業界人の人生劇場:味よし社長・大西勇氏(下)
綱島店の成功で、保土ケ谷店、高座渋谷駅小田急マルシェ内と、直営店舗を一二店舗展開するまでになりました。それぞれ、テークアウトのみ、テークアウトと宅配を行うなど、立地条件に応じて、業態を変えてオープンさせました。
綱島店が活況を呈していたころ自動炊飯ロボット、自動酢合わせロボット、自動のり巻ロボット、そして自動にぎりロボットといった完成度の高いすしロボットが安く、一台七〇~八〇万円程度でリース導入できる時代になっていました。
もはや、すし屋は職人だけではなく、素人でも経営できる業種となっていると思いまして、宅配専門の「味よし」を、九二年4月に立ちあげたのです。綱島店に続いてオープンさせた直営一二店舗は、順次、委託店舗にして移行しました。この一二店舗には、すしロボットを導入して、今までと変わりない味を、より効率良く提供できるようにしていったのです。
九五年。東京・昭島から「FCをやりたい」との知らせが来ました。行って見ると郊外のうどん屋なのです。月商は最高時で四〇〇万円ほどあったのが、私が行った時は、一〇〇万円そこそこ。それも、オーナーさんは何と、八〇歳。店もオーナーさんも青息吐息としか表現しようのない状態でした。正直言って「大丈夫だろうか」と、思いあぐねました。
しかし、FC募集に早速応募してくれたこの方を見捨てるわけにはいかない。これはぜひ、味よしとして復活して欲しいと、同じ商売人としての魂が、騒いだのでしょうね。周囲の意見もさまざまでしたが、結局、FC一号店として九五年6月1日オープンしました。
ふたを開けてみると、月商六〇〇万円は稼ぎ出す繁盛店に様変わり。一号店のオーナーさんはもう八三歳を超えられていますが、元気そのもの。当社では月一度、全店舗のオーナーによって意見交換を行うオーナーズ会を行っています。一号店のオーナーさんは、そのオーナーズ会の名誉会長になっていただいておりますよ。
九六年、二五店舗に達したころから、仕入れのスケールメリットを生かしたいと思いまして、テレビCMなどを積極的に活用、FC店舗加入の広告を打ち出しはじめました。生来の負けじ魂の底力でしょうか。とにかく、すべての店舗を地域一番店に、そして味よしを宅配ナンバーワンチェーンへ育て上げたく、加盟店獲得に力を入れました。
九七年4月には関東地域の店舗への材料配送を迅速かつ効率良く行うために、本部物流センターを設置。市場からセンターへ配送されたネタを加工、各店舗へ配送。すしの命ともいえるネタの鮮度維持を強化しています。
味よしの最大の特色は、月一度開かれるオーナーの集まり、オーナーズ会にあると言えましょう。一七〇店舗展開となった今、店舗数増加は確かに仕入れの面で、大きなスケールメリットをもたらします。しかし、チェーン運営の面では、本部とオーナーさんとの意志疎通が疎遠となってしまう危険性をはらんでいます。それを、解消するためにオーナーズ会があるのです。
各店のオーナー、本部スタッフが集まり、メニュー見直しから始まり、店舗運営の問題点など、実にさまざまなテーマについて、率直な意見交換を行うのです。私など、三時間も話し続けていて、のどがかれてしまうこともしばしばです。この、オーナーズ会のお陰で、これだけ大きなスケール展開となっても、味よしとして、一丸となって事業を進めていくことができるのですよ。
当社が10月に福岡支社を出すとの情報が伝わったとたんに、すでに数件の加盟問い合わせが来ました。九州へは、今年7、8月と私自らも赴き、地元の宅配ずしチェーンの視察などを、徹底的に行いました。九州では、太巻きが需要の大きなウエートを占めていることも察知、メニューについて九州向けに商品構成を少し変えております。
宅配だけでは、私は飽き足りません。回転ずし、たちのすし、テークアウト。すしに関することならば、すべての業態を手掛けてみたいのです。
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いずれは、“宅配ずし味よし”から、“すしの味よし”へと大飛躍する日を夢見るかっぷくのよい大西社長の表情には、常に先へ先へと進もうとするパワーがみなぎっているように思えた。
◆横顔
(株)味よし代表取締役大西勇氏。自らの性格を根っからの商売人であると自覚。友人の紹介により、ハンドバック店チェーンの中堅幹部を任され、商人道へ食い込む。その後「A寿司」で、すしのノウハウすべてを身にたたき込む。その後、念願の独立を果たす。
苦労人である氏にまつわるエピソードは、枚挙にいとまがない。鷹揚とした容貌の氏の言葉の端々には、これまでの人生を、氏持ち前の体当たり戦法で切り開いてきた、揺るぎない自信がうかがえる。「仕事が楽しくてたまらない」と語る大西社長の頭脳には、味よしの今後の成長の青写真がさまざまに描かれていることだろう。東京都出身、四六歳。
◆企業メモ
(株)味よし。資本金五〇〇〇万円。創業一九八一年。七九年に一号店。その後、直営で一二店舗を運営。一九九一年5月、横浜市保土ケ谷に宅配専門一号店をオープン、翌九二年4月、法人組織としての(株)味よしが誕生。テークアウトと宅配の混合業種であった既存店舗を順次、宅配専門に業種転換。味よしとしてのFC第一号店を九五年6月、東京・昭島にオープン。その後、堅実な売上げ増が評判となり、加えて積極的なFC募集広告を打つことで、現在、FC店舗一七〇店舗を運営する、宅配ずしトップチェーンにまで成長する。九八年内にはFC店舗二〇〇店舗展開を目指し、関西に大阪支社を開設(九八年2月)、FC募集を強化。一方で、10月29日に福岡支社を開設。全国規模での宅配ずしチェーン構築へ向けて、急成長を続けている。