チェーンストアのここに学べ、ピザ業界巨大産業形成7つの要因
日本の宅配システムは、ドミノ・ピザが一九八五年に東京・恵比寿の一号店を出店してからだ。そばやすしの出前とピザの宅配システムの大きな違いは、注文を受けてから配達まで三〇分間という時間を保証した宅配専門店であったということだ。
そして一四年たった現在では、最大手のピザーラが四二〇店舗、二番手のピザ・カリフォルニアが三七二店舗、ドミノが二〇〇店舗、ストロベリーコーンズが一四八店舗と巨大な産業となっている。成功の要因は七つある。
(1)社会のニーズ
従来は食事をするには家で料理を作るかレストランに食事に行くかの二通りの選択しかなかった。しかし、共稼ぎが多くなり、家での調理時間が無いが外食は面倒だ、家でテレビを見ながらのんびりと食べたい、という要望が出てきた。ポテトカウチ族といわれる人たちだ。
また、家に友人や家族が集まった団らんには食事が付き物だが、主婦が料理をしていると団らんに加わることができない。主婦は会話に参加しながら食事の支度をしたいが、従来の冷凍食品を解凍加熱するだけでは物足りない。本格的な料理を簡単に入手できないだろうか?
そんな食に対する多様な要望を満たすために本格的なピザの宅配が生まれたわけだ。
(2)高速調理システム
ピザは注文を受けてからドウをのばし、ソースとトッピングを載せ、まきのピザ窯で焼くというのが本格的な料理法だ。しかし、熟練のいる時間のかかる料理であった。ピザレストランの場合には、ビールなどで一杯飲みながら家族の団らんを楽しめるので良いが、人を家に呼んだ食事では注文したピザがいつ来るのか分からないのでは困ってしまう。
そのピザの焼く時間を大幅に短縮したのがエアーインピンジメントオーブンだ。六~八m/秒の高速の温風で、食品の表面にできる熱境界層を吹き飛ばし、短時間に焼成することができるオーブンだ。
高速の熱風により、ピザの表面にスポットの焼けムラができるのを防ぐために、コンベヤーでピザを動かしながら焼くことにより、上下均等に焼ける。焼成時間をタイマーで自動コントロールできるので、焼成の自動化ができ、アルバイトでも調理が可能になった。
このアルバイトでもできる高速調理システムが世界で六〇〇〇店を超えるドミノ・ピザチェーンを誕生させたといって良いだろう。
(3)低投資額
普通のピザレストランは大通り角などの一等地でないと売上げが確保できない。そんな場所に店を構えると家賃も高いから高い売上げが必要になる。そうすると大型の客席や駐車場が必要で、総投資額は多額となり、立地の選定を間違えると倒産しかねないし、多店舗展開するには多額の資金が必要だ。
ところが宅配の場合は一等地に立地する必要がない。交通の便の良いところであれば、大通りから少し中に入った立地でも良い。また、店内の客席は不要だから面積が少なくて済むだけでなく、内装もシンプルで、店舗の保証金や設備投資は大幅に減少する。
そうすると多店舗展開が容易になるわけだ。店舗の設備投資の合計額は二〇〇〇~三〇〇〇万円の間だ。
(4)低ランニングコスト
商売上、重要なのは損益分岐点が低いということ。低投資コストは借入金利や減価償却が少なくなる。
また、無駄な接客にとられる時間が少ないから人件費も少ないし、注文を受けてから調理をするので無駄な食材ロスもない。人件費は宅配要員を考えても二五%と低いし、原材料コストも包材費を入れても三〇%以下だ。FLコストは五五%以下とレストランよりも収益性が高くなる。
店舗面積は二〇坪しか必要ないし、三等地の立地なので家賃は二〇万円以下で済み、家賃比率は三~五%と低額で済む。
(5)低い損益分岐点だが高い客単価
いくら投資が少なくても売上げが確保できなくてはいけない。ピザは最低でも二〇〇〇円、高いと二八〇〇円の客単価を見込むことができる。そのため、宅配で人件費をかけても採算が合うわけだ。客単価の最低は二〇〇〇円というのが宅配の鉄則だ。
(6)科学的な管理手法
注文の電話を受けてから一~二分以内に注文内容と顧客名、住所、過去の注文内容の確認ができなくてはいけない。電話だけがあればよいように思えるが、以上の内容を正確に確認し、間違いなく届けるには、優れたコンピューターシステムが必要になる。
最近では電話番号通知のシステムが出来上がり、それと連動したパソコンシステムで住所から過去のオーダー内容、頻度などが一目瞭然で分かるようになっている。その緻密なシステムを構築するのがチェーン間の差別化になりつつある。
高速調理システムと科学的な注文受けにより、配達を三〇分から四五分以内で実現することが固定客をつかむポイントだ。また、過去の購買状況により自動的に販売促進のクーポンをつけ新商品の訴求をしたり、注文頻度を高くするなどのきめ細かい売上げ促進を可能にする。
(7)合理的マーケティング戦略
ピザの宅配は路面のレストランよりも簡単そうに見えるが、実は計画的な出店、広告宣伝、店舗展開の手法が必要になる。そのポイントを見てみよう。
1、出店戦略 〈商圏の決め方〉
一般的に、店舗を中心に半径約二キロメートル圏内が、その店舗の商圏と考えられている。これは、配達に要する時間を、最大一〇分で考えているからである。
デリバリー要員は一時間三件、売上げ六五〇〇円以上を稼がなければならない。こうすると人件費を一四%以下にできる。配達に三〇分かかると、一時間に二二〇〇円しか販売できず、人件費は四〇%と高騰する。
一台のバイクの稼動が、五回/時間あれば、かなり生産性が向上する。配達圏は二キロメートル以内といわれる理由は、バイクで一〇分走れる最長距離が二キロメートルくらいであったところから決められた。実際に、店舗の場所から予測の営業時間帯にバイクを走らせ、配達圏を決める。店舗の立地により、同じ一〇分でも二キロメートル走れない場合もありうるからである。
配達圏は決して円形ではなく、配達圏の設定は利益率を大きく左右することに注意しなければならない。
〈商圏分析〉
半径二キロメートルの商圏が適しているかどうかの判断は、所帯数以外に、競合店舗数、可処分所得額を加味して検討する。
現在、都内の住宅地域で二キロメートル圏内の所帯数を出してみると、平均八万世帯、密集地域では一〇万世帯ぐらいになる。これが、郊外に出てゆくと、六万世帯、四万世帯と同じ二キロメートル圏内でも所帯数に大きな違いが出てくる。
ただし、都内の住宅密集地域には、競合各社が既に出店しており、五~六店舗が狭い地域でしのぎを削っているのも珍しくない。郊外であれば、特に配達圏の小さな所ならば、競合店舗の出店がなく競争も比較的ゆるやかである。
郊外で配達圏を少し拡大し、所帯数を稼ぐか、都内の密集地に出店し、競合他社としのぎを削るか、営業の基本政策により変わる。どのチェーンも配達圏内の所帯数を六万~八万で営業計画を立てている。
〈交通条件の判断〉
店舗の売上げの一〇〇%をデリバリーで考えるため、一般のフードサービスの店舗選定基準とは異なる。店舗の大きさは、厨房、事務所含め、二〇坪くらいがベストだ。
場所は、まず配達の便を考える。国道沿いは、反対方向への配達の場合、ロスがでるので避けたほうがよい。しかし交差点の角地は検討の余地がある。あまり交通量や人通りの多くない、片側一車線の道路が出発、帰着とも安全で容易である。
当然商店街の真ん中の店舗では、人通りが多すぎてよくなく、夕方の買い物通りなどで交通規制を行うのが普通で、デリバリー店舗には向いていない。店舗入り口が、道路より下がり、入り口にバイクを並べることが可能な店舗が望ましく、駐車場を前面に持ってる店舗はなお良い。
2、広告宣伝 宅配店舗は三等地立地だから客の目に触れることが少ない。だから無店舗販売の通信販売のように客に店の存在を知らせる広告宣伝をきちんと行わないと売上げを維持することはできない。その手法を見てみよう。
〈広告宣伝〉
TVCMを使用し急速にチェーン展開をし、成功しているのは、ピザーラだ。ピザーラの店舗と売上げの伸びは目を見張るものがある。九〇年に店舗数が三〇店くらいの時にラジオCMを開始したが、効果が低いのでTVCMに切り替え、店舗数が六〇店舗を超えたときから、CMの効果が出てきた。
その結果、九四年4月の日経レストラン誌の「外食チェーンの評価・イメージ店調査」で、宅配ピザ部門の店名認知度の項目で他チェーンを引き離してトップである。これはひとえにTVCMのおかげだ。その知名度をバックに九三年から始まった年間一〇〇店舗の開店が可能になり、業界ナンバーワンの店舗数となった。
現在では広告宣伝費に年間二〇億円使用しているようだ。九五年に大阪進出した際に、当初一〇%にすぎなかったピザーラの知名度を一年後に六〇%にすることができたのはTVCMの大攻勢の成果だ。(月刊食堂九六年6、12月号より)
〈販売促進(プロモーション)〉
チラシ、メニューのポスティングを計画的に実施することだ。テレビでいくら宣伝しても具体的に地域住民に店舗があることを告知する必要がある。ポスティングは、月一回、できれば二回行う。
〈チラシの製作上の注意点〉
現在のチラシの単価の平均は、一枚一〇円ぐらいである。これはチェーン店舗数が増加し、枚数が多いと六円程度まで下がってくる。デザインを大幅に変更すると版を変更することになりコストが上昇するので、年間の販売促進計画を慎重に立ててデザインする。
チラシには季節メニュー、特別メニュー、プレミアムとサイドメニューやフィンガーメニューを告知する。特別メニューなどでバリューを訴え価格をあまり高く見せず、サイドメニューやフィンガーメニューなどで単価を維持する必要がある。
