低価格時代の外食・飲食店 1兆円企業を目指すマクドナルド

1997.05.05 126号 4面

ハンバーガー市場は勢力図が不動になってきている。マクドナルドはハンバーガー市場草創期からトップを走るビッグチェーンだが、例の創業時再現の低価格戦略や大量出店攻勢で、この独走態勢はますます堅固になってきている。モスバーガーはマクドナルドに次ぐハンバーガー市場第二位の大手チェーンだが、マックのシステム、効率本位のチェーンオペレーションとは対照的に、手づくり、ホスピタリティー志向で店舗展開を進めてきており、徹底して質の追求とバリューで、マックの拡大主義に対抗している。

ファストフード(ハンバーガー)といえば、「マクドナルド」をイメージする。街中で例の「M」のマークを見るのは当たり前の光景となっている。アメリカから日本に上陸してきてすでに二五年。

後進性の強かった日本の外食市場に強烈なインパクト、また若者の風俗にも大きな影響を与えた。いわば、ファストフードのパイオニアだ。しかし、人によってはマックの店舗運営は物流的で、食文化といえるものではないと、手厳しくいう者もいる。

だが形はどうであれ、若者に支持されるハンバーガーチェーンとして、大きく受入れられているのは事実だ。

九六年度(12月決算)の店舗数二○○六店、売上高二九八八億円(前年比一一八%)、経常利益二○六億円(同一○九・七%)、利益一○九億六○○○万円(同一二七・四%)。

これは三期連続の増収増益で、数字の上からもマックの存在の大きさを証明している。国内外食ビジネスにおいて、売上高三○○○億円に迫るチェーン企業は存在しない。

店舗数でも二○○○店を超えるのは、ハンバーガーチェーンではマックのみで、外食業界全体でも数社にとどまる。

外食ビジネスもすでに市場が成熟化している。需要の拡大は小さいとみて、出店をセーブしている企業は多い。

だがマクドナルドはかえって攻撃的に店舗を拡大している。ちなみに九四年度は一三七店、九五年度三二三店、九六年度五三○店の大量出店だ。

ハンバーガー商品はなくならない。業界が消極的なことを攻めのチャンスと考えているからだ。一ヵ月四○店以上の出店。今年度も五○○~七○○店を展開する計画だ。

マックの藤田田社長は超ワンマン、異端児経営者として知られる存在だが、“ユダヤ商法”の体現者としても知られている。

「世界経済を動かす/ユダヤの商法」、「ユダヤ流金銭の哲学/頭の悪い奴は損をする」、「なぜ俺だけが儲かるのか/ユダヤ流金持ラッパの吹き方」、「実戦ユダヤの商法/超常識のマネー戦略」(各KKベストセラーズ社『ワニの本』)ほか、「天下取りの商法」、「勝てば官軍」など多くの著書があり、ドライで妥協のない自己の企業哲学を主張している。

その藤田社長かつてマックが銀座に本社があったころは“銀座のユダヤ人”と称されていたが、西暦二○○○年を目標に店舗数五○○○店、年商五○○○億円、さらにその先においては一万店、一兆円の企業スケールをめざすと宣言している。

話は大きい方がおもしろい。大ボラであっても夢、希望が沸いてくる。現下のハンバーガー市場は五○○○~六○○○億円。マックの五○○○億円、一兆円構想は同社が新たな需要を喚起するのか、それともハンバーガーチェーン二番手のモスバーガー以下、ロッテリア、ウエンディーズ、ファーストキッチンなど他チェーンを駆逐して、それらのシェアを取り込むことになるのか、いずれにしてもマックの大量出店は驚異だ。

マックの大量出店のヒミツは、立地調査を容易にしている「McGIS」(マックジス=マクドナルド地理情報システム)に大きく依存している。

マックジスはカーナビに似たシステムだが、マップ(地理情報)にプラスして、出店しようとする地域の世帯数や人口、年齢ほか、学校や商業施設、来街者数(通行量)などの情報が即座にわかり、かつ出店の成否を判断する。

また、地域によっては他のファストフードチェーンの客数、売上げなど店舗情報もインプットされており、一定商圏の情報を根こそぎ取り出すことができる。現在は首都圏でのソフト化にとどまっているが、九七年度内には全国に拡大する。

マックの大量出店はこのMcGISシステムに支えられているわけだが、もう一つの驚異は「八○円バーガー」に象徴される低価格戦略だ。

マックの低価格戦略は、九六年1月に入って通常ハンバーガーが八○円、チーズバーガー一○○円、3月にはビッグマックを二○○円で売り出した。

これらは短期販促キャンペーンで導入したもので、すべてマック創業時(一九七一年)の価格だ。

八○円や一○○円バーガーは安い。

単に価格で比較すれば、モスはもちろんのこと他のハンバーガーチェーンも立ち打ちできない。マックは不定期にこの“創業時価格”を導入して、販促キャンペーンを展開する。

◇会社概要

・企業名/日本マクドナルド(株)

・チェーンブランド/ハンバーガーレストラン「マクドナルド」

・設立/昭和46年(一九七一年)5月

・本社所在地/東京都新宿区西新宿六-五-一、新宿アイランドタワー(電話03・33 44・6251)

・資本金/一○億円

・代表取締役社長/藤田田(でん)

・代表取締役/F・L・ターナー

・従業員数/正社員四二○○人、パートタイマー八万人

・事業内容/ハンバーガーレストランチェーンの展開とその付帯事業

・決算期/12月

・出店数/二○○六店(九六年12月期、前年比一八%増)

・売上高/二九八八億円(同、前年比三五%増)

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