百歳への招待「長寿の源」食材を追う:半夏
半夏(ハンゲ=カラスビシャク)と苦木(ニガキ)はともに日本全域に分布し昔から親しまれている薬木である。いずれも効能が高い。中国でも全土に分布する。前者は鎮咳・止吐ほか広く使用されているが薬茶として愛用され、価格も安く庶民性の強い薬食材である。苦木はニガキ材として天秤棒などにも利用されているが、中国では薬効を高く評価している。家庭薬や薬用酒にもされ、ファンの多い薬材だ。
(食品評論家・太木光一)
半夏はサトイモ科の多年草で生命力が強く日本全域に分布。朝鮮半島や台湾をはじめ中国でもほぼ全域に生育する。中国では「バンシャオ」と呼ばれている。
小草木で高さは一五~三〇センチほど。性状は強く路傍や畑地にも群生する場合もみられる。専用の耕地に栽培されたものは生薬として重要だ。中国では四川・江蘇・河南・浙江ほか多くの省で産出。うち四川省が最大だ。
薬材としての半夏は、秋に入り直径一センチほどに成長し9月ごろから採取し、よく洗浄して摺子木(すりこぎ)でこすり外皮をはぎとる。この周辺は根のあとが散在。切断面は白い粉末性。
品選びとして、真白く充実したものが良品。湿気を嫌うので、貯蔵には特に注意が必要だ。
効能は高く、『中薬大辞典』には五ページにわたって詳述されている。効能として(1)鎮咳(2)止吐作用(3)解毒作用をはじめ、つわり・消化不良・頭痛・不眠などに効果が期待される。
性状として、特有のえぐ味があって単独では飲みにくい。薬効として優れたものがあるため、ミックスして利用されている。特に生姜を加えると飲みやすくなる。この代表が「小半夏湯」だ。半夏八グラムと生姜五グラムに水〇・五リットルを加えて、煎じながら約半量まで煮つめたものをこして一日数回ずつ冷やして服用する。これが有名な「半夏厚朴湯」で、鎮咳と鎮吐に対して卓効がみられる。
つわりの吐け止めにもよいが、さらに茯苓(ぶくりょう)を加えたものは「小半夏茯苓湯」となり効果は大きくなる。用量は半夏、生姜各六グラム、茯苓五グラムの割合。
「小柴胡湯」は柴胡七、半夏五、生姜四、黄苓大棗・人参各三グラム、甘草二グラムを半夏厚朴湯の要領で作る。
肺炎で熱が続き、胸部が重苦しく、咳や呼吸がそれほど激しくない病状の時に用いるとよい。
「小青龍湯」は半夏六、麻黄三、芍薬三、乾姜三、甘草三、桂枝三、細辛三グラムを前述の要領で作る。浮腫が強く、血圧も高く、熱のある場合、特に咳やたんのある気管支炎にはこの処方が良い。
そのほか薬剤として「五積散」「当帰白求湯」などに用いられている。
さらに、家庭用薬茶材料として広く利用され庶民性の高さを示している。しかし半夏が単独に用いられることはなく、主としてミックス用となっている。
すなわち、
万能甘和茶…半夏ほか一四種
甘和茶…同二四種
万能曲茶…同一六種
万応曲…同一七種
法制半夏曲…同六種
ほか十数種の薬茶がみられ、素材として大活躍している。
全国で生産され、価格も安く、庶民性の強い食材・薬材といえよう。