うまいぞ!地の野菜(15)愛知県現地ルポおもしろ野菜発見「守口大根」
「ここだけにしかない大根だから自慢に思って作っているんだよ」と誇らしげに畑を指さす今枝二一さん(57)。二三人からなる扶桑町守口大根漬物組合の組合長である。
桑名町では古くから養蚕が盛んであったが、近年の絹織物産業衰退の影響を受け、これに代わるものが求められていた。
また、同町はゴボウの産地としても知られ、ゴボウは4月から8月までが出荷時期、これの裏作として何かないかと模索中、着目されたのが対岸の木曽川流域で栽培されている守口大根だった。
さっそく種を取り寄せ試作の結果、肥沃な沖積土が生育に適し、同じく細くて長い大根の栽培に成功。昭和27年、一九戸の農家が漬け物用守口大根の生産を始めた。当初は〇・二四ヘクタール、六・四tの生産量。今では、二三戸、一七ヘクタール、五六〇tを生産するまでになった。
守口大根は長さ約一m、直径約三センチメートルの細長い大根。漬け物専用に栽培されている大根だ。
江戸時代初期に中国から導入され、現在の大阪府守口市で栽培されていたと伝えられている。名前の由来は、栽培地の地名をとったとか、最初に栽培した人が守口という姓だったので、これからとったとか定かではない。
規格厳守して
木曽川流域に位置する扶桑町。砂地に近い畑が一面に広がっている。ゴボウの収穫が終わり、暑さの残る9月、強い日差しの中、深床掘りをおこなうトレンチャーの音が鳴り響く。いよいよ守口大根の季節が来たのだ。
畝起こしの終わった9月から10月にかけて播種。この後、適宜、追肥や消毒をおこない、12月から1月20日ごろまで収穫が続く。
収穫された守口大根は漬物業者に納入され塩漬けの後、酒粕に漬け込むこと三回。こうして塩分を取り除くと、こはく色の守口漬が出来上がる。
業者への納入規格は長さ九〇センチメートル以上、直径二・九センチメートル以下。「これに合わないものは、すべて捨てるんです」と今枝さん。伝統ある漬物作りにかかわる一員として、納得いかないものは出したくないというこだわりが感じられる。
新需要も模索
昨年の台風や長雨では大きな被害を受けたという。長年の経験から効率よく割り出された六センチメートル間隔の種が飛んでしまうと、規格品より大きく育つ。また、土の中に空気を含むと、主根から枝根が出てしまう。大根も自然児、開放感を味わいたいのだろう。昨年は二回も植え直したそうだ。
昔はすべてが手作業。スコップで一mもの深さまで掘り起こさなければならず、一日三本の畝を耕すのが限度だった。現在は機械化により効率化が図られ、「後継者不足もそう大きな問題にはならない。最終的には一〇人もいれば」とみる。
昨今の食生活の変化から漬け物離れが起き、生産量は減少気味。今後の方向性として、従来の高級酒粕漬け一辺倒に新味を加え、サワー漬け(甘酢漬け)やきんぴらなど料理にも生かすことができたらとアイデア商品を試作中とか。今後、こうした新たな需要が期待される。
■生産者名=扶桑町守口大根漬物組合(JA愛知北扶桑支店内)、愛知県丹羽郡扶桑町大字高雄字畑尻一二五‐一、Tel0587・93・2211、FAX0587・93・8811
■販売方法=地元漬け物のれん会や阪神地区の漬け物組合との契約出荷。
■価格=契約栽培により市場価格はない。