忘れられぬ味(61)ハナマルキ・花岡俊夫社長「最後の晩餐としたら」

味噌・醤油 連載 2001.08.06 8880号 2面

毎年秋を迎えると味噌用大豆の調査に北米に出かける。仕事とはいえカナダのオンタリオや米国の穀倉地帯を歩き、旨いものに出会う機会はあまり多くないが、二週間近く滞在する中で実行していることがひとつある。それは現地の食事をとることである。料理はその国の文化や民族の特質を知る上で大切なものだから。然るに海外に駐在する商社マン各氏は必ずといっていいほどに日本料理を勧める。これに対して私はその町の代表的なレストランを要望することになる。

その中でセントルイスにあるイタリア料理の店TONY’Sには何度もその素材と料理に感嘆させられた。香り豊かな伊産生ハムに甘みの強い桃を添えた前菜は、生ハムの塩味と桃の甘みとが相俟って忘れられぬ味となっている。この店のお勧めはグリルしたVEAL(子牛)。これを口にした時は、その味に一瞬唸ってしまったほど。商社マン氏によると、九二年以降連続してディローナ賞を受賞し、いわゆる四星と五ダイヤモンド両方の格付けランキング第一位に輝ける店ということであるが、料金が比較的リーズナブルであることがまた素晴らしい。

さて、場所がかわって五年前ジャカルタを旅した時、とある郊外の中華料理店に立ち寄った。旧日本兵で終戦後独立運動に参加した経験のあるM氏に案内していただいた時のこと。もともとジャカルタの中華料理は評判が高いと聞いていた。一連のコースメニューが終わりに近づいた時、焼飯が出された。満腹であったが勧められて口にすると、新鮮な魚貝類を贅沢に使ったおいしさがベストテイストと呼ぶにふさわしいもので、今でも記憶に残る味の一つとなっている。

このように忘れられぬ味があるが、人生これが最後の晩餐といわれたら、私は迷わず花楽に出かける。代表的な料理は何かと問われても返答できないが、並木さんの率いるこの店は和食処としては当代随一であろう。料理のアレンジメントとそのセンスや素材には絶賛させられる。ある時、食通を自任する客人をお招きしたところ、彼はすっかり花楽の虜になってしまった。こうした店はあまり人に知らせたくないものである半面、いつまでも繁栄して欲しいとねがっている。私は四季折々に数回利用しているが、次の機会が待ち遠しくて仕方がない。

(ハナマルキ(株)代表取締役社長)

日本食糧新聞の第8880号(2001年8月6日付)の紙面

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