“新生雪印”に消費者の視点を 雪印乳業社外取締役に就任した日和佐信子さん
「ここは引けないという時はがんばりますが、それはだいたい行政と“ケンカ”する時ですね」。お会いすると穏和な語り口、上品で優しそうなのに、とても行政と“ケンカ”するような雰囲気は感じられない。日和佐信子氏は、生協の理事や消費者団体の事務局長を務めるなど消費者活動を長年経験。BSE(狂牛病)発生時には、今後の食品安全行政がどうあるべきかについて、農水省や厚生労働省の縦割り行政を問題視し、その改善に取り組んできた。そして今年6月、それらの経歴を生かし、雪印乳業(株)の社外取締役に就任。信頼回復に向け再生を進める同社に消費者の厳しい視点をどのように生かしていくのか聞いた。
なぜ、雪印乳業の社外取締役を引き受けたかについてよく聞かれます。NPO(民間非営利団体)の株主オンブズマンという組織があり、さまざまな企業活動を正常にさせるために株主提言しています。今回は、雪印乳業が健全な企業として再生してほしいということで、(1)社外からチェックできる委員会の設置(2)委員長は社外取締役として消費者代表が就任(3)委員会での議論は社内で実行‐などを提言。雪印側とも考え方が一致。消費者団体が推薦する委員が条件だったので、私に声が掛かりました。そして、岡田晴彦・前副社長の熱心な誘いで「本気だ」と感じて決心しました。
でも、引き受けるに当たって「はい、そうですか」とはいきません。条件を出しました。第一に、委員会の提言を受け入れること。第二に、私は消費者問題にずっとかかわってきましたので、言動に制約をしてほしくない。第三に、一歩離れたところで雪印を見るのが役割の一つですから、雪印の人間にはなりませんよということ。最後に、デメリットの情報もすべて開示していただきたいということを申しました。条件はすべて受け入れられました。
現在、企業倫理委員会を設置し、月一回のペースで開催。メンバーのうち三人は社内、あと五人は外部。社内メンバーを入れたのは、仰々しく提言としてまとめる必要がない議論でも、すぐ社内に生かしていただくためです。
食品の安全は、「生産から食卓まで」管理しなければならない。そういう意味で、雪印乳業は食品メーカーとして信頼と安全性を確保しなければなりません。そこで、表示の問題が一番大きいと思います。最近ではスーパーの生鮮食料品売り場でトマトなど“完熟”という言葉を使ってない店があるとか。雪印も任意表示を全部見直していくつもりです。最終的には独自の表示自主基準を作る。実は消費者への信頼回復方法は、そういうことの繰り返しだと思うんです。そして、安全な食品を供給していく。あと「おいしさ」ね。最近は、機能を付加した食品が増えているけれども、やっぱり基本はおいしくなくっちゃね。
私も現場を見るため北海道の工場は全部回った。その範囲でいうと、工場のラインで問題があるということはあり得ないんです。現場の職員はものすごく真剣にやっています。みんなが自信をもって言います、「うちの工場からは絶対に問題商品は出しませんよ」と。現実はよくわかりました。現場の地道な努力は世の中にあまり知られていない。“雪印”ってすごく悪徳メーカーみたいなイメージがありますが、一昨年の食中毒以降、食品メーカーとしてシステム化を図り、マニュアルも新たに作るなど仕組み作りはできています。これから、全国の工場を回て見るつもりです。
◆プロフィル
日和佐信子(ひわさ・のぶこ) 1936年10月13日生まれ、東京都杉並区出身。59年早稲田大学卒。大学時代は演劇のプロデュースに没頭。卒業後、劇団には入らずアルバイトをしながら芝居の演出をしていた。アルバイトはNHKの教育番組で紙芝居などの声の出演などを1~2年経験、徹夜の日々が続いたという。その後結婚し子供ができたため、主婦業に専念。「若い時は時間があったから家庭菜園をしていた」が、着色料などの食品添加物問題や大量生産広域流通が始まった時に生活協同組合が発足し、74年に組合員となった。85年都民生協(現コープ東京)理事、87年東京都生活協同組合連合会理事、89年日本生活協同組合連合会理事、97年全国消費者団体連絡会事務局長。02年6月雪印乳業(株)社外取締役就任。BSEで報告書を書いた関係で講演を頼まれることが多く、月の半分は講演の日々。