業態の特化進む焼肉店 競り合ってイメージ一新

1997.08.04 132号 10面

焼き肉店とは、カルビやロースをセルフサービスで焼いて食べるところ……。そんな漠然とした焼き肉店のイメージが、昨今、急速に崩れ始めている。従来のコンセプトやメニューアイテムを特化し、その店ならではのセールスポイントを打ち出そうとする、業態の多角化が進んでいるからだ。高級化、低価格化、居酒屋風へのアレンジなど、差別化の方向性は多岐にわたる。それにともない市場規模も拡大するばかりだ。横並びの風潮に終止符が打たれ、顧客ターゲットのすみ分けが鮮明となってきた焼き肉店業態の現状を特集する。

平成4年の商業統計以来、焼き肉店業態の正確な市場動向は定かでないが、ロースター関係者によると「市場規模は当時の三〇%増」がおおむねの見方という。バブルの崩壊と接待需要の激減を踏まえれば、近年まれな成長業態といえよう。

地域一番店の中小外食企業八百数十社が加入する国内最大の外食コンサルタント企業、(株)OGMの代表・榊芳生氏によれば、「ここ数年、会員企業の新規出店で、最も数多く、好調に伸びている業態は焼き肉店とトンカツ店だ」という。

なぜ焼き肉店がこれほどまでに好調なのか。さらに踏み込むと、さまざまな背景と要因が見えてくる。

「ソウルオリンピック以後の一九九〇年代、韓国人の日本渡航が急増したころから焼き肉店業態の多角化が急速に進んでいるようだ」

都内のある業務用卸関係者の見方である。

「韓国人渡航者や駐日韓国人が急増したことで、焼き肉以外の韓国料理をアイテム化し業態を焼き肉店から韓国料理店へ特化する流れが起きている。焼き肉よりも、目新しい韓国料理を目当てに来店するお客が増え続けている」というのだ。

業態特化の波はこれだけではない。別の業務用卸の営業マンはこういう。

「業態特化へ向けた差別化の方向性は多岐にわたっている。従来、焼き肉店の経営者といえば在日韓国系の人が圧倒的だったが、最近は別業種からの参入組が相次いでおり日本人経営者も急増している。新感覚、和風感覚の焼き肉店が増えたことで、業態は従来の得意客(男性サラリーマン)以外の顧客層(女性層、ファミリー層)を急速に開拓している。以前、女性客は皆無に等しかったが、いまや半数が女性という店も珍しくないですからね」

こうした顧客開拓に大きく貢献したのは、無煙ロースターを世に広めた厨房メーカーや施行業者にほかならないが、その業界関係者に聞くと「女性客、ファミリー客は、もはや焼き肉店の店舗開発に欠かせぬキーワード。クリンネスはもちろんのこと、サラダバーを設けヘルシー志向をアピールしたり、トイレを豪華にしたり、お子さまメニューをつくるなど、アイデア合戦の店舗開発が続いている」という。

焼き肉店の活性化と業態多角化は、韓国人渡航者の急増により生まれたメニューラインアップの特化と、日本人経営者の急増による新感覚、和風業態の開発という、二つの側面から成り立っているというわけである。

食材流通の発展や牛肉相場の下落も、市場の活性化に大きく寄与している。焼き肉店に精通するある業務用卸によるとこうだ。

「以前、焼き肉店で使う食材の仕入れは、上野、三河島、川崎、鶴橋、下関の五ヵ所に限られていた。が、いまはそれらの食材を扱う卸業者も増え、チルド、冷凍流通の発達はもとより、韓国産の加工食材も身近になってきている。“特別な仕入れルート”も急速に緩和されつつあります」

「しかも牛肉相場の下落により、焼き肉従来の高級イメージは色あせる一方。客単価を上げるため、目新しさで集客するために、焼き肉以外の一品料理を充実しなければならないのが現状です」

また、現代社会を背景とする外食ニーズのあり方も、焼き肉店業態の勢力拡大に追い風となっているようだ。

「一家団らんの場を外食に求める機運が高まっているが、なかでも家族皆ではしをつつき合える焼き肉や鍋料理に人気が集まっている。そのニーズを見越した住宅立地ファミリー向けの出店が増えている。子供の好きなメニューアンケートでも、ここ数年、焼き肉は常にトップを争っている状況」とは先の卸売業者。

まさに焼き肉店、百花りょう乱の時代。勢力はとどまることを知らないのである。

活性化とともに進む業態の多角化。そのセールスポイントで業態をすみ分けると、六つの大筋が見えてくる。

(1)和風(高級)にアレンジするケース=切った肉を皿に盛って提供するだけの従来のやり方を改め、盛りつけを華美にしたり、小鉢を増やしコース料理を設定するなどして、和風の懐石風にアレンジするケース。そのため、和食やフレンチの経験者を採用するところもある。叙々苑チェーンの「游玄亭」、青森の「一心亭」がこれにあたる。

(2)居酒屋業態に近づけるケース=少量多頻度のメニューをラインアップし単価を引き下げ、アルコール類の充実を図り、二~四人客用と団体用のテーブル席を居酒屋向けに効率よく設けたケース。アイテム単価が安い代わりに“奉仕料”と称して一〇〇〇円弱のチャージ料を設定するところが多い。OLなど女性層が多いのも特徴。東京の「焼肉市場」や「丸喜市場」「焼肉工房LEE-YA」など。

(3)低価格でチェーン化するケース=以前からあるケースだが、焼き肉店は料理技術をあまり必要とせず、焼くのも顧客の手に委ねるため、店舗オペレーションをマニュアル化しやすく効率もよい。なによりたれが味の決め手とあって素材の品質を問われにくく、肉のカットや選別を業者任せにしやすいメリットもある。客層はファミリー客が主体。

埼玉の「安楽亭」、茨城の「宝島」は低価格チェーンの典型。全農畜産部の始めた「ぴゆあ」もその先駆けか。古くは群馬の「朝鮮飯店」、埼玉の「セナラ」などがあるが、こちらは低価格業態ではない。

(4)地方で大型展開するケース=地ビールやビール園のレストランとして、観光的に展開されるもの。魚介類などの地場産物と合わせ、鉄板焼やバーベキューと称するケースもあるが、やはり人気は焼き肉。バイキング形式や、住宅立地を見込んだファミリー向け大型店舗も増えている。熟練した料理人を手配する必要がないのでデベロッパーも事業を進めやすい。北海道の「アサヒビール園」「キリンビール園」「サッポロビール園」、鹿児島の「なべしま」など。

(5)焼き肉店から韓国料理店に特化するケース=韓国食文化の流入により、チャプチェ、サムゲタン、センソンジョンなど、焼き肉以外の韓国料理を取りそろえたもの。焼き肉店から特化したケースではないが料理店でいえば東京の「南漢亭」「眞露」のような店。

(6)老舗=古くからある常連客主体の老舗。東京の「一龍」「千栄」「アリラン」など。

さまざまな方向性が見えるなかで、(1)の和風(高級)志向の注目店を取材した。

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