企画特集「ラーメン」:超繁盛店へ華麗に変身

1998.07.20 156号 2面

先週、筆者が家に帰る途中の裏道で、あるラーメン屋が目に付いた。店内は満席で、外に列ができているではないか。いつも通る裏道であるがそんなラーメン屋の記憶がないので、「新規開店かな? それにしては入っているな?」と思いつつ家に帰った。

月曜日のテレビ東京の午後9時から「愛の貧乏脱出大作戦」という番組がある。売れなくて困っている飲食店などを取り上げ、売上げ対策をスタッフが協力するというものだ。何気なしにその番組を見ていたら先ほど通りかかったラーメン屋が先週出ていたのだ。

ラーメン屋の名前は「バッテンラーメン」という店だった。三週間ほどしてからお店を訪問して経営者らしき方の話を聞いてみた。

もともと、親族が表通りで長らくバッテンラーメンという店を経営していたが、そこを閉店し、現在の裏道に一年ほど前に移転してきた。当初は店名が「田園ラーメン」という名前で、なかなか売上げが上がらず低迷していたので、恥ずかしかったが番組に応募したそうだ。番組のスタッフがやってくれたことは‐‐

(1)レシピーの変更=麺を博多の有名麺業者から仕入れる。スープの取り方を変更する(2)メニューボードの作成=壁に取り付けた木に墨で書いて専門店らしい雰囲気を出す(3)店内の塗装=カウンター上の天井や下がり壁を黒く塗装し、専門店らしい雰囲気を出す(4)外装=裏道であるが、表通りの抜け道で通行量があるので外から目立つように看板を変更し、照明を追加した(5)店名変更=田園ラーメンでは特徴が無く素人っぽすぎるので、元の店名バッテンラーメンを使用する(6)テレビ番組でその一部始終を放映する(一時間番組)。

テレビで一時間の番組に取り上げられるということは実はものすごい宣伝量である。普通一五秒のコマーシャルを放映すると視聴率は平均で一〇%以下だ。その視聴率に放映本数を掛けたものが総視聴率(GRP)といい、大手ハンバーガーチェーンなどの新製品発売の際には一週間でそれを一〇〇本放映して一〇〇〇GRP使用する。番組の実質放映時間を三〇分間としても、一二〇〇GRPとなり、大手ハンバーガーチェーンの大規模な広告宣伝量に匹敵する量だ。

筆者が毎日通りがかる場所なのに気がつかなかったが、店名を変更し、照明の明るい看板と垂れ幕をつけたので気がつくようになった。テレビ番組を見た人にとっても、看板が目立つようになったから探しやすくなったようだ。

ラーメンというのは結局簡単な一〇〇〇円以下で食べられる日常食であり、店舗が多いからどうやって競争に打ち勝つかというのが課題だ。

一般的に飲食店の経営者はおいしいものを出せば売れると思いがちだが、しかし、まず客が店に来てくれないことにはその味を訴えることができない。そういう意味でまず、広告宣伝や話題作りで客を呼ぶことが重要になる。次に、通りかかった客が思わず立ち止まったり入りたくなるような店舗づくりだ。

昔はラーメンというのはラーメン屋や日本そば屋で提供していたメニューの一つにすぎず、専門店というのは少なかった。ラーメンチェーンの専門店が脚光を浴びたのは三〇年ほど前の札幌ラーメンのブームからだ。このブームは日本の好景気と旅行ブームが生み出した最初の飲食ブームであるといえる。そして、そのブームと初期のフランチャイズチェーンブームの追い風に乗り、札幌ラーメンチェーンが誕生し全国にチェーン展開をしていった。

その後、おいしいラーメン屋をつくろうというテレビや雑誌などの企画で荻窪ラーメンの人気が出たり、旅行ブームで博多ラーメン、喜多方ラーメンなどのブームが出たわけだ。最近では栃木ラーメンなどのブームをつくろうという動きがあるようだ。ラーメンはある意味では郷土食であり、一つの町づくりとして住民が一体となって評判を築き上げることのできる面白い料理だ。

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