ロシア的健康法 いまも生きる多様な民間療法 科学的根拠も!おばあちゃんの知恵

2003.12.10 101号 2面

ロシアは、ソビエト連邦崩壊に伴い誕生した共和国の一つ。旧ソビエト連邦の面積の四分の三、人口の約半分を占めている。急速な経済発展にともない生活にもあらゆる変化が現れている一方、長い年月をかけ編み出されたおばあちゃんの知恵・民間療法が、いまも息づいている。現代日本人に薄れつつある自活自衛の精神、厳しく長い冬を乗り越えるためのロシア人の生活の知恵について聞いた。

◆タチアナ・ボルコフスカヤさん

モスクワの中心部に在住のタチアナ・ボルコフスカヤさん(五八歳)は、「日本に住む二人の孫が可愛くてしかたない」と語るうら若きバブシカ(おばあちゃん)。モスクワ大学に勤め、母(八〇歳)と同居している。

「いまモスクワでは医療事情も改善しており国営病院以外にも私設医院や訪問医が増えています。風邪くらいだと医師はたいした治療をするわけでもなく『大丈夫、一四日後に治ります。さもなければ二週間すれば良くなっているでしょう』と言うんですよ(笑)」。時間が薬という訳か。「私が子供の頃、風邪をひくとバブシカが、蜂蜜入りの温めた牛乳を飲ませてくれました。野菜の蜂蜜漬けも食べました。お茶もよく飲みました。“頭が良くなるお茶”とか症状に合わせて自分でハーブティーを調合するんです。

私も同じように息子たちを育てたし、日本に住む孫たちにも伝えたいですね」と微笑んだ。

◆コマロフV.N.さん

ロシアの医療関係者・研究者・企業などで構成する「植物療法研究会」の会員でもあるコマロフV.N.さん(東京在住)は、モスクワ生まれのモスクワ育ち。「学者が集う研究会でも、バブシカの知恵はベースにあります。バブシカからママへ、ママから娘へと受け継がれてきた習慣には、いま分析すると確かに科学的根拠があった」と語り、子供の頃体験した家庭の療法や行事を教えてくれた。

風邪気味の時はまず蒸気式サウナの「バーニャ」に入ります。汗を流すと病気も出ていってしまうと。風呂上がりには羊のムートンを布団にして寝るとぐっすり眠れ、翌朝はもう元気。ビタミンCたっぷりの植物を食べるようにも言われました。ローズヒップのお茶や殺菌作用もあるクランベリー(ツルコケモモ)のジュース・ジャム、マリーナ(エゾコケモモ)のジャムなど。これらの実には、免疫力を高める蜂蜜を合わせます。

病気の後、シベリア人参のエキスを飲まされたことも。これも免疫を高めます。考えてみると、こうしたハーブや生薬はいつでもどこでもありました。食べ物が不足した時でも。タイムを咳止め・ぜんそく治しにお茶代わりに飲んだり。どこの家のキッチンにも、アロエの鉢植えがあって、風邪のときは葉の絞り汁にレモンと蜂蜜を加えて飲んだり、便秘の時は葉をそのまま少し食べたり。そうそう、アロエは別名「ストレートニック」と呼ばれますが、これは“百歳”の意味です。「一〇〇年に一度しか花を咲かせないから」と、「常食していると一〇〇歳まで元気でいられるから」の両方の意味があるようです。

お正月には森からモミの木を切り出して、必ず家に飾ります。デコレーションもしてね。フィトンチットのおかげで風邪をひかないので二~三週間そのままにします。12月31日の夜、マロース(極寒)おじさんとスネグローチカ(雪娘)が登場し、子供たちにプレゼントを配る。大人たちは友人・知人と集まってにぎやかに過ごします。どんなにごちそうを食べても、ビーツで作ったボルシチを少し食べればお腹がすっきりします。ビーツのペクチンの働きで消化が進み、シスチンを身体から流すからです。

◆まだまだある!ロシアの民間療法

ロシアの民間療法は実にさまざま。日本人におなじみのあの食材が意外な使われ方をしていたりしてビックリ! あなたもトライしてみない?

