今年五〇回目の誕生日を迎える節目の年に、挑戦し続ける「矢沢永吉」が開いた新しい扉は「映画」だった。二七年間ロックンロールの第一線で活躍してきた矢沢さんが、俳優として映画「お受験」に初主演。音楽シーンでは決して観ることができないもう一つの魅力がこの夏のスクリーンを席巻しそうだ。監督をはじめ、ともに映画作りをした仲間から素顔の矢沢さんについての声を交じえて、パワフルな矢沢永吉さんを紹介する。

「なんといいますか、とにかく走りましたよ。もう、思いっきりね。初日を迎えたいまはもう、嬉しくて。今日のこの日を迎えられたことが本当に、監督をはじめ一緒に出演した仲間とかスタッフに感謝している、という言葉しかないですね」。主演映画「お受験」の完成披露試写会での舞台あいさつで矢沢永吉さんは語っている。

「走る場面が多いといっても映画のテクニックで、ちょっと走るだけでもたくさん走っているように撮ってもらえるのかな、って思っていたんです。でもやっているうちにね、アレ？これ、撮るテクニックじゃどうしようもできないぐらいにリアルに作るんだ。リアリティーっていうのはそういうものではないんだな、と頭の中で分かってきまして。それで走るからには練習をしなければいけない。でも、毎日毎日撮影時間が長いから、走るトレーニングをする時間があまり取れないんですよ。でもね、このまま撮り終わってしまったら、とんでもないことになるな、と思ってやっぱりやりましたね。ない時間の中で時間を作って。それもキツイぐらいにやらないと。凄かったですよ。でもその凄さが映画作りの中で大事なんでしょうね」

パワフルでエネルギッシュなコンサートステージをみせる矢沢さんでも、本格的に走ることは大変なことだったようだ。

矢沢さん演じる富樫真澄が湘南マラソンをラスト・ランと決めスタートを切るシーンは、神奈川県平塚市にある平塚競技場がロケ現場となった。競技場のエキストラはほとんど矢沢さんのファンで埋め尽くされたという。「永ちゃん！」のかけ声にスタッフは拡声器を使って「永ちゃんのかけ声はおやめ下さい。役名は富樫です」と声を張り上げてお願いしたとか。一〇代の若者から子連れの若夫婦、そして中年男性までが、スタンドに詰めかけた。世代を越えたスーパースターを思わせる。

共演者の広岡由里子さんは「矢沢さんと一緒のシーンで、ビッグな方なのにすごく心のきれいな方なんだなぁと、そのことに感動してせつない思いでした」、新人の藤扇里さんは「初めての映画でとても緊張して、最初の頃は目の前が真っ白になってしまいました。でも矢沢さんがとてもたくさんの冗談を言って下さったりして。ステキで、とても楽しい時間でした」と語った。

では映画の総責任者である監督の声。「スタッフや共演者の中にも大勢矢沢さんのファンがおりました。その矢沢永吉主演ということで現場は非常に盛り上がりました。矢沢さんは撮るうちにどんどんステキになってくるんです。だからテストを減らして、とにかくいいテンションで撮ろうと思いましたね。そして結果的にもいい映画が撮れました。現場にも不思議な矢沢パワーを与えてくれましたね。それと、さすが矢沢さんだと思ったことは集中力がすごいんです。これは映画をずーっと通して観てみると、はっきり分かりますよ」。

一九九五年１０月に矢沢さんは写真集「１９４９０９１４　ＴＨＥ　ＬＩＦＥ　ＯＦ　ＥＩＫＩＣＨＩ　ＹＡＺＡＷＡ」を発売。その中で「もちろんつらいこともすごくありました。はっきり言って、悲劇の部分もメチャクチャあったし、失った物もメチャクチャあった・・・。でもね、いまの矢沢、本当にハッピーですよ。それは手放しのハッピーじゃないかもしれない。だけど、オレにとって、いい時代が来たと思うね」。

スーパースターである矢沢さんの人生は確かに成功ばかりではないようだ。米国進出は商業的な成功を得ることができなかった。私生活では離婚と再婚を経験。しかし、「自分で言うのもなんだけれど、いい歳の取り方をしてきたと思う」と語っている。写真集発売から四年が過ぎたが、常に新しいことに挑戦しながら歳を重ねていく矢沢さんは四九歳のいまも「いい歳の取り方をしてるよ」と、きっと言うだろう。六〇歳、七〇歳でも「ＹＡＺＡＷＡ　ＥＩＫＩＣＨＩ」を見せてくれるだろう。

矢沢永吉プロフィル

１９４９年９月１４日、広島県生まれ。７２年にキャロル結成、デビュー・シングル「ルイジアナ」を発表。７５年キャロル解散、同年ソロ・デビュー・アルバム「Ｉ　ＬＯＶＥ　ＹＯＵ、ＯＫ」を発売。７７年初の日本武道館公演を行う。数々のヒット曲を飛ばしながらテレビドラマ出演、サントリーの缶コーヒー「ボス」のＣＭ出演及びイメージキャラクターを７年間務めるなど常に新しいジャンルに挑戦する。