プラントベースフード、アジアで市場拡大
ネスレが中国市場で生産販売しているプラントベースフード=同社資料から
大豆や小麦などを使ったプラントベースフード(植物性食品)の開発と市場投入がアジア各国で広がっている。世界最多の人口を誇る中国では、政府が肉食の代替として植物性食品の摂取を奨励。年内にも米国に次ぐ世界第2位のプラントベースフード市場が誕生する見通しだ。一方、東南アジアでは、世界首位のネスレが中国、シンガポールなどに続いてタイに自社ブランドの植物肉の投入を決断。高いペースで拡大する市場の将来性を先取りした形だ。タイではこのほか大手飲食チェーンが植物由来の食材を使った新メニューの提供を年内にも始めるなど、食品市場が一気に様変わりする可能性がある。
これまで世界の肉食市場の3割を消費してきたとされる中国。その偏った食生活は生活習慣病を助長し、大量の家畜生産が過度な環境負荷を生み出すとして、かねて改善の必要が指摘されてきた。重症性呼吸器症候群(SARS)や新型コロナウイルスなど未知の感染症の広がりも、14億人の胃袋を支えてきたこうした食の在り方と無関係ではないとする専門家の意見もあったほどだ。
このため中国政府は肉食に関する国民向けのガイドラインを作成。1日当たりの適切な食肉摂取量は1人当たりの40gから75gとの基準を定め、超過する部分については、肉食に代わるプラントベースフードなどの拡大などを推奨してきた。
結果、中国市場におけるプラントベースフードの年成長率は、近ごろでは欧米の5~6%大きく上回る10%台で推移。市場規模も今年中には、米国の約10億米ドル(約1150億円)に次ぐ、第2位の3億5000万ドルに達する見通しだ。新型コロナの感染拡大で従来の食肉市場への警戒心が強まる中、新たな投資と雇用の場として注目を集めている。
肉食に代わる代替食としては、プラントベースフードの植物肉ほか培養肉や昆虫食があるが、抵抗感や技術の未成熟な点から植物由来の食品が一歩も二歩も先を進んでいるのが現状だ。大豆や小麦、ヒユ科の植物であるビーツなどを主な原料とし、ニンジンや大根などの根菜類や油分などを加えて作られる最近のプラントベースフードは、味覚や食感からしてもひき肉の代替品として十分に機能し、ハンバーガーやミートボール向けに消費が拡大している。
世界最大の食品メーカーであるネスレ(スイス)は、こうした市場をけん引する先進企業。自社開発のプラントベースフードブランド「ハーベスト・グルメ」を、中国やシンガポール、マレーシアに続いて今年からタイ市場にも投入することを決めた。
アジア全域におけるプラントベースフード市場の年平均成長率20%に対し、タイのここ数年のそれは25%にも。将来性と可能性に乗り遅れまいとの判断からだった。タイ市場ではこのほか、大手ハンバーガーチェーンなどが植物肉を使った新メニューの開発を進めている。
ネスレはすでに、タイの隣国マレーシアのスランゴール州にプラントベースフードの生産工場を建設。4月以降、本格生産を開始し、周辺国に向けても出荷していく計画だ。植物由来であれば、イスラム教で禁忌された豚肉に代わる食材としての提供も見えてくる。健康維持や地球環境保護などから始まったプラントベースフードは、新たな一大食品産業として大きなうねりを引き起こそうとしている。
(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)