「加齢による容色の衰えを防ぎ、スターの寿命を延ばしたい」。米・ハリウッド俳優たちの美容顧問として活躍した栄養学者、ゲイロード・ハウザー博士は、１９５１年、健康長寿の生活指導書『ルック・ヤンガー・リブ・ロンガー（若く見え長く生きる）』を著した。若さと長寿の鍵を握る５つのワンダーフーズ（驚異食品）として、ビール酵母・脱脂粉乳・ヨーグルト・小麦胚芽・粗製糖蜜を紹介し、日常の食事に取り入れるよう指導。ビール酵母については、ビタミン・アミノ酸・ミネラルなどを豊富に含み、高タンパク質食品ながら、糖や脂肪を同時に取り込む心配がない特長が強調されている。

◆“かくれ栄養不足”の現代人を救う

ビール酵母は、古代メソポタミアで薬として、また紀元前一五〇〇年頃のエジプトでも強壮剤や便秘薬・婦人病の治療薬として利用されていた。

日本にビールが伝えられたのは江戸時代だが、ビール酵母が研究され始めたのは明治時代から。軍用薬としてであったが、一般に使用されるようになったのは昭和５年、医薬品『エビオス』の登場から。脚気にビタミンＢ１が効くことがようやく分かり、その補給剤としてエビオスは大活躍した。

「最近の日本では、ビタミン欠乏症は消滅したように思われますが、現実的には偏食や即席食品類の多用などによるビタミン欠乏症の発生が危惧されます」と、東京農業大学名誉教授の五島孜郎氏は、現代人の“かくれ栄養不足”に警鐘を鳴らす。エネルギーは足りているのに、必要な栄養素は不足状況に陥っている。この背景には、野菜や肉・魚など食材摂取量の不足に伴う、ビタミン・ミネラル摂取量などの低下が指摘される。

「ビタミンは、身体の生理機能を調節し、新陳代謝に欠かせない栄養素。でも私たちの体内では自力で作れないため、毎日の食事で取ることが大事なのです。それでも不足してしまう栄養素の補完に役立つのがビール酵母です。ビール酵母には、ビタミンのみならず、各種ミネラル・アミノ酸・食物繊維・核酸などがバランスよく含まれています。ダイエット中の栄養不足による弊害も防ぎますし、また、身体が必要とする栄養が満たされるために、自然に食欲も抑えられます」（五島氏）。

◆ビール酵母とはなんだろう？　～ビール酵母研究の最先端企業、アサヒフードアンドヘルスケア（株）井口佳則氏に聞く～

「ビール酵母は、ビール作りに欠かせない“酵母菌”の一種。パンを作るイースト菌、納豆を作る納豆菌などと同じ、微生物の仲間です。ビール酵母はビールの残りカスというのは勘違い！　ビール酵母がなければ、ビールは作れないのです」。

ビール作りの工程では、まず原料の大麦麦芽を煮て、麦汁と呼ばれる甘い汁を作る。これに生きたビール酵母を加えると、増殖しながら麦汁の糖分をアルコールに変える（発酵）。

出来上がったものの上澄みが、我々のノドを潤すおいしいビール。そして沈殿したものを乾燥・洗浄したものが、乾燥ビール酵母というわけだ。

「ビール酵母は、発酵で麦汁をアルコールに変える際に、ビタミンやミネラルなどの栄養素も一緒に取り込みます。そのため、ビール酵母には驚くほど多くの栄養素がバランスよく含まれるのです」。

大瓶一本分のビールから取れるビール酵母はわずか約一グラム。逆にいえば、それだけ麦汁の栄養素が凝縮されているわけだ。

◆酵母は生きてる？死んでいる？

当初のビール酵母製剤・エビオスは、“生きたまま”酵母を乾燥させたもので、ビタミン補給のみならず、生きた酵母の持つさまざまな消化酵素も活用できる薬だった。しかし、現在ほとんどのビール酵母を使った薬や健康食品には、“死んだ”酵母が使われている。これはなぜか？

「ビール酵母に含まれるビタミン・ミネラルなどの栄養素は、実は、生きたままの酵母を食べても利用することができないことが分かったのです。

ビール酵母は硬い殻に覆われています。栄養素はこの殻の内側に蓄えられており、ビール酵母が生きているうちは人間の胃や腸では消化することができない。そのため現在の製品はビール酵母の殻を壊して、栄養素を利用しやすい形にしてあるのです」。

乾燥ビール酵母で酔っぱらったりしないのだろうか？「発酵の際に付着したアルコールは、洗浄・乾燥の工程で蒸発するため、お酒が飲めない人でも大丈夫。ホップの苦味なども洗浄によって取り除かれているので、子供から高齢者まで、安心して利用できます」。

◆アレルギーや骨粗しょう症予防にも期待

「最新の研究では、ビール酵母の細胞壁から抽出した酵母マンナン（食物繊維）が、アレルギーの原因となるＩｇＥ抗体の産生を抑え、優れた免疫機能改善作用があることが確認されました」。またその酵母マンナンには、カルシウム・鉄などのミネラルの吸収を促進する作用が確認されており、骨粗しょう症などの予防に役立つことも期待される。

◆こんなにある！　ビール酵母に含まれる栄養素

●食物繊維●

●アミノ酸●必須アミノ酸を含む１８種

リジン　バリン　ロイシン　イソロイシン　メチオニン　スレオニン　フェニルアラニン　トリプトファン　ヒスチジン　シスチン　チロシン　アルギニン　アラニン　アスパラギン酸　グルタミン酸　グリシン　プロリン　セリン

●核酸●

ＤＮＡ　ＲＮＡ

●グルタチオン●

（抗酸化作用が高く、細胞の老化、がん化を防ぐ）

●ビタミン●１０種

ビタミンＢ１　ビタミンＢ２　ビタミンＢ６　ビタミンＢ１２　ナイアシン　パントテン酸　葉酸　イノシトール　コリン　ビオチン

●ミネラル●１１種

カルシウム　マグネシウム　カリウム　ナトリウム　リン　セレン　クロム　マンガン　鉄　銅　亜鉛