チェーンストアのここに学べ レストラン成功へのQSCと標準化(上)

1998.08.17 158号 6面

大阪万博が外食産業の夜明けであった。マクドナルド、KFC、ダンキンドーナツ、ミスタードーナツ、デニーズなどの外資系のチェーンが続々と日本に進出し、純国産のすかいらーくが誕生したのだ。正直言って、これらのFF、FRチェーンの商品はとびきりおいしいものではなかったし、日本人の味にあっているものでもなかった。

筆者がマクドナルドに入社する時に、飲食店を経営していた父に「そんなまずいものを売っている会社はすぐにつぶれるぞ、日本人は魚を食べるんだ」と言われたことがあった。そのころは日本人はコメと魚を醤油で味付けして食べるのだと思いこまされていた。

また、当時の飲食店は「おいしければ飲食店ははやるのだ」と大きな勘違いをしていた。当時のように優れた飲食店が少なければ客に選択の余地がないから、どんなに汚くてもサービスが悪くても、味がそこそこで値段が安ければ繁盛したのだ。

当時は汚い店の方が味がおいしいといわれていた。そんな、迷信を吹き飛ばしたのがチェーンレストランであろう。はっきり言って、チェーンレストランの味は生業店よりも劣るかもしれない、それなのに大繁盛していった。それはなぜだろうか。

家で食事をしないで外食をする理由は何だろうか?家では難しいおいしい料理を食べたい、友人と食事を楽しみたい、調理が面倒くさい、後かたづけが面倒だ、買い物に行く時間がない、優雅なひとときを過ごしたい、ガールフレンドと時間を過ごしたいなど、いろいろあるが、単においしいものを食べたいというだけではなく、友人とくつろぎたいとか、日常生活から一時的に脱出したいという、異空間に身を任せるという欲求が大きいはずだ。

自分の空腹を満たすだけであれば、汚い店でも安くておいしければよいのだが、久しぶりの友人やガールフレンドと食事をするのであれば、きれいでサービスの良い店でないと雰囲気が出ない。つまり、外食の条件は単に食事の質だけではないということだ。

料理の品質は当たり前で、そのほかに良いサービスと、きれいな(接待に使ってもおかしくない)店舗でなくてはならないのだ。つまり、Q(品質)、S(サービス)、C(清潔さ、きれいさ)の三拍子のバランスがとれていなくてはならないということだ。

この飲食店の基本をQSCという標語のもとに実現させたのがチェーン店だ。QSCという言葉を観念的に唱えるだけでなく、それを実現するには具体的に何をしなければいけないかを決めたのだ。QSCは職人芸的に達成されているものではなく、チェーンのどこの店舗でも同じQSCを実現させなければいけないからだ。

では具体的に何を行ったか見てみよう。

Cとはクレンリネスの頭文字であり、清潔さと衛生であることをいう。良くQSCというので、品質が最も大事でその次がサービス、最後がクレンリネスであると錯覚しやすい。しかし、初めて飲食店を選ぶときに試食をしてから選ぶことはできない。飲食店でQ(料理の品質)とは、次にもう一度来るかどうかを決めるにすぎない。サービスも店舗に入って注文するまで基準は分からない。

そこで、初めての店舗を選ぶには店舗の外観、店内の清潔さで選定するという認識から、店舗外観と内装、その清潔さの維持に気を配るというクレンリネスという概念をチェーンは導入した。

そして、単にきれいにしようというかけ声だけでなく、店長はクレンリネスの維持のため、毎日クレンリネスのチェックをし、清掃したかどうかをチェックするというシステムを構築した。

クレンリネスの基準は簡単だ。店舗が新装開店した時と同じ状態であるということなのだ。そのために毎日具体的な清掃作業をスケジュール化し、汚れをためないようにした。店舗の構造も汚れにくいように工夫を凝らし、天井は簡単に汚れをふき取れるような材質にし、床も清掃が簡単で水がたまったりしないように完全にフラットな構造にする。

従来は水を流しっぱなしで、閉店後しか掃除をしない不衛生な厨房だった。水が流しっぱなしだから、長靴や高下駄をはかなくてはいけないので動きにくく生産性が低い。厨房が汚いからその汚れが外部の客席にも広がり、何となく薄汚い雰囲気になってしまう。

そんな常識を破るかのごとく営業中は水を流さないドライキッチンを導入し、さらに、清掃しやすいように専用の洗剤を用意し、脂汚れをためないようにした。きれいというより、スパークリングクリーン、新品のように輝いているという基準を日本に紹介した。

