御意見番!業界ニュースを斬る「モスバーガーの新機軸」
マクドナルドが低価格で勢力を伸ばし続けるなか、モスバーガーがついに中期構想を発表した(日経流通新聞4月1日付などに掲載)。(1)五〇〇円のプレミアムバーガーを売り物とする「モスクラシック」を約二〇〇店舗出店(2)レストラン方式の「モスダイナー」を約二〇〇店舗出店(3)ターミナル周辺でスピード提供する「モスエクスプレス」を約一〇〇店舗出店。これに既存店のテコ入れ(業態転換を含む)を加えて二〇〇五年までに三〇〇〇店舗体制を築くというものだ。「新業態で攻めの姿勢に転じたと社内外に知らしめたい」とは桜田厚社長の弁。日本人し好、ツーオーダー、二等地戦略など、マックの対極路線を歩んできたモスバーガーの新機軸について、外食識者の見解を聞いてみた。
◆清晃・王代表
モスバーガー(以下モス)の問題は店舗数が少ないことだ。マクドナルドはそこら中にあるが、モスは都心を見ても全然ない。一八歳以上の人に聞くと、ほとんどがモスを好きという。しかし店舗がないためせっかくのユーザーを逃している。いまは出店に注力すべきではないか。投下資本を落とすとか小型化するなどの方法で採算性が合えばもっと出せる。
一五〇〇店ではまだ限界ではない。不振店といわれるのは店が活性化していないからだ。モスはいまだにチェーン展開当初の店が同じ場所にある。マクドナルド(以下マック)は銀座の一号店はじめ出店当初の店はすでに同じ場所にはなく、時代やお客に合わせてロケーションを変えている。
また、モスといえば“二等地戦略”が有名だが、いまはそれが三等地、四等地になっている。商圏の変化に合わせて店を移していくという戦略がモスには見えない。マックは組織的に毎年動かしている。モスはFCだから動きにくいだろうが、積極的にやれば勝機はある。
モスは日本人し好の商品を開発し成功した。日本のFFで商品力が一番強いのはモスだろう。それで売上げが伸びないのは、店舗数が少ないか、お客がいる場所に店がないかということだ。
私の思うモスの欠点は、メニュー増加とツーオーダーにともなう提供時間の長さだ。立地によってはスピードの方が要求される。モスの商品力を持って五分以内に提供できればマクドナルドに十分勝てると思う。
モスもマックも調理方式は基本的に変わらないので、時間短縮は可能。ただ従来の手作り感を維持しながらスピーディーにすることはむずかしい。機械、食材、オペレーション、レイアウトを多少変えていくことが必要だろう。
高級路線のほかに、駅周辺の店の大型化やスピード化も今回の戦略に入っている。ターミナルの周辺に一〇〇店舗ぐらい出店できれば、かなり大きい成果が期待できる。
既存店を転換することはFCオーナーにとってはしんどい。しかし新規出店は本部のリスクが大きく、今後は既存店のリニューアルを地道に模索することが課題となろう。
これはFC展開ゆえのハンデ。しかしモスはオーナーが前線に立っているケースが多い。モスの強みであるこのオーナーパワーの生かし方がカギとなろう。
業態開発は商品開発に結び付く。商品開発の一環として高級バーガーの業態開発をやるなら否定はしない。モスが業態をいろいろ試そうとしているのは、フレッシュネスバーガーを意識してのこともあるだろう。高級バーガーはマーケットが限られるが、都心や外国人の多い所ならニーズはあると思う。
◆オージーエムコンサルティング・榊代表
モスバーガー(以下モス)は「ちりめん亭」や「なか卯」なども展開しているが、いずれも同一のプライスゾーンで、利用動機や客層、値ごろ感についても同じ。つまり一つのステージしか経験していない。今回、桜田新社長が新戦略でステージの違う四業態に取り組むことについて、まずは評価したい。
ただ、現実的に見て、既存の不採算店を業態転換するということはないだろう。新業態で五〇〇円という高級バーガーを売るなら、新たにその商売に向いた立地を探し、従来とは全く違った業態として取り組まなければ失敗するからだ。モス自身もそれをよく知っているはず。
また商品力だけではお客はついて来ない。いまモスの客単価はハンバーガーを中心に食事をして八〇〇円ぐらい。ハンバーガー一個(二五〇円)の三倍から四倍のお金をお客は払っている。
発表では「高級バーガー五〇〇円で客単価一〇〇〇円を見込む」とあるが、ここがもうおかしい。高級バーガーにマッチするサイドメニューとなると、ハンバーガーに負けないだけの品位がいる。それに従うと客単価は一五〇〇~二〇〇〇円になってしまう。それだけ払えば専門店で食事ができる。
