タイ、急ピッチで進む自動販売機設置 飲料に加え対コロナ品も
新型コロナウイルスの感染第3波で、14日間の行動規制下にある東南アジアのタイ。飲食店をはじめとした商業店舗は必要最小限に制限され、店内飲食の不可はもとより午後8時以降の営業は固く禁じられている。一般市民の外出も午後9時以降翌朝4時まで禁止となり、違反した場合は最大で禁錮2年、4万バーツ(約14万円)の罰金が科される。
こうした中、巣ごもりを続ける人々に食事や飲料を提供しようと、これまであまりなかった自動販売機の設置が急ピッチで進められている。
開業から20年以上がたち、すっかり国民の足として定着した首都バンコクの高架鉄道BTS(スカイトレイン)。各駅では今、構内の空きスペースを使った自動販売機の設置作業が次々と行われている。
交通量の多い駅では一気に2桁台。定番の飲料にとどまらず、スナック菓子、弁当、サプリメントといった食料品に加え、マスク、アルコールなどの対コロナ製品も豊富に並ぶ。次々と売れていくため、補充作業もひっきりなしだ。
自動販売機の設置は駅などの公共交通機関に限らない。多くの企業が入居するオフィスビルや病院、コンドミニアム(分譲マンション)、それに大学などでも新設が進む。バンコク郊外の工業団地内にある工場でも頻繁に目にするようになった。目的は、ひとえにコロナウイルスへの感染対策だ。
タイでは4月以降、新規感染者が急増し、7月に入ってからは1日当たり9000人を上回る日も。当初は英国由来の変異株であるアルファ株が大半を占めたものの、最近はより感染力の強いインド由来のデルタ株が急増している。このため人と人との接触を避け、店舗販売が禁止されている夜間でも買い求めることができるとして、需要が急速に高まっている。
タイではつい数年前まで、日本にあるような自動販売機を見かけることはあまりなかった。
伝統的な屋台販売がなお広く残る社会で、消費者は無機質な機械とのやりとりよりも人との対面を好んだ。ビールなどの酒類を自動販売機で購入する習慣はまずなく、ましてや食事の提供を機械に求めることなど考えにも及ばなかった。
社名と同じブランド名で自動販売機販売を展開するベンディング・プラスが国内に設置する機械の数は、昨年末時点で約6000台。旺盛な需要を背景に今年はこれを2倍に引き上げる計画だ。
提携する企業も増やし、ポロシャツなどの衣類やバッグ、化粧品などの扱いも開始した。品種ごとに異なる外観のデザインとし、「さながら商店街のような自動販売機コーナーを目指す」(広報)とする。
コンビニエンスストア首位のセブンイレブンも、店舗販売に規制が及ぶ中、活路を自動販売機販売に求めている。年内に1万3000店体制が確実な同店も、午後8時から翌朝4時までの営業禁止は大きな痛手。
今年第1四半期(1~3月)の連結決算は売上高、純利益とも前年から大きく落ち込んだ。
このため、現在全国に約2400台ある自動販売機を、年末までに3900台に増設する計画でいる。営業できない夜間・未明の客を取り込むのが狙いだ。
大手スーパーマーケットなどの店頭でも機械の設置が進められている。
大手財閥傘下のビッグCスーパーセンターでは、売上げの落ち込みを自動販売機販売や電子商取引(EC)などで埋め合わせようと必死だ。今期は新規出店や改装も合わせて40億バーツを投資する。
このほか、消費財大手のサハ・グループでは、傘下企業が手掛けるパン製造事業の拡販に自動販売機を活用する計画だ。バンコク首都圏にある約100台に加え、今後は年100台のペースで増設する考え。
大手コンビニなどが展開しない地方や、ミャンマー、カンボジアといった国境地帯もターゲットとする。
(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)