タイ産米輸出が好調 世界第2位浮上の可能性
かつては世界首位に何度も輝きながら、長期低迷していたタイのコメ輸出が2022年は好調を維持した。年初の予想輸出量は700万tと試算していたが、9月に750万t、12月に800万tと順次、上方修正した。ベトナムを抜き世界第2位に浮上する可能性が高まっている。首位を走るインドの背中が見えてくる。
タイのコメ輸出業協会によると、22年のコメの輸出量は5年ぶりに800万t台に達する見通しだ。かつては1000万tを超えるコメを世界に向けて輸出していたタイだが、国際的な消費量の低迷や国内農家の離農などから生産量とともに低迷を続け、21年は611万tと最盛期の4割程度にまで落ち込んでいた。この間、世界順位も下降して、11年にインドに首位を明け渡してから、2位と3位を行ったり来たり。4位パキスタンと入れ替わり目前となった時期もあった。
22年当初は、輸出量の伸びはそれほど見込まれていなかった。前年から15%程度増加すればよいとされ、700万tが目標値に置かれた。ところが、蓋を開けてみれば漸増を続けて、1~6月の上期が終わった時点では350万tを突破した。増加率も前年比57%を記録した。金額でも同43%増の約609億バーツとなった。
このため9月になって急きょ年間見通しを50万t引き上げたが勢いは収まらず、昨年末の駆け込み時期に再度の引き上げとなった。最終の集計で仮にその通りとなった場合、21年からの増加率は30%を超える。23年についても800万台を維持するものと見込んでいる。
予想に反して輸出が増加した背景には、複数の国際的要因が複雑に絡み合う。まずは、22年2月下旬に勃発したウクライナ戦争。これによって小麦の世界需要が逼迫(ひっぱく)して、玉突きでコメの需要を押し上げた。次いで、世界各地で高まりを見せるようになった食料安全保障に対する意識の変化が大きい。インドがコメの輸出関税を強化し破砕米の輸出禁止を行ったほか、中国も在庫の大量確保に躍起だ。中東のイラクもタイからのコメ輸入拡大にかじを切った。こうしたことに加えて、折からのバーツ安もタイの輸出競争力を高める結果をもたらした。
海外からの引き合いが高まる中で懸念されるのが、今後の生産量の減少と国内向け供給の枯渇だ。タイでは22年9月から10月にかけて大雨が降り、各地の産地で大規模な洪水が発生した。稲穂が水に浸かり収穫できなくなった水田が続出し、生産計画に一定の狂いが生じているという。農業・協同組合省では22~23年収穫期の生産量を前年同期比約2%増の約2690万tと見込んでいたが、これを下回る可能性が農業団体などから寄せられている。今後の稲の生育に関心が向けられている。
(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)