百歳への招待「長寿の源」食材を追う:菱
中国では、菱と栗は薬効が高い食材として古くから食べられてきた。実だけでなく、葉などにも効用があり、利用価値が高いとされる。食べ方もいろいろ、薬材として大いに活用したい。
(食品評論家・太木光一)
菱は池や沼などに生えるアカバナ科の水草。原産はヨーロッパとみられ、その分布は広い。熱帯や温帯では至るところで野生化したものがみられる。品質を改良して栽培しているのは中国とインドだけだ。
菱の字はその角が鋭いことから名付けられたもので、忍者が追っ手を防ぐためにまく鉄菱は、菱の実をかたどったもので、鋭い刺し針を持つ菱も同じ目的に使われていた。
中国では歴史も古く三〇〇〇年前の周の時代に遡り、食べられていた。現在の主産地は湖沼の多い中部地区で江浙両省が最大の産地。品種も南湖菱ほか極めて多い。日本でも全土にみられオニコ、ツージ、ミズグリなどの別名を持ち、古くから食べられ人々の貴重な食べ物となっていた。
菱の利用法は、若いうちは果物代わりに生食するが、渋味は全くみられない。秋に熟した果実は茹でたり蒸したりして食べる。皮をむいて煮物や炒め物にしたり、砂糖煮にして保存食にもされる。また干して粉にひき、団子や餅にする場合もみられる。採期は7~9月。成分的にはタンパク質・カルシウム・鉄・カリウムをはじめビタミンB2・Cなどもみられ漢方薬材としても貴重。
菱の薬用効果は多方面にみられ、減肥健美作用が大きいとされている。漢薬書「斉民要術」によれば、菱は養神強志・除百病・益精気に効果がみられ格好な滋補品としている。
著名な薬学者、李時珍によれば、補脾胃・強股膝・健力益気に対し効果が期待されると称賛を惜しまない。一般的に、菱の実の粥は胃腸を益し、内熱をとるのに効果が大きいとされる。このため高齢者に愛用することを勧めたい。夏場に食べれば去暑・解毒の効果も期待される。
菱はがん細胞の変成や増殖を防ぐのに効用が認められ、抗がん食品ともみられている。日本の医学界の報道によれば、食道がん・胃がん・子宮がん・乳腺がんに効用が認められるとしている。
中国の粥食治百病によれば、胃がんと乳腺がんによく、胃がんには菱玉竹粥が勧められている。処方として菱一五グラム、竹玉一五グラム、訶子九グラム、紅花三グラム、粳米一〇〇グラムを用意。薬剤四種を水煎しコメにいれ煮粥を作る。また乳腺がんには菱〓米粥が勧められ、菱一五グラム、紫草根一五グラム、白果一五グラム、〓米三〇グラムを用意。紫草を水煎し薬液をとり、粥を作る。ハチミツを加えて食べやすくしてもよい。
中薬大辞典によれば、抗がん作用の優れた薬剤とみている。そのほか解毒・強壮薬として勧められている。また菱の実ばかりでなく葉・茎・でんぷん・さやなども同様の薬効があるとみている。特に菱の含有するでんぷんを原料として美酒が作られているが、薬酒ともされている。このほか純アルコールやブドウ糖も作られている。民間では酒毒をとり二日酔いにも効くとされ、誠に効用大の薬果と呼べる。