ようこそ医薬・バイオ室へ アルミ鍋とアルツハイマー
ちょうど昨年の今頃この欄に、「ボケは防げる?」という題で、アルツハイマー病の診断テストとアルミニウムとの関連性について書いた。
実はその頃、朝日新聞が「アルミ鍋を使うとアルツハイマーになりやすい」という記事を四回連載し、軽金属協会から「影響力の高い貴紙が偏った報道をしては困る」と抗議を受けていたのである。そして、10月21日の同紙朝刊に、軽金属製品協会が「アルミ製品でアルツハイマー病になった人は確認されていません」と意見広告を出した。同じ朝日新聞に出すあたり、メーカー側の鼻息の荒さがうかがえる。しかし、アルミ鍋の注意書きを見ると、「酸やアルカリのものを煮ない。底を強くこすらない。一昼夜以上食品を入れておかない」などと書いてあるので多少は気にしているのであろう。トマトなどの野菜を煮ると大抵酸性になるので、あまり好ましくないようである。
ここで、最近出た黒田洋一郎著「アルツハイマー病」(岩波新書)を参考に、アルツハイマー病について簡単に説明すると、現在のわが国の痴呆性高齢者数は約一三〇万人で、その半分がアルツハイマー病患者といわれている。脳の広範囲で神経細胞が緩やかに侵されて死んでいき、脳が萎縮して、徐々に記憶や判断力などの知的機能が低下してくる病気である。
発症の機構はまだ未解明だが、一九九一年に遺伝性のアルツハイマー病の遺伝子が発見され、少しずつ手がかりが得られつつある。その遺伝子はアミロイド前駆体タンパク質を作る遺伝子の一カ所に突然変異が入っているものであった。アミロイドというタンパク質がたくさん集まって塊になると、神経細胞に対して毒になることが判明し、このアミロイドの会合をアルミが促進するといわれている。
また、アルミは反応性が高いため、核酸のリン酸等に付着してDNA合成を邪魔したり、基本的には生活にとって毒である。
以前、アルツハイマー病に似た「透析痴呆症」という病気が腎不全の透析患者で起こり、これは透析液中のアルミニウムが原因であった。透析患者のように腎臓が弱っている人では、その腎臓から尿への排出がうまくいかず、アルミが脳にたまったためであった。
で、そのアルミがなぜ脳へ運ばれるかだ。脳は血管脳関門というバリアを持ち、おいそれとは異物を脳へ入れないようにして脳を守る組織がある。しかし、鉄を運ぶトランスフェリンというタンパクはこの血管脳関門を通ることができるのだが、鉄の代わりにアルミがこのトランスフェリンにくっついて脳の中に入ってしまうらしい。アルツハイマー病の患者に女性が多いのは、女性は多くが貧血傾向であるため、鉄の代わりにアルミが脳へ行きやすいからという説もある。
以上のように書くと、いかにもアルミは悪者のように見えるが、実はアルミ以外にも喫煙やストレスなど多くの環境要因があり、因果関係ははっきりしていない。WHO(世界保健機関)などの公的機関では、通常のアルミの摂取は問題ないとしているし、メーカーの集まりである軽金属協会のホームページでも多くの反論を公開しているので、ぜひそちらも参照してほしい。
ちなみに、わが家ではアルミ鍋は使っていないが、母の家では鍋からお玉からほとんどがアルミ製である。年輩の方は昔から軽いアルミ鍋を使い慣れている人が多く、若干気になるところではある。
妻は、
「アルミ缶のビールも減らした方がいいんとちゃう」
と言うが、缶内はコートしてあるし、ビール中のケイ酸がちゃんとアルミの吸収を防ぐので、これは安心と思っている。どうも都合がよすぎると妻は納得していないようであるが…。
軽金属協会HP
http://www.aluminiumhc.or.jp/
((株)ジャパン・エナジー医薬バイオ研究所 高橋清)