世界の元気食 インド編 カレー料理は秘伝の薬食

1996.01.10 4号 16面

インドは薬食の国である。国民すべてにこの感覚は普及し、とくに主婦層は日常の食事で、薬食と菜食の良さをよく知っている。

インドの食生活でカレーを欠かすことはできないが、このカレーが最大の薬食なのである。カレーはインド北部地方のタミール語から転化したものとみられ、本来の意味は汁またはスープを意味する。

カレーには二〇種以上の薬効あふれた香辛料がブレンドされている。代表的なものではカプシカム(唐辛子の一種)、ジンジャー(しょうが)、ブラックペパー(黒こしょう)、コリアンダー、カルダモンとシナモン、クローブ、ターメリック、サフラン、タイム、オレンジピール、マジョーラム、クミン、ケシ、フェンネル、ナツメグ、ローレル、ガーリック、カンゾー、メースほかとなる。

カプシカム、ブラックペパー、ジンジャーは主として辛味を、ターメリック、サフランは色を、その他のスパイスは風味をよくするために使われる。

イギリスのC&B社(クロス・アンド・ブラックウエル)はスパイスの配合の特許を数十も持ち、長い間この市場を独占していたのである。この規格によるとクミン、シナモン、コリアンダー、フェンネル、ジル、カルダモンまたはメースのうち四種類以上を二六%以上含み、香辛料として「ジンジャー、カプシカムまたはペパーのうち、いずれか二種類以上を二六%以上含み、色素としてターメリック三〇%以下、香辛調味料としてオレンジピールなど一八%以下にするとなっていた。

日本がカレーをつくり始めたのは大正13年のことで、イギリスに比べれば歴史も浅く後進性が目立つ。

インドでは国民食としてのカレーは毎日家庭の主婦が各種のスパイスをミックスしてつくるのである。これをガラム・マサーラと呼んでいる。

いく種類もの香辛料を挽いたり、砕いたりして作るが、カレーとは手づくりの母の味といえよう。どんな香辛料をどのような割合で使うかは、それぞれの家の秘伝となっている。その日によって配合を変え、カレー本来の薬食の役割りを果たすのである。

各都市では香辛料を売る屋台がある。これを購入し、余裕のある家庭ではブレンダー(ミキサー)で粉末にする。ブレンダーのない家庭では、チヤッキと呼ぶ石臼で挽くが、専門家として家から家に歩き回る人もいる。

インドにはカレーのバリエーションが数十もあり、ベースとなるガラムマサーラが全く異なり、チキン用、ラム用、卵用、チーズボール用、えび用、魚用、かに用、じゃがいもとグリーンピース用、なす用などすべてそれに適した配合が用意される。

そして特徴として(イ)小麦粉は使用しない(ロ)水を入れない(その代りにヨーグルトやココナッツミルクを)(ハ)生のスパイスを多用(ニ)火からおろす時にレモン汁やヨーグルトを加える(ホ)ギーを使用する‐‐など。

毎日カレーをつくる主婦は、その日の状況によって配合を変える。たとえば、

家族に食欲不振、体調が悪い、胃の調子が悪い、風邪気味である、口臭が強い、よく眠れない、体力が衰えてきた、少し太り気味となってきた、食中毒の気配がする、下痢気味である、妻に対して夫のサービスが不足‐‐などなど。この時に大活躍するのがカレーで、配合を変えることによって目的を達するのである。これが薬食なのである。

前述したカレーに配合される香辛料を増減することによって薬効を期待する。インドは日本のように薬店が非常に少ない(中国も同じ)国だといえよう。

薬効の高い香辛料をみると、

(1)ジンジャー=健胃作用と食欲増進、食中毒防止(殺菌性と抗菌性が強い)、鎮吐作用、風邪防止、発汗と去痰、身体のむくみをとる。女性の冷え症や生理不順によい。

(2)にんにく=疲労感をとる、食欲増進、抗がん効果大、強精、血圧降下、利尿、風邪防止

(3)ターメリック=止血剤、健胃、皮膚病、食欲増進、鼻血止め、切傷の塗り薬

(4)コリアンダー=食中毒防止、健胃、駆風、きのこ中毒によい、咳止め

(5)フェンネル=胃カタル、腹痛、風邪、去痰、矯臭、消化促進

(6)クローブ=口臭止め、歯痛、防腐、防虫、健胃、食欲増進

(7)ナツメグ=催眠作用、消化不良、軟膏、健胃、解熱、駆風、媚薬要素

(8)シナモン=芳香健胃剤、収れん剤、矯臭剤、風邪防止、下熱や血圧降下作用

(9)レッドペパー=溶脂作用による痩身、食欲増進、神経痛や腰痛、ビタミンA・C豊富

(10)カルダモン=催春効果大、健胃、消化促進

そしてこのカレーにつくのが自家製ヨーグルトでライタとよぶものを愛飲する。

各種のスパイスの特性を知り、家族の健康管理をカレーづくりで行なっているのである。

(食品評論家・太木光一)

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