丑年健康始め、3大陸世界ミルキーウエー紀行 マサイ族
“丑年健康始め 世界ミルクの旅”を案内してくれるのは、昨年10月号に引き続き、京都大学人間環境学研究科大学院教授、家森幸男氏。家森氏らWHO(世界保健機関)の世界健康調査隊は“長寿”“元気”に折り紙がつくそれぞれの地を訪ね歩き、地球のあちこちで牛乳パワーが大活躍していることを発見していった。(調査が行われたのは八六~八九年)
アフリカはキリマンジャロのふもと、シンヤ。周囲にかろうじてわずかな草が生えているこの土地に住むマサイ族は、まさに牛とともに暮らしている。男たちは、朝の4時ごろに起き砂漠や草原を一日中牛を追って駆け回る。女たちは牛の乳をしぼる。そして牛糞(ふん)と泥を集めてぼーまという家をつくる。
この男女が結婚するための儀式というのがたいへんなのだ。まず男性たちが槍を持ったまま垂直ジャンプを競う。そして一番高く跳べた人から、お嫁さんを選ぶ権利を持つ。
選ばれる女性たちは、胸もあらわな格好で踊りながら声がかかるのを待つのだが、やはりこれも体格のいい、胸の立派な女性から選ばれていくという。何ともきびしい実力主義、体力主義のお見合いだが、過酷な自然環境で生活し、強い子孫を残していくための伝統的な儀式であることが推察できる。
さて、そのマサイ族のゆるぎない元気のもと、たんぱく源がミルクなのだ。キブユというひょうたんに入れて持ち歩き、一日に三~一〇リットルを飲むという。食物繊維は、物々交換で手に入れたうがり(穀物)で摂る。これを、ミルクに入れ、オートミール状にするのだ。
周囲は砂漠なので、野菜や果物はない。ビタミン類はどうやって摂取するのかと思うが、これがびっくり。小型の弓で牛の首めがけて射った矢から得た牛の生き血をミルクの入ったひょうたんに入れるのだ。こうして新鮮なビタミン、鉄分を摂る。
それにしても、毎日一〇リットルのミルクはちょっと飲み過ぎだし、脂肪の摂り過ぎではないか、これステロール値は大丈夫? と心配になる。ところがマサイ族の血中コレステロールは低く、理想的。
このからくりは、マサイ族が塩分をまったく摂っていない(正確には牛の血に含まれる塩分しか摂っていない)ことにある。塩分が少なければ、脂肪を静脈まで運ぶリンパ液が増えない。これならコレステロール値が高くならないわけだ。
マサイ族の 元気の秘訣
▽良質のたんぱく質であるミルクを大量に飲み、高血圧を防ぐカルシウム、カリウムも得ている。
▽ミルクはひょうたんに入れて発酵させて飲む。ミルクにない食物繊維は穀物を混ぜる、鉄分やビタミンは牛の生き血を混ぜるというスタイルで補給する。
▽世界一塩分の摂取量が少ない、といわれるマサイ族である。