神様が決める三輪そうめんの値段 今年は「1万1000円」で関係者は安ど

そうめん業界関係者が願った「高値」が出た

そうめん業界関係者が願った「高値」が出た

日本三大そうめんの一つで、そうめん発祥の地・奈良県桜井市で作られる「三輪素麺」。その値段が「ご神託で決まっている」と聞くとびっくりする人も多い。そうめんの価格は、アダム・スミスの「神の見えざる手」ならぬ、大物主大神(おおものぬしのおおかみ)の「見えざる手」によって定められているのだ。

三輪素麺の今年の卸値を占いで決める「ト定祭(ぼくじょうさい)」が5日、三輸明神大神神社(奈良県桜井市)で行われた。斎主が素麺業界の繁栄を祈る祝詞を奏上、みこが神楽「浦安の舞」を奉奏したのち神職が神前に進み「ト定の儀」を行う。

これは今年度(2019年)産の三輪素麺「誉」新物一箱(18kg)の初値を決める神事。「高値」「中値」「安値」のいずれかが書かれた紙を筒状に束ねた麻でつき、貼りついたものを占いの結果とする。

「中値(1万900円)」を基準に100円の高低がつく。実際には「初取引の参考」程度で、市場価格に決定的な影響があるわけではもちろんないが、ある種の心理的指針として、そうめん業界全体から注目されている。

昨今、原材料費、人件費、輸送費などの高騰を受け、手延べそうめんの生産は限界に近い状態にある。また、少子高齢化での後継者不足に加え、HACCPの義務化などもあり生産者の設備投資や衛生管理のコストも上がっている。

プライスリーダーである兵庫県手延素麺協同組合が3月6日出荷分より、揖保乃糸「手延そうめん」をはじめ、ひやむぎ、うどんなどの単品商品(袋物)すべてを5%値上げと先陣を切って発表した。それをきっかけに、各産地・企業とも値上げに向けて、食品卸や小売企業と厳しい交渉をしている最中だ。

みこが神楽「浦安の舞」を奉奏

「安値」のご神託が出れば、ちょっと洒落にならない状態だ。ちなみに今回が令和最初のト定祭だが、2011年度、2012年度、2016年度など平成の30年間で10回の安値が出ている。

ちなみに前回、揖保乃糸が値上げを行った12年前のご神託は「安値」ではなかったものの「中値」だった。その年は期待通りに実売価格が上がらず、揖保乃糸のみならず業界全体としても価格競争が加速してしまった。今年は「高値」が絶対に出てほしいところ。

奈良県三輪素麺工業協同組合(池側義嗣理事長)、奈良県三輪素麺販売協議会(池田利一会長)を中心に全国から集まった関係者約80人がかたずをのんで見守る中、出たご神託は高値(1万1000円)。関係者からは小さく「おっ」という喜びの声が漏れた。

高値は2年連続となる。「現在各産地・各企業では価格を上げる交渉に取り組んでいる。交渉は厳しいものがあるが、『高値』のご神託は『皆さん、頑張りなさいよ』というシグナルと受け止める」と高尾政秀全国乾麺協同組合連合会会長は話す。

ト定祭の後、奈良県三輪素麺工業協同組合婦人部と三輪素麺掛唄保存会が、拝殿前で「三輸素麺掛唄」「三輪そうめん音頭」を奉納した。

そうめん造りの工程を表現した三輸素麺掛唄

池側義嗣奈良県三輪素麺工業協同組合理事長は「昨年のト定祭も久しぶりの『高値』であったが、梅雨明けの遅れや日照不足で販売は苦戦した。今年も『高値』のご神託だが、われわれを取り巻く環境は厳しく、気を引き締めて取り組んでいくしかない」とした。

なお、三輸明神大神神社は、奈良時代にご祭神の子孫・大神穀主(おおみわのたねぬし)が、三輪山麓で取れた小麦と三輪山の清流でそうめんを作ったのが三輪素麺の始まりとされることから、そうめん造りの守護神としてあがめられている。

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