百歳への招待「長寿の源」食材を追う:ウナギ
水辺が恋しい季節だ。今回は、そんな水中に育つ生物の中から最も生命力の強いものを2点。うなぎ、かきとも世界中で獲れ、食されているが、極めて日本人好みの食味・食感を持つ食材だ。肉質が柔らかい一方で栄養素は豊富。高齢者世帯の食卓にピッタリのメニューといえる。
(食品評論家・太木光一)
うなぎは昔から精力増強に効くと信じられ薬用料理(現在でいう栄養料理)として奈良時代から食べられていた。しかし江戸初期までうなぎを食べることは駕籠(かご)にのるのと同じで大名なみのぜいたく品であった。
イタリアでは、日本の歴史よりも古く四〇〇〇年前のローマ時代からアドリア海北部の干潟で大がかりなうなぎ養殖が行なわれていた。この分布は世界的で北はノルウェーから南は南アフリカの南端まで、特にヨーロッパ、アフリカ、インド、中国、北アメリカ、日本などで多く食べられている。
食べ方で日本は蒲焼き、白焼き、八幡巻き、雑炊、茶漬、酢の物など。欧米では赤ワイン煮、スープ、くん製、サンドイッチなどとなり、食べ方は全く異る。
日本の調理法の人気者は蒲焼きで、この味は焦げ味にあり、単にたれの風味だけでなく焦げて煙で燻されて味は一段と良くなる。幅広い人気を持つ食品といえよう。
養殖うなぎは日本で発達をみせ、露地池中心であったころは静岡、愛知、三重が中心産地であったが、ハウス養鰻になって愛知、鹿児島、宮崎などと移動した。最近では気候が暖かく労働力の安い中国の広東省が適地となり、うなぎ養殖から蒲焼生産、冷凍パック詰までして日本に輸出。年間の輸出量は一〇万tに近い。
流通する蒲焼きの約七〇%は中国、ついで台湾産と変わった。そして日本向けであった蒲焼きも鶏肉や豚肉と較べて割高であるが、豪華な宴会メニューには加えられ、中国でも次第に蒲焼きが食べられるようになってきた。
うなぎの成分で優れているのは、ビタミンA効力が抜群。蒲焼きでは一〇〇g中五〇〇〇国際単位、特に肝は蒲焼きの三倍のビタミンAを持っている。
ビタミンAは目や皮膚、粘膜を健康に保つのに役立つ。また不足するとかぜを引きやすくなる。一日の必要量は蒲焼小三分の一ぐらいで十分である。
A以外にビタミンB1、B2も多く含まれている。強壮作用を持つEも豊富。特に微ミネラルの亜鉛も目立っている。その他うなぎの脂肪には頭を良くするといわれるDHAが含まれ、体力・知力・若さの増進に役立つ。
老人の脳血管型の痴呆症にも効果的。DHAをコンスタントに補給している老人には、アルツハイマー型痴呆症で死亡する人が少なく、アルツハイマー型痴呆症で死亡した人は脳のDHAが少ないことも判明してきた。
たんぱく質も豊富でしかも良質。牛肉や豚肉よりも比率が高く優っている。動物性食品に多くみられるコレステロールも少なく卵黄の五分の一、すじこの三分の一以下である。
天然うなぎは歯ざわりがしっかりとして軽い油の味で風味があり美味。しかし流通量は激減。養殖うなぎが主流で味の点では落ちるが、輸入の活鰻やうなぎ調整品が激増し原料事情は一変した。
価格は高く安価見込みは全くない。