飲食店成功の知恵(110)繁盛編 お客と親しくなる
お客と親しくなろうといっても、特定のお客だけをえこひいきする、という意味ではない。この点は、誤解のないように断っておきたい。
飲食店のサービスは、すべてのお客に対して平等であることが大原則である。お客によって差をつけるなどということは、絶対にあってはならないことだ。私が言いたいのは、すべてのお客と親しくなろうということなのである。
ごく一部のお客だけ特別扱いするということは、ほかのお客を「お客」として認めていないと、宣言しているようなものだ。いかにも常連客といった態度のお客がのさばっているようなお店では、だれだって居心地がいいはずがない。それはそうだろう。特別扱いされないほかのお客にしてみれば、いわれのない差別待遇を受けているのと同じことなのだから。
もちろん、そういうお店だって、最初からお客を差別しようなどと考えていたわけではあるまい。固定客がほしいあまりつい、そういう間違いを犯してしまうのだ。
お客と親しくなるのは、固定客づくりのいちばんの近道である。それは間違ってはいないし、私も親しくならなければいけないといっている。問題は、お客と親しくなろうとするとどうしても、特定のお客だけと親しくなってしまいがちな点なのだ。
その原因はいろいろあるだろう。たとえばお客にも、お金をたくさん使ってくれる人とそうでない人がいる。そうするとふつうは、金払いのいいお客を大事にするようになる。たしかに、それが人情かもしれない。
しかし、そんなお客がどれほどいるのか。常識的にいって、ほんのひと握りにすぎないはずだ。だからそういうお客が目立つのだ。もしもそういうお客ばかりだったとしたら、客単価設定自体が間違っていたことになるが、ふつうはそうではない。
結局、お店の売上げは、お店が「差別扱い」しているふつうのお客に支えられているのである。たしかに、一部のお客だけでもなれ合いの関係になれば、確実な固定客ができたような感覚になる。しかしそれは、単なる錯覚でしかない。
そして、ふつうのお客にとって居心地の悪いお店というのは、自然と嫌われるようになっていく。飲食店はほかにいくらでもあるのだから、わざわざそんなお店に行く必要はないのだから。あなたの周りにも、そんなお店はいくらでもあるだろう。
すべてのお客と親しくなるといっても、別にむずかしいことではない。いちばん簡単な方法は、すべてのお客に話しかけてみることだ。たとえば、本日のおすすめメニューをすすめてみるだけでもいい。その日の天候の話題でもいい。気の利いた話ができないからなどと考えるから、むずかしくもなるし、お客に対して身構えたような雰囲気になってしまう。要するに、こちらから心を開くことが大切なのである。
たいていのお客は、自分の行きつけのお店がほしいと思っている。できれば、そのお店の主人と親しくなりたいと思っているものだ。自分を大切に扱ってほしいというのは、お客としてのごく自然な心理である。ましてや殺伐としたいまの時代、自分だけの時間を過ごせる飲食店に、心の触れ合いを求めている人は少なくない。
ただし、あくまでも平等に、が原則だということを忘れてはいけない。かりに話が合うお客であっても、絶対に一線を越えないような態度が不可欠なのだ。その一線が曖昧になると、いつの間にか特定のお客だけとのなれ合いが生じてしまう。それだけは十分に注意し、常に自分に言い聞かせる努力は必要だろう。
フードサービスコンサルタントグループ
チーフコンサルタント 宇井 義行