これでいいのか辛口!チェーンストアにもの申す(19)「ガスト」

1998.11.16 166号 14面

よく飲食業では、人件費と原価率の比率で儲けの構造を表現する。すなわち、人件費が対売上高比で二五%、原価率が対売上高比で三五%、合わせて六〇%という経費構造が適正であるという。この比率でゆくと、最終の経常利益を対売上高比一〇%くらい確保が可能になるのである。

六年前、全国の飲食業者を驚かせた低価格レストラン「ガスト」は、バブル時代に上がってしまった人件費が、バブル崩壊で下がり続ける売上高の中で、これ以上人件費が上がっては赤字になってしまうという、悲鳴にも似た経営者のギリギリの選択で生み出されてきたものであった。

人件費は上がらなくても、売上げが下がり続ければ人件費比率は上がるのである。ではガストは、どのように人件費を大幅に削減できたのであろうか? 当時の外食雑誌を探して読み返してみた。そうするとそれは、おおよそ以下のような理由であった。

‐‐(株)すかいらーくは、バブル崩壊当時大変苦戦していた。従来のファミリーレストラン路線では、もうお客は来てくれなくなりつつある、とすかいらーくの首脳陣は悩んだ。もう今までのファミリーレストランのやり方では、人件費がかかり過ぎて、このままいけば赤字になってしまう。

なにしろフードメニューが、七〇~八〇種類もあるのだ。これをしていたら、キッチンもフロアー人件費と手間がかかり過ぎる。何とか人件費と人手がかからない、安上がりのレストランはできないものか?

そこで登場したのが、このガストである。ガストはそれまで、七〇~八〇種類あったメニューを一気に三五種類(半分)に減らし、ドリンクは飲み放題でセルフサービスのドリンクバーにした。なおかつ調理の手間を省くため、三五種類の料理の七〇%(つまり二五種類)は、インピンジャーというベルトコンベヤー式ジェットオーブンで調理できるようにしたのである。

つまり、こっちでベルトコンベヤーにハンバーグを乗せると、自然に調理してくれるという、便利なものなのである。この結果、人件費は大幅に下がって、メニューも非常な安さを実現することができた。それがまた、お客さまに圧倒的な人気を得るレストランガストとなったのである‐‐

この説明で「ウ~ムなるほど!」と、納得してしまうのだけれど、柴田書店発行の「月間食堂」九八年9月号に、昨年のガストの売れ筋メニューが掲載されているので、それを確かめる絶好のチャンスと思い読んでみた。この特集は、月間食堂が毎年行っている恒例の特集で、業界でも非常に権威のある特集記事である。

そこで興味深く読んで、「エッ!」と驚いた。前記の理論とは全く逆のことが載っているのである。何とガストの売れ筋ベスト3は、ベルトコンベヤー式のジェットオーブンなんか、絶対に使わないメニューなのである。というのも別表を見ていただければ一目瞭然、一番売れているメニューのベスト3が、なま物を使う和風料理なのだ。

この特集を見る限り、人件費を大幅に削減し革命を起こしたガストの武器、コンベヤー式のジェットオーブンはあまり使われていないのである。どう考えても、七〇%は使っていないのではないだろうか? そしてまた、メニューもまたいつのまにか六一種類も増えているではないか? こんなことで、革命的に人件費を減らせるのだろうか? オイオイどうなってるの?

でもしかし、弁護もしておかねばならない。この売れ筋メニューの内容を見ると、どうも夏メニューのようである。だから、オーブン料理は主力ではないのかも知れないのだ。

ここまで書いてくれば、もうおわかりであろう。ガストの革新性なんて、結局チェーンストア論者の一人よがりである。最後の答えは、お客さまが出すのだ。お客さまの支持を得て、繁盛するのは理論や手法が優れているからではない。それは単なる一手段に過ぎない。

ガストは低価格業態という、チェーン理論から生まれた革新的なレストランかもしれない。しかし、その革新性もお客さまが望むものを提供せざるをえず、結果として別表のごとくの内容となったのである。

ベスト3に入っている料理は、すべて和風料理である。ガストの主要な客層である若い人たちでも、味噌汁付きのおいしいご飯が食べたいのだ。ナイフやフォークではなく、おはしでマグロを食べたいのだ。その和風がえりの食事スタイルが、人件費がどうの、ジェットオーブンがどうのなどという、近視眼的な議論を吹き飛ばすのだ。

飲食業は、時代の雰囲気を色濃く映す仕事である。だからこそ、「市場は自ら、自らの形と価格を神の手によって作りあげられるように形作る」という、アダムスミス以来のマーケット・オリエンテッド(市場自己形成)の事実を忘れてはならないのだ。

まさに、答えはお客さまが握っているのであり、決して理論家やコンサルタントが握っているものではない。そのことを忘れず商売に励めば、それこそ幸福の女神がきっとあなたにほほ笑むに違いない。

(仮面ライター)

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら