忘れられぬ味(30)三島食品社長・三島豊「太った蚕のさなぎ」

仕事の関係で時々中国、大連へ出張します。今までに熊の手、飛龍、サソリなどの珍味を楽しんできました。また、他の地域では象の鼻、ラクダの足、イナゴやコオロギのから揚げも試してきました。日本でもイナゴを佃煮にしたりしていますので少し酒を飲んでいれば特に大きな抵抗もなく食することができました。コオロギも同じバッタですし、サソリも毒が有ってもしっかりと熱が通っており、同じようなものです。ところが先日、大変な物を食べることになりました。

中国人スタッフといつものレストランで食事をした時に、大きな蚕のさなぎが出てきました。直径一・五センチメートル、長さ四センチメートルほどでしょうか。茶色の丸々と太った炒め物です。かなり飲んでいましたが一瞬酔いも覚め、これは食べられないと思いました。しかし、彼らがおいしい物を食べさせようとわざわざ注文した料理? です。ここで断ることは仕事の上でわだかまりでもできると大変と思い、感情を理性で抑えて挑戦しました。大きな固まりを口に入れ、胴の真ん中をかみ切ると中からとろりとカキの中身のような物が口に広がり、それを飲み込みました。口の中に釣りで使うさなぎ粉のにおいが残りました。周りからすかさず「美味しいか?」の質問に「美味しい!」と答えたのが幸か不幸かもう一匹食べることになってしまいました。

商社の人の話ですと、私の経験などまだ良いほうで、蚕の幼虫はもちろん、成虫のから揚げを食べさせられたなど、いろいろなものが食されていると言うのです。

冷静になって考えてみると次のことに気付きました。騒いでいるのはそれを食べたことがない人間です。慣れているかどうかの違いのようです。それを食文化と言うのでしょうか。日本人は鯨や、活作りを美味いと言って食べていますが、いろいろと批判があることを考えると、他の食文化から見ると、とんでもないことなのでしょう。お互い文化の違いを理解することが本当に大切だと気付きました。無理をすることもないし、無理を強要してもいけない。また、可能であれば挑戦してみることも大事なのではないでしょうか。さなぎは相互理解の大切さを教えてくれる味でした。

(三島食品(株)代表取締役社長)

日本食糧新聞の第8727号(2000年8月14日付)の紙面

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