トップの視点:「一風堂」力の源ホールディングス・河原成美社長 丁寧の研鑽こそ王道

2023.01.02 527号 17面
力の源ホールディングス・河原成美代表取締役社長

力の源ホールディングス・河原成美代表取締役社長

インタビュー動画(1)国内ラーメンの潮流を読む(収録時間5分5秒)

インタビュー動画(1)国内ラーメンの潮流を読む(収録時間5分5秒)

インタビュー動画(2)ラーメン店主を応援する喝!(収録時間8分7秒)

インタビュー動画(2)ラーメン店主を応援する喝!(収録時間8分7秒)

インタビュー動画(3)海外ラーメンの展望を説く(収録時間6分8秒)

インタビュー動画(3)海外ラーメンの展望を説く(収録時間6分8秒)

 ◇新しさより定番の奥行き 「作業の繰り返し」ではなく「仕事の積み重ね」

 「一風堂」の河原成美社長は、ラーメンブームの立役者であり、ラーメンの海外普及をリードする、まさにラーメン業界の生きるレジェンド。70歳を迎えた今も新時代に向けたラーメン改革が止まらない。ウィズコロナやアフターコロナが叫ばれる今後、ラーメン市場はどのように変化するのか。新しい生活様式におけるラーメン市場の展望を聞いた。(岡安秀一)

 ◆インタビュー動画

 (1)国内ラーメンの潮流を読む(収録時間5分5秒)

 https://youtu.be/f4CnnPooyiM

 (2)ラーメン店主を応援する喝!(収録時間8分7秒)

 https://youtu.be/WwkYZNbpwhk

 (3)海外ラーメンの展望を説く(収録時間6分8秒)

 https://youtu.be/3XmQDLG0oI4

 ●ウィズコロナはラーメンに有利

 –コロナ禍の率直な感想は?

 河原 経営38年間の中で一番きつかった。海外を含む年商は290億円から160億円に激減。従業員の辛抱に助けられた面が大きい。当社は2017年ごろ、海外進出やインバウンドの勢いがあったが、同時に販管費も膨れ上がっており、あらためて意識と財務を引き締めた。

 その効果が表れ始めた矢先に新型コロナが到来。不幸中の幸いにも社員一丸で危機に対応できた。引き締めがなければ、大波をかぶって潰れていただろう。個人を尊重する社風と現場の地力が一層強まったと思う。

 –現在の状況は?

 河原 かなり回復してきたが、以前と同じ実績は期待できない。やり方を変えなければ8割程度だと思う。とにかく夜が早くなった。22時以降の集客が見込めない。これはほかの外食も同じだろう。また、巣ごもりやリモートワークの定着により生活様式と外食観が激変。惰性の外食が減る一方、目的意識の強い来店が増えている。その意味ではラーメンは強い。特に個人店は努力次第で目的意識を喚起できる。チェーン店との差別化も図りやすい。当社も個人店志向を強化する方針だ。

 ●昭和っぽい定番の味覚が強い

 –今後のラーメントレンドは?

 河原 近年は見栄えや高級感の演出が目立つが、味覚的には出尽くしている。こだわりや目新しさは話題を呼び、個人店なら商売になるが、客層が限られるので事業化は難しい。何より大多数が求めるラーメンは決まっている。それをイメージすると40~50代が欲する昭和っぽい定番のラーメン。豚骨でも醤油でも定番の味覚を研鑽するのが一番強い。定番主体に基本と革新の両立を突き詰めるのがラーメン繁盛の王道だ。

 –ラーメンの志向は普遍?

 河原 普遍というより、そもそも日本人は新しさを好まない。新たな試みはネットで話題になり、若者は敏感に飛びつくが、商売的には一握りにすぎない。大多数は定番を研鑽した奥深い味わいを支持する。その保守的な気質が日本のラーメン文化を育んできた。私もヒントを見つけるたびに福岡の店で豚骨スープを炊いているが、いまだに基本の奥行きに驚かされる。炊き方や濃度を調整、アクや臭みを徹底的に取り除くなど、丁寧に丁寧を重ねれば、おいしさの可能性が広がる。定番の伸びしろは果てしない。私の感覚では「丁寧の研鑽」こそがラーメン文化の礎、ラーメン作りの普遍的な決め手だ。

 ●前味・中味・後味を怠るな

 –ラーメンの発展には何が必要?

 河原 大変恐縮だが、ラーメンの発展を願い、厳しく指摘したい。それは単純に「もっと勉強しろ」ということ。常に多くのラーメン店が淘汰されているが、廃業の理由は同じ。「仕事の積み重ね」が足りないからだ。「作業の繰り返し」ばかりで、「もっとよくなろう」という気概が足りない。味作りに夢中な店ほど、その傾向が強く、お客と真剣に向き合ってないように見える。無愛想に「さあ、食べろ」という姿勢じゃ、いくらおいしくてもおいしいと感じるわけがない。おいしければ許されると思ったら大間違いだ。

 –どのような努力が必要か?

 河原 外食のおいしさには「前味・中味・後味」という教訓がある。前味とは「最初の印象」。清潔な店で「いらっしゃいませっ」と元気よくあいさつされれば、お客は気分よく食事に臨める。中味とは「料理のおいしさ」。後味とは「心地よい配慮」。お客は必ず粗探しするが、逆に粗探しで配慮を見つければ、おいしさの余韻が格別に引き立つ。そうした前味・中味・後味が充実しているか、ダメなら何をいつまでに改善するのか。おいしさだけでなく、お客の精神的満足を徹底的に追求する姿勢が必要だ。人は皆が弱さを抱えており、無意識のうちに優しさのある店に惹かれる。その心理的な欲求を忘れてはいけない。

 –簡単なようで難しい?

 河原 個人店なら決して難しくない。例えば日商5万円なら1日の集客数は70人程度。ならば70人の一人人一人に「何を求めているか」を直に聞けばよい。そして素直に少しずつ改善すればよい。その積み重ねが大繁盛に昇華する。店が大きい小さい、能力が有る無いは関係ない。すべてにおいて問題意識を持つことが重要だ。そのためには当たり前の基準値を上げること。でないと、お客が求める価値に気付けない。一流と評されるモノ・コトに触れてセンスを磨けば、自然に問題意識が高まり、改善すべき課題が見えてくる。そして改善の努力を愚直に続けること。そうすれば絶対に潰れないし、業界レベルも底上げされ、ラーメンはさらに発展する。

 ●今後は海外が主戦場

 –世界のラーメン情勢は?

 河原 日本の多くのラーメン店が世界に進出し、本当においしいラーメンが理解されるようになった。「一風堂」がその先陣を果たし、豚骨スープを世界標準に引き上げたと自負している。とはいえ依然、客層は高所得者が主で大衆は気軽に食べられない。市場開拓の余地は大きいが、日本のラーメン文化を健全に広げるためにも、安易な多店舗化は禁物だ。

 –出店戦略は?

 河原 現在、海外14ヵ国で137店(2022年9月末現在)を展開している。その実績から確信できるのは、スープと小麦粉料理を食べる国なら、どこでもラーメンは通用するということ。特に豚骨ラーメンは圧倒的に強い。当社の今後は海外が主戦場。500~1000店舗ぐらい、すぐに出店できると思うが、焦らず慎重に臨みたい。正直、アフリカとインドは難しいと思う。一方、国内では、海外で得た知見を生かし既存店をプラッシュアップ。今後のインバウンド復活に備える。

 –ありがとうございました。

 ●プロフィル

 力の源ホールディングス・河原成美代表取締役社長

 かわはら・しげみ 1952年、福岡県城島町(現久留米市)生まれ。レストランバー経営を経て85年「博多一風堂」開業、86年「力の源カンパニー」設立。94年「新横浜ラーメン博物館」に出店し豚骨ラーメンの全国的な認知度の向上に貢献。2008年に米国進出。世界中にラーメンと日本食の魅力を伝える先駆者として活動中

 〈会社概要〉▽社名=(株)力の源ホールディングス▽本社所在地=福岡県福岡市中央区大名1-13-14▽店舗数=国内143店舗、海外14ヵ国134店舗(2022年3月期)/年商=194億円弱(同)/事業内容=豚骨ラーメン「一風堂」を中心にマルチブランドの外食事業を世界各国で展開。2017年東証マザーズ上場、18年東証一部に市場変更

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