滋味真求:技の冴え うどんの名店錦園(埼玉・大宮)

1998.02.10 29号 18面

松も取れ、春ウララと思ったのもつかの間、冬将軍の来襲であたり一面の雪景色。吹雪をついて幻のうどん屋“錦園”を埼玉県は大宮市郊外に訪ねてみた。なぜこの店が幻のうどん屋かというと、昼飯時、つまり正午頃うどんを食べに行っても「ヘイ、今日は終わりました」といわれることがあるから。旨い! と評判のうどん屋だが、いつ行っても食べられないというところが、幻のうどん屋“錦園”の所以とのこと。

場所は大宮市郊外の荒川・治水橋ほとり、というたいへんへんぴな所にある。店と隣接している大宮CCのゴルフ客が土手伝いに店に来るため、土手が踏み固められ、錦園通りが出来たという何とも伝説的なうどん屋なのである。先客はすでに四組いた。

天ぷらうどんと鴨南うどんを食べてみたが、これがまた見事な出来映え。うどんはコシがしっかり歯ごたえがある。汁もダシ、醤油、みりんとの調和も良く、天ぷらはごま油で切れが良い。合鴨も滋味深く、現在これだけの仕事の出来る店が東京都内にどれほどあるだろう。

店主の松本晃さんに伺うと、東京で修業した先代が三十数年前この地で開業し、その後を継いで三○年、ひたすらうどんを打ってきたという。昔は一日に八○食もうどんを打ったものだが、いまは四、五○食が限度とのこと。お客が来るたびにうどんを玉から切り、茹でるので、いつも出来たてのうどんが食べられる。

また調理場からお客の様子が見えるので、それを見て、つゆの味かげんをするという。昔の名料理人は客の履物を見て味かげんをした、という話を聞いたことがあるが、現在でもこんな料理人がいるとは稀有なことである。「地元の人なら、うどんの出来が多少悪くとも、また明日ということができるが、九割方遠方から車で見える来客なので、一回出来損なったらそれで終わり、毎日が真剣勝負だよ」と店主は淡々と話してくれた。

これでは昼頃行って「ヘイ、今日は終わりました」といわれても仕方がないかもしれない。とにかく開店の午前11時に合わせ、早めに行くこと。看板ひとつ出ていない店であるから、大宮市の荒川・治水橋際、と覚えておくと便利。

天ぷらうどん八○○円。鴨南うどん九○○円。釜揚げうどん七○○円。もりうどん六○○円。鴨鍋一人前一八○○円。席はすべて座敷で四○席。営業時間・午前11時から。休日・水、木曜日。住所・埼玉県大宮市飯田新田一三六。電話048-624-4523。

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