ようこそ医薬・バイオ室へ:年末年始コレステロールと闘う季節

1999.01.10 40号 6面

先日またまた健康診断の結果が届いた。最近みごとに不摂生な生活をしているせいか、コレステロール、中性脂肪、尿酸値ともさんざんな結果であった。昨年から食生活改善運動を地味に展開してきたのだが、誘惑には勝てずに元の黙阿弥。忘年会・新年会シーズンが終わってから節制しようと思う、今日この頃である。

ところで、いま日本で最も売れている医薬品といえば三共製薬の高脂血症薬「メバロチン」であろう。アメリカのメルク社からも同様の薬である「ロバスチン」が出ていて、この系の薬だけで、世界で五千億円の売り上げがあるという。それだけ高コレステロール人が世界中に多いという訳である。日米を中心とした飽食の時代の象徴ともいえるであろう。

簡単にコレステロールの説明をすると、コレステロールは水に溶けないので、血液中では脂質とタンパク質の複合体(リポタンパク)の形で血液中を流れていく。このリポタンパクには比重の軽いリポタンパクLDLと、比重の重いHDLの二種類がある。LDLが肝臓から末梢器官にコレステロールを運んでいるのに対して、HDLは臓器や血管にたまったコレステロールを肝臓に戻す働きをしているので、前者は悪玉コレステロール、後者は善玉コレステロールとも言われている。

で、先の「メバロチン」がどんな薬かというと、短く言えばコレステロール合成酵素の阻害剤である。これを飲むと肝臓でコレステロールの合成が抑制されるので、肝臓内のコレステロールが不足してくる。するとコレステロールを運んでいる血液中のLDLがどんどん肝臓に取り込まれるようになるので、結果血中のコレステロールが減るのである。

一九七〇年代に、三共製薬の遠藤章博士はコレステロール合成を抑える活性を指標にして、ある種のカビからコレステロール阻害剤である「コンパクチン」を発見した。当然、次は動物実験で薬効を試すため、マウスやラットのネズミで試験をしてみると、予想に反して全くこれが効かなった。ネズミに効かないものをそれ以上開発しても仕方がないので、お蔵入りになるところを、ある日ニワトリを飼っている研究者と飲み屋で話していて、ハタと思いついた。

「卵にあんなにコレステロールがあるということは、ニワトリはたくさんコレステロールを作っているはずだ。ニワトリになら効くかもしれない」

早速、メンドリにこれを投与すると劇的にコレステロール値が下がったのである。後で分かったことだが、ネズミはもともとコレステロールが低い動物なので、薬効が顕れにくかったのである。

以降はイヌでもヒトでも効くことが証明されトントンと開発が進んだが、臨床段階で突然「コンパクチン」の開発は中止された。中止の原因は明らかにされなかったが、おそらく何らかの副作用があったのであろう。しばらくして、同じ系の「メバロチン」が発売されたのが一九九〇年であるから、実に開発に二〇年近くかかっている。

で、三共製薬が捨てた「コンパクチン」を元に、メルク社が強力な合成陣にものをいわせて作り上げたのが「ロバスチン」で、この薬は世界で一番売れている薬になったのである。

ところで、病的になってしまった場合は先の「メバロチン」を処方してもらうとして、一般にコレステロール値を下げることは、実は非常に簡単なのである。鶏卵や魚卵系と動物性の肉類を控えて、カロリーを抑えればいいのである。タンパク質は魚か大豆から摂る生活をしばらく送ればスーッと値は下がってくる。私も含めて左党にはこれが難しいのであるが…。

妻は、

「ほな、明日からはお弁当やな」

と言う。おおかたアランジ・アロンゾか何かのキャラクターものの新しい弁当箱でも買ったのであろう。我が家は妻が新しい弁当箱を買うとしばらくは「お弁当」が続くという特徴がある。しばらくは……。

(新エネルギー・産業技術総合開発機構 高橋清)

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