百歳への招待「長寿の源」食材を追う:ムール貝

2003.05.10 93号 11面

ムール貝とどじょうはともに美味な水産物。前者はフランスで、後者は中国で味が良く料理面でも大活躍。ともに薬効(食効)面でも評価が高い。ムール貝は補肝腎に、どじょうは益気補中の効果大で、スタミナづくりに愛用者が多い。食べ方も幅広くファンの多い食べ物といえよう。しかし、どじょうの産出額は減少中で中国産が流通。ムール貝も輸入品時代になるものと思われる。

(食品評論家・太木光一)

「ムール」はフランス語だが、英語では「マッセル」、日本語では「イガイ」と呼ばれている。くさびの形をしており長さ一三センチ、幅五センチ、高さ六センチほど。殻長は鋭くとがり多少カギ形に曲がっている。

日本では全国に分布、深さ一〇メートルぐらいまでの所にすみ、黒くて強靱な糸を持って岩礁に付着し群生している。清澄な水を好み瀬戸内海・北日本に多くみられる。

肉は黄色か赤色に近く美味。夏から晩秋にかけて一段とうま味を増す。イガイは産地や外観から名付けられたもの以外に、ヒメガイ・ニタリガイ・東海婦人ほかの別名を持つ。この貝の形が女性のシンボルに似ていることから生まれたもので、貝の間から出ている無数の足糸は黒く短く毛にも似ている。

日本では酢の物・煮つけ・すしなどに利用され、ローカル色の強い食品となっているが、フランスやイタリアでは高級食材とされる。中国では海藻の茂る東南海岸で多くとれる。

ムール貝の最もポピュラーな食べ方は白ワイン蒸し、平鍋に殻付きのまま入れエシャロットのみじん切りをかけ白ワインを注いで強火で蒸す。貝の口が開いてきたら水分を捨て煮汁の上ずみとバターソースと卵黄でとろみをつけ上にかける。サッパリ味で人気が高い。ムール貝のスープも喜ばれ、パリの有名店の名物料理となっている。このほか串焼き・フライ・シチュー・マリネなどに利用される。

中国では「淡菜」と呼ばれ、野菜視されている。貝類の中で塩味のしないのはムール貝のみで、この呼び名がついた。ヒレ肉と一緒にスープにしたり、干し貝柱を煮込んだりして高級食材視されている。貝自体は脂肪が少なく、コハク酸のほか、グリシンなどのアミノ酸類が多く甘味とうま味のもととなっている。

成分をみれば、一〇〇グラム当たり生で七〇キロカロリー、水分八二・九%、タンパク質一〇・三%、脂質一・四%、糖質三・二%、灰分二・二%。栄養的には、ほかの貝類より多いのが目立つ。

特に中国では美味な貝類というだけでなく薬食視している。『中薬大辞典』によると、成分として、カルシウム・リン・鉄などに優れ、効用主治をみれば補肝腎・為精血・治虚労・眩暈・盗汗・陽痿・腰痛・吐血・帯下ほかの諸病に効果がみられる。

日本の古書『臓器本草』をみると、血圧を下げる作用があり積極的にとるように勧めている。また一般的には食材として味を良くするばかりでなく、婦人病によく効き白髪を防ぐのによいとか、甲状腺病に効くといわれており、補気養陰の保健食といえる。

海岸地区の官吏たちは淡菜を上司に対しての貢ぎ物として利用、保存性を高めて乾物としたため貢乾の異名もみられる。

ムール貝はヨーロッパや中国で高く評価され、前者では水煮・酢漬・油漬けに、中国では淡菜湯・淡菜煮韭黄に利用している。味の面でも優れ調理・加工面でも一段の研究が望まれる。

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