〈風邪〉

・ウオッカにコショウを入れ飲んで寝る

・生のアロエ少量を他の物に混ぜて食べる

・生のニンニクを食べる…黒パン・塩・生ニンニク3個(スライスする)でオープンサンドを作る。ウオッカ(ショットグラス3杯)を一気飲みしてはオープンサンドを食べ…を3回以上繰り返す。

・レモンを食べる

・ミルクティーを飲み続ける

・蜂蜜をたっぷりなめて寝る

・真冬でも窓を開けて寝る(予防)

・白樺の若枝を束ねて、ロシア式蒸し風呂(バーニャ)で温まった身体を叩く(予防&血行促進)

〈喉が痛い〉

・蜂蜜入りの紅茶を飲む

・コケモモの砂糖煮をなめる

・モミの精油を湯にとかし、湯気を吸い込む

〈鼻炎〉

・ジャガイモを丸ごと水からゆで、湯気を鼻から吸いこむ

・モミの木のマツカサを煎じたものを鼻に点滴する

〈解熱〉

・沸騰させた酢に浸した靴下を履いて寝る

〈身体を温める〉

・ウオッカを皮膚に擦りこむ

・からし温湿布…厚い紙にからしを塗って乾燥させたものが市販されている。熱が出た時などに湯に浸して戻し、胸や背に貼る。タオルをまいてパジャマを着てむせ返るようなアロマに包まれ眠る

〈胃を守る〉

・サーラ(豚の脂身の塩漬け)を、ウオッカのつまみにする

〈関節炎・痛風〉

・モミの木の若い枝で作った入浴剤を風呂に入れる

〈美顔〉

・ウオッカで洗顔したり、パックする

・ローズヒップジュースを飲む

〈アトピー性皮膚炎〉

・油で薄めたモミ精油を皮膚に塗る

〈疲労回復〉

・シベリア人参の根を煎じて飲む(高血圧にも)

・白樺の樹液ジュースを飲む(皮膚病にも)

〈下痢止め〉

・白樺を活性炭にして、その粉を飲む

〈その他〉

・ウオッカを真冬の車の窓拭きに使う(凍結防止)

◆フクースナ(おいしい)ほっかほかボルシチレシピ

『ボルシチ』はいわばロシアの味噌汁。家の数だけレシピがあるという。抗酸化成分など滋養豊かなビーツ(赤かぶ)を使う。一般には牛肉も入るが今回は野菜だけのヘルシーボルシチをタチアナさんが教えてくれた。

〈材料8人分〉

・キャベツ……1/3個

・ビーツ…………1個(缶詰なら4個)

・ジャガイモ……2個

・タマネギ……1/2個

・トマト…………1個

・ニンジン……1/2本

・ニンニク………1片

・トマトソース…3カップ

・サラダ油………大さじ2

・スメタナ(サワークリーム)……………大さじ2

・ローリエ……………1枚

・黒コショウ…………5粒

・塩………………小さじ1/2

・レモン汁………小さじ1/2

・ウイキョウ…………適量

〈作り方〉

(1)鍋に2.5リットルの水、皮をむいたジャガイモを丸ごと、乱切りにしたキャベツを入れ、火にかける。

(2)フライパンに油をひいて、細かく刻んだタマネギ・ニンジン・ビーツを3分炒める。皮むきし乱切りにしたトマト・トマトソース・サワークリームを加え、5分弱火で炒める。

(3)(1)のジャガイモが茹であがったら火をとめ、鍋の中でマッシャーでつぶし(2)を鍋に入れる。

(4)つぶして塩をもみこんだニンニク・黒コショウ・ローリエ・レモン汁を入れて再び火にかけ、沸騰したらできあがり。仕上げにウイキョウを散らす。

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら