居酒屋チェーンの生き残り戦略 バブルがハジケてどうするか(1)

1992.04.06 1号 8面

バブル経済の破綻で産業・経済界は右往左往の状況を呈している。新規事業の抑制をはじめコスト削減、広告宣伝費や営業経費の節減など四十九年秋の第二次石油ショック以来の沈滞ぶりである。この余波で企業の交際費も大幅にダウンする状況になっている。今年に入って銀座の高級クラブが三百店近くも売りに出ているといい、以前は一本四~五万円もしたボトルが、今では二~三万円と“ディスカウント商法”に転じているありさまである。銀座や赤坂などは見栄とあぶく銭で支えられている夜の街であるわけであるが、厳しい経済環境にあっては、見栄も外聞もないという切実な状況になってしまっているのである。サラリーマンの“ウサの晴らしところ”“ノミニケーションの場”である大衆酒場(居酒屋)はどうか。アルコール(酒)は好不況に関係なく、客の入りは変わらないというのであるが、果たして実際はどうか。バブルの影響を受けているとすれば、店はそれにどう対応しているのか。「つぼ八」「村さ来」「庄や」など居酒屋チェーンにスポットを当て、この現実の姿を検証してみる。

“ハナキン”といういい方が一世風びしていたことがあった。今でももちろん幅をきかしているのであるが、週のうち金曜日に客が集中するというニュアンスの造語である。

最近はハナキンに代わって“ハナモク”が主流で、木曜日からノミニケーションが盛んになっている。週二日制が進んできているので、週末の金曜日や木曜日に「一杯やる」というのがサラリーマンやOLたちの夜の行動である。

木曜日は週末ではないが、若い人たちの間では金曜日から休暇を取るケースも増えており、それに伴って木曜日が“週末”に繰り下がる形になっているのである。

日本人は何かと理由をつけて酒を飲む。最近では休みが開けた月曜日にも店がはやっているという現象も起きている。

実際、銀座、有楽町、新宿、渋谷、新橋といった飲み屋街では木曜、金曜どころか、連日の大入りである。それも六時、七時ごろから満席状態である。

その時間帯にのこのこと店を訪ねても、どこにも入ることもできない。一回転する八時ごろまでは、どこも満員御礼の盛況ぶりなのである。

善男善女、老若男女、企業戦士や学生サンたちが嬉々として、一杯やっている姿を目撃する。生ビール、びんビール、日本酒、サワー、焼酎と飲むアルコールは多様である。それに酒のツマミも和洋中を取りまぜて、あるいは無国籍料理というのも多く、その数はバラエティーに富んでいる。

ごちそうを目の前にしての酒盛り、いわば毎日が“お祭り”といった状況にある。バブル経済がハジケて企業の交際費がカットされたといっても、サラリーマン、学生サン諸士には何の影響もないといった風情である。

つぼ八、村さ来などといった居酒屋チェーンの客単価は、一般的にいって二千円前後である。郊外立地のファミリーレストランなどもこの価格帯の出店である。アルコールがビール一本なら四百円前後、料理が一品あたり三百~四百円前後。この価格設定だと、ビール二本、料理三品くらいをオーダーできる。企業戦士たちの帰宅前のノミニケーションやストレス解消の場であれば安いものである。しかも、オーダを上手にすれば、消費単価を千五~六百円前後におさえることもできる。

いずれにしても二千円以内の酒代であれば、そう負担になる金額ではない。これだと一週間に二回程度は居酒屋に足が運べる。消費単価をコントロールすれば週三回。週休二日制の導入で実働日数を五日とすれば、一日おきに酒が飲めるということになる。

「バブル経済がハジケたといっても、われわれ居酒屋チェーンの場合は、ポケットマネーで飲む世界ですから、ほとんど影響はありません。問題は人件費や材料、物流コストなどのハネ上がりで、メニュー単価が高くなってしまうことへの影響です。これをどう抑えていくか、この点が大きな問題です」と村さ来チェーン本部。チェーンシステムでの価格政策は、マスメリットによる値ごろ感の設定、それによる消費単価のコントロールである。一品あたりのメニュー単価が高くなって、消費単価が上がれば、店の収益は増える計算になるが、それでは客の来店頻度が落ち、全体の客数を減らしてしまうことになる。

客単価が千五百~二千円前後なので、客は週二~三回はきてくれる。

チェーンシステムによる居酒屋経営はそこにメリットがあり、不況の波を受けないといえるのである。

それでもバブルの影響で客の入りが減ったという状況もある。つぼ八の浅草西口店(重松店長)は、一階から四階までの大型店(客席数二百十五)であるが宴会客が以前に比べて二割は少なくなったという。

宴会客は通常の客に比べて客単価が高くなるのであるが、歓送迎、新年、忘年会など、会社や部・課単位の宴会が軽減したことで、全体の客数が減少した。

宴会客の場合は客単価も高くなる。

この店の場合は、店全体の平均客単価は二千六百円、つぼ八チェーン平均は二千三百円であるので、三百円ほど高い計算になるが、宴会であれば客単価は三千四~五百円前後にハネ上がる。

このため店の構成も二階以上は団体、宴会客を吸引できるようなつくりになっており、グループ客がよく利用している。客席構成をみると、一階レストランスタイルで三十五席、二階板敷(フローリング)で百人収容、三階宴会対応で六十席、四階VIPルームで二十席という内容で、徹底してグループ、宴会客に対応できる客席構成になっている。

しかし、宴会の場合はある程度は会社負担ということになるので、その面で宴会の件数が減り、トータルの客数が減少したというのである。平均して宴会、グループ客は二十~三十人単位が多く、この客層の収益性は高い。

「客数が減ると、その分だけ客単価を上げる工夫が求められているわけですが、うちの店の考えとしては、お客様にくつろいだ気分で長くいていただき、それによって少しでもオーダー数を増やしてゆく工夫をしております。つまり、表面的な営業効率にとらわれずに、客をつめ込まない考え方です」(つぼ八浅草西口店重松店長)。

たしかに、居酒屋はどこの場合でもつめ込むことが当たり前になっている。少しでも売上げ増になるならと、どんどん相席を促進する。客の方もたどりつく島の気持ちで、空いている店に流れ込んでいる。

店の経営にとっては、いいのか悪いのかはスピリットの問題で、容易に結論は出せない。

つぼ八浅草西口店の場合は、それをやめた。“不況対策”から出たアイディアではあるが、つめ込みはしないということになった。

以前の宴会は平均して二時間半くらいの滞留であったが、現在は三時間半ほど。一時間もの延長であるが、それが客単価の向上につながって、店全体の売上げにもいい結果を出している。

一日平均百三十~百四十人の来店、平均売上げ四十万円。客層は三十~四十代が中心、男女半々ずつの構成。店の周辺は会社が多いので土日曜には客足は減少する。土日曜の客数の落ち込みをどうするかこれが今後の課題だという。

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