これでいいのか辛口!チェーンストアにもの申す(21)売れ筋追求型メニュー
“だから売れないんだ!”とコンサルタントの怒声が聞こえそうであるが、これは何も飲食業だけの話ではない。今チェーンストア系のスーパーマーケット、コンビニエンスストア、ホームセンター、専門店が今非常に苦戦している。それは売れ筋商品がない時代になったからである。何が売れるか分からない時代になったからである。だから売るものがないという状態が続いている。
昔から“売れ筋追求型”の商売は間違いがない商売方法であるといわれてきた。どういうことかといえば、一番売れるブランドや、一番売れるスタイル、一番売れる色柄、一番売れる価格帯の商品を、いち早く把握してそれを重点的に品ぞろえすれば、自然と売れてゆくに決まっているからである。だからその売れる傾向の商品を、いち早く導入し並べておけば、間違いなく稼げるという商売法である。
近年は、ますます売れ筋追求型のやり方が普及してきて、コンピューターを活用したPOSシステムによって、簡単に売れ筋の追求=ABC分析ができるものだから、万事それに頼ろうとする傾向がはなはだ強くなっている。しかしここが問題なのだ。
このABC分析というやり方には、大きな問題が潜んでいるし、売れ筋をつかむというやり方自体がもう時代に合わない商売法になってきたのだ。そもそもABC分析とは何か? この説明から入ろう。
この方法は、イタリアの数学者パレートが考えた統計学の方法である。例えば一件の店のメニューが三〇種類あるとしよう。その売上げは月一〇〇〇万円だとしよう。とすると、その三〇種類のメニューのせいぜい五種類で、売上げの八五%、つまり八五〇万円が売れているというのである。それがA商品で後のB商品(五種類)が一〇%を占め、残りの五%の売上げを残りの二〇種類の商品であげているというのである(図参照)。
“そんなばかな!”と思われる向きもあるだろうが、これが数式で解明された科学というものである。話を飲食店に戻すと、最低でもA商品だけあれば現在の八五%の売上げができるのだから、何も苦労して三〇種類も商品を準備しなくてもいいではないかと思いやすい。ましてB商品まで入れると、九五%の売上げが確保できるなら、あとの二〇種類の商品はなくてもよい、いや邪魔だと思いがちである。
チェーンストア理論は、科学的な理論なので単純にこう思い込みやすい。しかしそれが違うのである。売れてるものだけでは、満足できないのが今のお客さまである。いろんな商品がバラエティー豊かにあるのが良いのだ。特に、BやCランク商品の中から、大ヒット商品が生まれているのである。もし、Aランク商品だけなら非常に寂しい売場になるはずだ。
それに人間社会もそうである。エリート(A商品)だけがかっ歩する社会なんて、何とつまらない社会であろう。釣りバカ日誌の“ハマちゃん”がいてこそ、潤いがある社会なのだ。美人ばかりではない、不美人がいるから良いのだ。やせばかりではない、デブがいるからバランスが取れるのだ。
こう考えてみると、ABC分析のA・B・Cそれぞれなくてはならない商品なのだ。しかし、経営効率だけを追うチェーンストアの人たちはそれが分からない。特に時代とともにうつろいやすい流行商品、即ちファッション商品となるとABC分析が全く当てはまらない。なにしろ、人と一緒のものでは嫌なのだという。だから「三愛」が大苦戦して銀座の本社ビルを売りに出し、「SUZUYA」が倒産という憂き目に遭う。
飲食店もそうである。売れる商品ばかりをただ並べているメニューでは、今のお客さまは満足してくれない。ガストのハンバーグやデニーズのサラダ、すべてありきたりで、全く冒険を忘れたメニューだからである。
「アイホープ」という長崎屋系の、レストランチェーンが大苦戦している。その店に最近よく行く。このチェーンは、アメリカではパンケーキのお店なのだ。しかし、日本ではそこいらのファミリーレストランとなんにも変わらない。
日本に導入された時、ちょうどファミリーレストランのブームだったから、本国で売上げの半分以上を占めるパンケーキに力を入れず、ほかで売れているメニューを入れて店を運営してきたのである。つまり、パンケーキというなじみのない商品を、じっくりと売り込まずに、取りあえず売れ筋を並べるという安易な道を歩んだために、今日の没落があるのである。
B・C商品にこそ個性がある。今は、その真の個性が求められている時代なのだ。B商品、C商品、それぞれに良さがあるのだ。そしてわが店には、もっと工夫したどこにもない商品(メニュー)がある。それも春夏秋冬、それぞれ商品をよく吟味して“わが店にこのメニューあり”といえるような自慢の料理と、独特のサービスを生み出さないと、チェーン店に簡単に負けてしまう。
“ほかの店で売れているから…”といったその程度のことで、わが店でやろうなんて甘い考えはやめにして欲しい。お客さまは、チェーン店にはない、オリジナルなメニューを待ち望んでいるに違いない。
そう! あなたの店が、思い切った冒険をして、お客さまが驚くような“おいしい料理”を提供してくれることを…である。
(仮面ライター)