百歳への招待「長寿の源」食材を追う 「コイ」豊かなタンパク源

1998.06.10 33号 14面

アユとコイは日本を代表する淡水魚。ともに古くから食べられ、日本人のスタミナの給源とされてきた。淡白さが身上。おいしく、しかもヘルシー、長寿食品としてもお勧めである。

(食品評論家・太木光一)

コイはコイ科の淡水魚で原産地は中央アジア。いまではアジア・ヨーロッパに広く分布する。北アメリカやオーストラリアにも移殖されて野生化している。食用となるのは身体が緑褐色のマゴイで、マゴイのうち天然に棲息しているものを野ゴイ、養殖しているものを養殖ゴイと区別している。

コイは口辺に二対のヒゲがあり全長は普通六○センチほど、最大で一メートルに成長する。寿命は長く一五年ぐらいは生き、飼育されているものには五○~六○年くらい生きるものもある。

淡水魚の中で最も豊かな味を持ち、ゆうゆうと遊泳する姿は観賞に値する。日本では室町時代に、コイ料理は最高のものとして諸大名の間で人気を高めた。昔から儀式魚として、タイとともに式包丁の材料とされ、タイを大位、コイを小位と並び称していた。また最後の潔さが武士道と相通ずるところから格式の高い魚とされてきた。

中国でもコイは「鯉魚(リュイ)」と呼ばれ淡水魚の王として祝宴に欠かせないものとしており、特に出世魚として喜ばれている。これは黄河の上流に龍門という滝の瀬があり、多くの魚はここを登ろうとして死ぬ。コイだけはこの龍門に登り、龍に出世するといわれ登龍門の言葉が生まれた。男子の節句にコイのぼりをあげる風習は男子の出世を願う気持ちを表したものである。

日本のコイの養殖は江戸時代から始まり、信州佐久地方は有名である。田植えをした水田に稚魚を放ち9月末に一○センチぐらいに育った幼魚を誘い寄せて池に入れ、翌年も同じように水田に放つ。そして三年後には八○センチ程度に育ったコイを出荷する。

頭が小さく肉がしまり味が良いと人気が高いのは、佐久地方の豊富な沸水と千曲川の冷水による。現在では福島・山形・群馬・山梨・岐阜ほかの諸県で盛んに養殖がみられる。

コイ料理は生きたものを用いるのがコツ。下ごしらえして頭を落とし胆のう(苦玉)をつぶさないように取り除く。日本料理ではあらい・生け作り・コイこくなどが代表的。これらは味噌を用いるが、川魚特有のにおいを消すのに効果的である。このほか甘露煮・塩焼き・照り焼き・丸揚げなどに利用される。またヨーロッパなどではワイン煮などが喜ばれている。

人気料理のあらいは、三枚におろし皮をのぞき小骨を抜いて薄いそぎ身につくり、氷を入れた冷水でふり洗いする。身がしまり、はぜるような状態になるが、味は淡白で酢味噌がよく合う。コイこく鯉濃醤(こいこくしょう)の略で、丸のまま筒切りにし赤味噌を濃い目に仕立て時間をかけて煮込む。骨まで可食。中国では糖醋鯉魚で丸揚げコイの甘酢あんかけ、紅焼鯉魚でしょう油煮が代表的。やはり骨まで可食。

コイは美味で豊かなタンパク質の給源。伝統の味はお年寄りの口にもよく合う。元気と長寿を呼ぶスタミナ食としてお勧めする。

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