クレンリネスの範囲は、従業員の身だしなみ、建物外装、店舗周辺、店舗内装、調理機器など幅広く適用し、店長は客の目でチェックリストに従って清掃度合いをチェックしていった。

クレンリネスの基準、システム、マニュアルを確立するには、まず使用する洗剤、道具、清掃方法の導入が必要であり、チェーンレストランの台頭と同時に、外資などの業務用洗剤メーカーが日本に進出しはじめ、チェーンレストランに対する清掃方法の指導を開始したので、店舗の清掃レベルは格段に進歩した。郊外型FRのトイレに行くと、清掃のチェックリストが張ってあるが、これなどはその遺産だ。

従来の日本のホテルや高級な店舗では、茶の湯の作法、一期一会にこだわりすぎた(本質を忘れてといった方が正しいが)作法中心のサービスだった。往々にして心のこもっていない作法中心のサービスは、客にいんぎん無礼なサービスの印象を与えていた。また、高級料理屋やレストランの顧客サービスは固定客を重視し、一見客を軽視するサービスだった。

江戸時代などは客の飲食代は盆暮れの年二回であり、一見客では回収できるかどうか分からないから、固定客を重視せざるを得なかった。また、当時は農業人口が中心であり、比較的商人が多かった江戸などの都でも、住居の移転や旅行もままならず、人口異動は現在よりはるかに少ない安定した状態だった。そのため少ない固定客で商売を安定して営むことができた。

しかし、現代社会では地方の農業を営む人でも旅行はするし、会社勤めが中心の都会人は特に転勤や転居が頻繁であり、固定客にこだわっているといつの間にか客が居なくなるという現象が起きてくる。また、昔のお伊勢参りなどの旅行者は一生に一回の旅をする一見客だった。

ところが、現代人の旅は日常生活であり、東京から京都に年に数回旅行する人はまれではない。つまり、東京、京都などの大都市への旅行者は以前の一見客でなく頻度の少ない固定客であると考えた方が適切だ。

こんな現代では固定客から一見客への対応と、日常生活化した外食を気楽に楽しむことができるサービスの実現が必要であった。

現代の忙しい客の要求するサービスを分析してみると、まず料理提供時間が短いこと、つまりスピードが重視される。次に、フレンドリーなサービス、つまり、笑顔、スマイルが大事だ。

従来の飲食業はサービスというとあいさつの仕方、おじぎの角度、テーブルサービスの手順などと儀礼的なサービスを重視してきた。しかし、世の中のペースが早くなってくると、飲食業に望むのはそんな儀礼的なことではなく、頼んだ料理が早く出てきた、担当の社員がにこにこしているなどの具体的なサービスが重要になってきたわけだ。

提供スピードという意味では、ファストフードでは注文後料理の取りそろえは一分以内、ファミリーレストランでは一五分という基準を日本に紹介した。そのためには、セントラルキッチンで一次加工した食材を店舗で最終調理するだけとか、火力の強い専用調理機器やコンベヤーオーブン、クラムシェルグリドルなどの自動化機器を開発して使用するようになった。

ファストフードではメニューを絞り込み、事前に食材を調理包装紙で保温保管し、提供時間を短縮するようにしている。ファミリーレストランではオーダーエントリーしてから調理完了、サービス終了までの時間を記録できるようにし、常にサービス時間の短縮に努力している。

両方とも厨房機器だけでなくサービスのスピードアップのためにPOS(ポイントオブサービス)というコンピューター化したレジ精算機を導入し、売上げや商品データを詳細に記録分析し、作業割り当てや商品売上げの正確な個数を予測するシステムを構築し、ピーク時に十分な人と食材を用意できるようにしたわけだ。

フレンドリーなサービスを実現するためには従業員のスマイルが大切だ。東洋人は知らない人に笑顔を見せてはいけないというしつけを受けているために、初めての客に接すると笑顔が出ないのが一般的だ。そこで笑顔を自然に出すために導入したトレーニング手法は二つあった。

まず物理的に従業員が楽しく働ける職場を作る。具体的には良いコミュニケーションと正しい評価、トレーニングと会社の将来性、環境の良い職場と快適で清潔な休憩室(空調が良く効いていること)だ。

次にスマイルの訓練だ。スマイルはトレーニングできる。スマイルは顔の筋肉をどうやって笑っているように見せるかだ。働くのが楽しい職場で、顔の筋肉のトレーニングをすれば後は自動的にスマイルがでるようになるわけだ。

そして、楽しく食事をしたお客から「おいしかった、ありがとう」の一言をもらえるようにして、自信とプライドを持たせるようにし、笑顔が本物になるような工夫をいろいろ凝らしたわけだ。

((有)清晃代表取締役・王利彰)

(つづく)

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