メニューの打ち出し方は、トッピングのバランスを考え無駄がないようにする。競合の多くなった最近では普通のチラシでは消費者が保存をしてくれなく、いざ注文をしようという時に手元にないという問題が出る。
そこで、ハードコピーというファミリーレストランのメニューのようなしっかりしたメニューを時々折り込み、保存をしてもらうという工夫も必要だ。
〈ポスティングの方法〉
大量にチラシをまく場合、新聞の折り込みを使用する。折り込み料金は量と媒体により異なるが、一〇円前後かかる。折り込みの場合一回で大量にまくことが可能だが、効果測定がしにくいという欠点がある。折り込みも二キロメートル商圏に一度に実施するのでなく、地域を選んで配布できるのでそれにより、地域ごとの回収を分析する。
プレミアムをつけることは、オーダーをするインセンティブとなるが、同時にチラシの効果測定になる。回収した地域、顧客をパソコンのデータベースに入れ、分析すると次回のポスティングに有効だ。
折り込みの欠点は、どれだけの精度があるかはっきりしていないことだ。新聞販売店が折り込みを行うために、実際の販売数より多めの折り込み数をいうことが多く、場合によっては、複数のチラシを一軒に折り込む場合もある。折り込みを実施した後はその精度を確認し次回に生かす。
また、折り込みだけに頼らず、こまめに自分たちでポスティングをすると、一枚あたりのコストは折り込みよりかかるが、折り込みで配布できない地域に浸透することが可能だ。折り込みは基本的に住宅地域に有効だが、都心部の法人の多い地区では効果が落ちる。
都心部では自分たちでのポスティングが有効だ。配達をしながら、時間のある時には近所に配布する地道な活動が効果がある。法人の場合、配達とは別に訪問しチラシを手渡すと効果がある。都心部の場合、住民や働く人の移動が多いので、定期的なポスティングは必要不可欠だ。
3、店舗展開と店舗オペレーション
ピザーラの成功は単にTVCMを投入しただけではなく、それに見合った店舗を集中出店して成功している。店舗展開を直営店舗だけで行うことは投資を考えれば資金確保上難しいはずである。特に年間一〇〇店舗を同時に展開することは無理だ。
この年間一〇〇店舗開店を可能にしたのは、フランチャイズシステムなのだ。フランチャイズ店舗はフランチャイジーの負担で出店するわけであり、本部の金銭的な負担が無いばかりか、フランチャイズ加盟金と保証金を受け取ることができるのだ。
ピザーラは関東中心の店舗展開を実施し、関東で三〇〇店舗の展開を行い、次に関西で一二〇店舗の展開をもくろんでいる。テレビコマーシャルの集中放映と店舗展開を連動する戦略だ。
ピザーラがTVCMを集中して流している東京テレビエリアのカバー範囲は、東京、神奈川、埼玉、群馬、栃木、茨城、千葉、静岡の一部、山梨の一部の広範囲のエリアなのだ。ピザーラは全国で四二〇店舗あるが、そのうち三〇〇店舗が東京テレビエリアに集中しており、効率の良いやり方だ。
米国のドミノ・ピザは、地域フランチャイズの展開と大量のTVCMのサポートにより一気に地域一番店になる戦略で、短期間に大チェーンになった。しかし、日本では直営展開にこだわり、店舗展開の数の面ではピザーラに先行されている。
九八年8月の時点でピザーラ四二〇店舗に対し、ドミノは二〇〇店舗と倍の差が付いていることでも明らかだろう。
〈宅配システムの活用〉
日本社会は老齢化に向かっており、単身の老人世帯が増加することが予想される。老人の大きな問題は食事のための買い物や外食がままならないということで、食材や調理済みの食材、日用品の宅配のニーズが大きくなる。また、共稼ぎ世帯の増加もあり、宅配業態が数多く出現するだろう。
宅配の場合、注文があってから配達するまでの時間が三〇分から長くても一時間でないとならない。調理システムの構築や宅配のルート検索などのシステム構築が必要不可欠だ。宅配の採算を合わせるためには低投資の店舗であることと、食材コストが安定して、かつ、客単価が高いというのが条件だろう。
最近の宅配ではすし、天丼など、いろいろな業態が出現しているが、すしは客単価が四〇〇〇円前後とピザより高いが、調理システムが確立していないため、ピーク時の配達に時間がかかるのが欠点だ。丼物は客単価が低いのが課題だ。
これから宅配ビジネスに取り組む方は、以上に述べた宅配ピザの成功の七つの要因にその業態があっているかどうか検討していただきたい。宅配に向いた業態はたくさんあるはずだ。
米国ドミノ・ピザは、一九六〇年に東ミシガン大学のそばに、当時無名の二三歳のトム・モナハン氏が開業して現在までで六〇〇〇店を超える巨大チェーンになったのだ。
((有)清晃代表取締役・王利彰)