブックに投稿している。同社が国内で15店舗展開している居酒屋のうち、都心の7店舗の来店状況だ。これらは銀座、新宿、渋谷にあり総客数で約300席となる。8月1ヵ月間のインバウンド来客状況は次の通り。
インバウンドの総客数は6636人(42ヵ国)、1日当たり220人が訪れていることになる。国籍別で上位5位は、中国2330人、韓国1434人、米国689人、台湾364人、香港362人となっている。インバウンドの比率が多い店の上位3位は、1位が「串焼きビストロ福みみ銀座店」でなんと80%、そして「串焼きビストロ渋谷店」44%、「串焼きビストロ福みみ銀座コリドー店」40%と続く。
これほどインバウンド客に知られている要因だが、コロナ前はさまざまなレビューサイトを見て、点数が高いから来店していた例が多いという。コロナが落ち着いて以降は「グーグルマップ」を参考に来店する事例が圧倒的に多くなった。「点数が高いことから店にやってきて、良い印象を得たから高い点数を付ける」といったプラスの循環が起きているようだ。
同社がインバウンドに対して心掛けていることは以下のようなこと。
まず、日本にやってきて「現地の人に人気の店を体験したい」と思って来店していることから、インバウンド用のメニューを用意せずに、日本人も見るメニューに日本語、ローマ字、英語、中国語を併記するものに統一した。インバウンド用の別刷りメニューで対応すると、中には「差別されているのではないか」「インバウンドには頼めないメニューがあるのではないか」といぶかしがる人もいたという。
また、インバウンドのお客の中には「日本語を使って日本人とコミュニケーションを取りたい」と思っている人もいることから、こちらから「こんばんは」「ありがとうございます」と簡単な日本語はそのまま使うようにしている。
そして、インバウンドのお客は居酒屋について「いろんな料理をシェアしながら楽しむ店」という認識を持っている人が多い。日本人のように2時間程度ゆっくりと時間を過ごす人は少なく、食事を終えたら1時間程度で退店する人が多い。そのために、料理の提供スピードは日本人のお客より速いことが好まれる。この違いを知った上で臨機応変に対応している。
お客の国籍を聞き出すタイミングは、最初に質問すると「差別されているのでは」と思われて警戒心を抱く人もいる。そこで、食事が終わったころの「How’s everything?(いかがでしたか)」と話しかけるタイミングで聞き出すようにしている。
このような熱心なインバウンド対策の積み重ねから「インバウンドに強い店」として進化を続けている。
(フードフォーラム代表・千葉哲幸)
◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。