折れた靴のヒールをきっかけに、パリを舞台に奇跡のようなロマンティックな3日間が訪れる–。主演に中山美穂と向井理を迎え、脚本はもちろん、自身2作目となる監督に挑戦した北川悦吏子さん。オールパリロケの映画『新しい靴を買わなくちゃ』（10月6日全国ロードショー）についてお話を伺いました。

　◆圧力鍋で作る、野菜料理が得意です

　『新しい靴を買わなくちゃ』は今年3月に撮影を行い、ロケや準備を含めてパリに1カ月ほど滞在しました。劇中でもワインを飲むシーンがあるのですが、中山美穂さんも飲める方なので、ほぼ毎日飲んでいましたよ。宿泊していたホテルの近くにスーパーがあって、500円くらいでおいしいボトルワインが飲めちゃうんです。

　ホテルの前では木曜と日曜にマルシェが開いていて、野菜やいちご、ぶどうなどをよく買っていました。映画のシーンでアオイとセンがほうれん草とベーコンのキッシュを作るシーンがあるんですが、パプリカを切る向井君の包丁さばきが本当に見事で……料理上手なんだなと改めて思いました。

　私自身は、自宅で作るのは野菜料理ばかり。夫や娘は「肉がいい！」と言いますが、私は野菜が食卓にないとダメですね。圧力鍋でポトフや肉じゃがを作ることが多いです。最近は、種子島産の安納芋を一箱送ってもらって食べています。白菜やれんこん、きのこも大好き。これからの季節が楽しみですね。

　◆女性としての“思い”が映画のきっかけに

　映画のきっかけになったのは、中山美穂さんとのメールのやりとりです。2001年のドラマ『Love Story』でご一緒して以来、個人的にお付き合いさせていただいていて、5、6年前から「靴をなくしたパリ在住の女性が靴を買うまで」という、こぢんまりしたストーリーができないかと話していたんです。

　お互い20年以上、仕事をしてきて、結婚して子どももいる。「頑張ってきたよね、私たち」とか「いまだからこそ、できるものがあるんじゃない？」という気持ちをベースに、自分たちがやりたいことを手作りしたいと思ったんです。

　実際にシナリオを書くために家族でパリを訪れ、美穂さんのご家族と食事した帰りに、ひっそりとエッフェル塔が見えたんです。そうしたら小学生の娘がエッフェル塔に向かって走り出しちゃって……。それを見た美穂さんが、「かわいい」と言ってぎゅっと抱きしめて娘にキスしてくれたんです。娘と一緒に映画を観て、「あのキスしてくれたお姉さんだよ」なんて話しています。

　◆立体的に「本を書く」ことが監督の仕事

　監督と脚本家の一番の違いは、“現場にいられるか・いられないか”なのですが、私の中では脚本家と監督は地続きでつながっています。シナリオを書く時は頭の中で想像するしかないのですが、監督の場合は、実際に現場で人が動いているのを見ながら、3次元で立体的に本を書くというイメージですね。ですから、監督までやらせてもらう時は、現場での動きや役者さんの芝居、意見を取り入れながら、一番良いものに脚本を変えていきます。

　リアル感も大切にしているので、実際にパスポートをぐりぐり踏んで破れるか、ボンドでヒールがくっつくかなどについても試しました。主役2人がパリの名所を訪れるといった、観光案内的な映画にしたくなかったので、1人が道を歩き、もう1人が携帯電話で道案内をするという設定にしたり。エッフェル塔をどんと見せるのではなく、何かの陰になっていて、ちょっとだけ見えるのもかわいいなと思って、一生懸命ロケハンしました（笑）。

　映画のキーポイントにもなる“新しい靴”は、パリに縁のあるものという視点で、『エル・ジャポン』編集長と一緒にロジェヴィヴィエを選びました。

　シナリオでは赤だったのですが、最後まで赤かピンクかベージュかで迷って……。でも、この映画の微妙な色合いを表現したくてベージュに。ぜひ皆さんにも、映画の持つ色合いをスクリーンから感じていただきたいですね。

　●プロフィール

　1961年岐阜県生まれ。脚本家として、92年『素顔のままで』で連続ドラマデビューの後、93年『あすなろ白書』、95年『愛していると言ってくれ』、96年『ロングバケーション』、00年『ビューティフルライフ』、04年『オレンジデイズ』など、時代を彩る恋愛ドラマを数多く手掛ける。09年、映画『ハルフウェイ』で監督デビュー。10月6日より、監督・脚本の映画『新しい靴を買わなくちゃ』が公開。

　◆『新しい靴を買わなくちゃ』10月6日（土）全国ロードショー

　出演：中山美穂、向井理、桐谷美玲、綾野剛ほか

　監督・脚本：北川悦吏子　プロデュース・撮影監督：岩井俊二　音楽監督：坂本龍一