トップインタビュー:「珍珍珍」チェーン代表取締役・古山邦男氏

1997.04.21 125号 7面

--チェーン発足から一五年で一三〇店舗を突破しました。新興ラーメンチェーンとの競合が熾烈化するなか、出店ペースは加速するばかりですね。

古山 私自身、ラーメン店を一六年間営んできました。そのノウハウを集約してチェーン化に乗り出したわけですが、FCセールスマンを使わずともFC加盟希望者が絶えない状況です。個店のノウハウがベースの「珍珍珍」のシステムが、加盟者サイドに有利に働く現場志向にできているからだと思います。もちろん収益性についても--。

--現場上がりならではの持論があるわけですね。具体的には。

古山 まず前提にラーメン店は“パパママ店”であるべきだと考えています。低投資、小規模出店で回転率勝負、損益分岐点の引き下げと早急な原価償却を第一に店舗開発を進め、オーナーの金銭的負担を軽減させます。

ラーメン業態の場合、初心者に人件費や家賃コストのかかる大型店の経営は危険です。事実、バブル時に増えた郊外FR型のラーメン店や華美な装飾のなされた店舗の業績はかんばしくありませんね。

ラーメンはしょせんラーメン、されどラーメン。日常食としておいしく安く食べられればいいわけです。お客と向き合い、お客のニーズを肌で感じる小規模店経営は、サービス業の基本をしっかりとつかめるし、働いただけ身銭が入るという商売のおもしろさも十分に感じられますからね。余計なものはいりません。

--自主性の促進と尊重が本部指導の原点にあるわけですね。商品開発についてはいかがですか。

古山 ほとんどの食材を自社加工で開発しています。古いチェーンの発足の経緯を見ると「食材卸業者(製麺屋など)が自分の扱う商材を売らんがために子会社的に組織した」というケースがほとんど。つまり、チェーン本部は食材の卸マージンで運営されるわけだから、商品開発も効率重視の川上(仕入れ)の論理で展開されてきたわけです。それでは消費者ニーズに応えることはできません。ラーメンチェーンでFC脱退者が多いのもこうした理由からです。

消費者ニーズに応えたメニューを開発するために、現揚に最も近いFC本部が自社加工設備を持ち自主生産する。これがわれわれの持論です。スケールメリットの追求も大切ですが、最終的な味付けは本部で責任を持つべきだと考えています。

--具体的にどのような工夫をしているのですか。

古山 江戸前、トンコクのたれ、麺、ギョウザは私が個店時に開発した味を引き継いでいます。カレー、丼などのサイドアイテムについては、CK一括生産のレトルト加工食材を活用し、現揚のオペレーションをできるだけ省力化しています。

あくまでもラーメンが主体ですから、これ以外の作業に労力を費やすことはありません。費やす余裕があるならばラーメン作りにいっそう集中するべきだと考えています。もとより、加盟した初心者があれもこれも調理できるとは考えていませんから。

--食材の卸価格もかなり割安に設定しているそうですね。

古山 一般より安い食材卸価は当チェーンの重要なセールスポイントです。ゆえにほかからの仕入れは原則的に認めていません。

ラーメンチェーンの古い業態体質に「FC店はのれん料だけ払って食材はほかから仕入れる」といった慣習があります。本部の卸価格が高いからです。しかし、これではお互い(本部、FC店)にメリットはありません。ほかよりも高価格で卸す本部にも問題がありますが、安さばかり追求しても品質低下を招く結果となります。

どこよりも安い価格、味、そして使いやすい形態で食材を卸すのが本部の使命。自社CKによるレトルト加工はそうした問題点(ラーメンチェーン独特の)を未然に防ぐ役割でもあるわけです。

--商品開発といえば最近、“ヌードル”を新たにラインアップするそうですね。

古山 ラーメンを女性、子供向けに特化したものです。「アサリクリーム」「コーンクリーム」「トマトソース」の三種類(五〇〇~六〇〇円)を試験的に一部の店舗で提供する予定です。

--きっかけは何だったのですか。

古山 郊外型の出店を検討したところ、既存のメニューだけではファミリー客が飽きたらないと思いまして。はやりのパスタを考えたのですが、ラーメン店にパスタはイメージ的に無理がある。ラーメンをパスタ風にできないかと思って、そこでその中間的イメージの“ヌードル”に目をつけたのです。

--具体的にどのようなメニューなのですか。

古山 かために打った従来の麺をサッと油通し保存しておいて、オーダーの際ゆでてレトルトソースをかけたものです。

コシはパスタより弱いのですがソースの絡みが抜群に良い。油通し後の麺は三日間ぐらいの保存が可能で、ソースはすべてレトルト。調理はラーメンよりもはるかに効率的です。

軌道に乗れば一日三〇食ほどは売れるでしょう。

--今後の展開を聞かせて下さい。

古山 これだけラーメン店が増えると「ラーメンだけで勝負」というわけにはいかないでしょう。もちろんおいしいラーメンを提供することが前提ですが、常連客以外の新規層をどれだけつかめるかが課題になると思います。

郊外型出店、ヌードルのアイテム化はその課題克服に向けた先べんでもあるわけですが、従来の味、イメージを崩さずに提供の幅を広げるアイデアをさらに追求していきたいと考えています。とりわけ年々高まるヘルシー志向への対応が今後最大のテーマとなるでしょう。

また、依然続く値打ち志向に対応した低価格店舗など、業態開発にも積極的に取り組んでいきたいですね。

--今後の活躍を期待します。ありがとうございました。

◆取材メモ

昭和18年、東京生まれ、五四歳。

和食店経営からラーメン店経営に転身。個店ならではのノウハウを集約し昭和57年「珍珍珍」チェーンを発足。新興ラーメンチェーンの最右翼に育てあげた。個店時代の独自の味にこだわりながらも“厨房作業の省力化”と“ラーメンの多様化”を限りなく模索する、現在進行形のラーメン職人だ。

(文責・岡安)

◆チェーン概要

・会社名=康和食産(株)

・所在地=東京都練馬区高野台二-一三-一六、電話03・3995・3301

・ストアブランド=「珍珍珍」(さんちん)

・資本金=一二〇〇万円

・社員数=四八人

・店舗数=一三〇店舗(直営六、FC一二四)

・年商=六二億円(平成8年度)

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら