タイの植物由来代替肉市場 コロナで参入企業続々

PTTが生産に関わる代替肉の原料ジャックフルーツは、タイの地方ではどこの家にもあるなじみの果樹だ=2018年4月、東北部シーサケート県で小堀晋一が写す

PTTが生産に関わる代替肉の原料ジャックフルーツは、タイの地方ではどこの家にもあるなじみの果樹だ=2018年4月、東北部シーサケート県で小堀晋一が写す

コロナ禍のタイで、植物由来の代替肉市場が急速に拡大している。今年だけでも十数社が市場参入に意欲を示し、投資や新会社の設立に乗り出している。背後には、新型コロナウイルスのまん延で高まった健康意識や環境への関心の広がりがある。

少し前まで、ベジタリアンやビーガン(動物性食品を一切摂取しない人)向けと思われていたこうした代替肉市場が、高齢者から子どもまで一般家庭に浸透する日も近いのかもしれない。

6月、バンコクで行われたタイ国営石油公社PTTの説明会は驚きを持って迎えられた。石油や天然ガスなどエネルギー事業が総売上高の95%を占めるエネルギー省所管の化学メーカー。それが、植物由来代替肉の食品市場に参入すると発表したのだ。

提携先はタイで乾燥食品や調味料を製造・販売するNRインスタント・プロデュース社。こちらも植物由来製品の本格進出は初めてだった。

合意内容によれば、東南アジアや南アジアに広く植生するクワ科の常緑樹ジャックフルーツ(パラミツ)由来のタンパク質を主に使用。植物肉の開発に挑むという。

PTTは、世界規模での脱炭素化に向けた取組みが加速する中、従来の化石燃料に依存した経営では立ちゆかなくなると判断。事業の多角化を進めることにしたと説明している。

食品に目を向けたのは、コロナ禍に伴う食生活の変化を挙げる。年間3000tの生産体制を目指す。

提携先のNR社は手始めに、国内外に四つの新会社を設立する。同社が全額出資する持ち株会社をタイに設立し、司令塔とする。米国とオランダにそれぞれ北米市場と欧州市場の拠点会社を、香港に中国や日本など東アジア向けの拠点会社を設立する。

手掛ける製品としては植物由来代替肉のほか、このほどタイ政府が解禁した低麻薬成分の大麻草ヘンプを使ったリラックス効果のある食品の開発にも乗り出す方針だ。

ライバル社はすでに先行している。タイ最大の財閥でCPグループ傘下のCPフーズは、5月に完全植物由来の食品「ミートゼロ」の本格生産を開始した。グループの量販店で販売するほか、大手ファストフードのKFCなどにも納入を始めている。来年中のアジア首位、5年後の世界トップ3入りを目指す。

タイ水産最大手のタイ・ユニオン・グループも植物由来の代替肉市場に参入する。タイ食品製造のVフーズが手掛ける「モア・ミート」の製造販売に参加。タイ・ユニオン社が持つ大量生産のノウハウなどを提供していく考えだ。

Vフーズはスエヒロタケなどから代替肉を製造する製法を確立しており、引き合いはひっきりなしだ。近く、タイ証券取引所への上場も計画している。

市場関係者によると、タイの植物由来の代替肉市場は現在約9億米ドル(約1000億円)。3年後にはこれが14億ドルに拡大するとみられている。

一方、世界市場はすでに60億ドル台に達しているとみられ、年2桁の伸びで市場は広がっている。

環境への負荷も少ない。牛肉1kgを生産するのに必要な温室効果ガスの発生量は約100kgに対して、大豆などを使った代替肉のそれは3kg強と圧倒的だ。

肉牛の飼育には大量の飼料を必要とする。世界的な天候不順や穀物市場の混乱が続く中、環境負荷の観点からも植物由来の代替肉開発は加速しそうだ。

(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)

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