いまのお客は品位を大切にするが、同時に一つの客単価の中でどのように満腹になるか、満足するかをも求めている。それを踏まえないと、とんでもないことになる。これは商品力や人材力のある、「おいしくさえすればお客が来ると思っている」企業が陥りやすい話だ。
モスの不振要因は競合環境が厳しくなったことにある。マクドナルドの安売りによる突き上げがあって、もう一方は上からコーヒーショップレストランが価格を下げて迫ってきている。
モスは一番中途半端な位置付けになってしまった。でも絶妙な中途半端さ。これを五〇〇円に上げてしまうとガストと正面衝突する。モスの商品力は強いが「あの価格だからこそ」ということが前提にある。
アイデア先行や「安売りをしたくないから高級化する」というのでは成功しない。むしろいまの商品力をブラッシュアップし、正面から戦うべきだろう。いまのモスからは、その気概が感じられない。
モスは、わが国ならではのFFとして世界に誇るべきチェーンだと思う。事実、海外からお客が来たときは、いまも必ず最初にモスを紹介している。その良さが何であるかを、自らがもっとつきつめて変革すべきだと思う。この中期構想は、従来の延長線上での改善にしか見えない。
◆トーマス・アンド・チカライシ力石代表
モスバーガー(以下モス)は“心”をとても大切にする企業。いままで多くのお客に支持されてきた理由は、この心を中心としたホスピタリティの環境づくりにあったと思う。しかし度重なるトップの交代劇もあって、社内のそうした環境づくりとFCとの信頼関係が揺らぎはじめているのではないか。
新業態については、いまのモスが取り組むべきではないと思う。それよりも、ちりめん亭など先に開発した業態に優先順位をつけてテコ入れしていくべき。既存業態が不振の中、万一また新業態が失敗した場合、従業員のさらなる意欲低下はまぬがれない。
従業員のモチベーションに寄与する意味でチャレンジは必要だが、それならば、いまヒットしているエビ竜田バーガーのように、モスオリジナルの商品開発にもっと注力すべきではないか。また業態開発以前にすべきことは、文化と科学のバランスを均衡にすること。文化は人を中心としたサービスで、食文化や食生活を通じての豊かさなどを大切にする環境。これに関してモスは大きな貢献をしてきた。
だが一方で科学がしっかりしていないと事業として成立しない。モスはこの科学の部分が大変弱い。もう少し店舗の仕組みづくりや教育訓練、スーパーバイジングシステムの構築など、科学な部分を磨かないと、将来三〇〇〇店計画の中で問題が起きてくるだろう。
いまのモスは教育訓練の予算が以前より大幅に減っている、と聞く。もっと働く人を中心とした環境づくりに尽力すべきだ。
これだけ大変な競争時にある中、とくにFCから売上げ低下に伴う不平・不満が出てくる。その辺りも本部とFCとの信頼関係が揺らいでいる部分だろう。苦しい時ほど一番初心に戻ることが大切。初心に戻らず新しいことを始めると、軌道からはずれてしまう。
日本ではなじみのない言葉だが、米国では二〇年ぐらい前から「HRM」(ヒューマン・リソース・マネジメント)に注力する企業が確実に業績を上げている。
HRMとは、働く人の楽しさ、自発心あるサービス、リーダーシップなど、人的面を磨き上げること。今後の外食産業は、そうした環境をつくらない限り伸びない。
以前のモスはHRMにすごく注力していた。最近はそれが色あせたと感じる。新業態で攻めるよりは、いままで築き上げてきたモスの理念を大切に、弱い部分の仕組みづくりを強化すべきだろう。
◆ソルブ林原代表
マクドナルド(以下マック)の発足時、藤田田社長が米国に付けた唯一の条件が「立地だけは任せて欲しい」というものだった。二〇〇号店ぐらいまで藤田社長は自ら足を運び、立地にこだわった。
藤田社長は「米国文化のハンバーガーは簡単に売れない」ことを自覚していた。米国本社のマニュアルに従う以上、“味”を日本人好みに変えることはできない。だから立地戦略を重視したのである。
他の追随チェーンもマックをまねて展開し、ハンバーガーFF業態として形成した。しかしモスバーガー(以下モス)はその中で驚くべきスタートを切った。いきなりメニュー品目が多く、しかも手作りで日本人し好のハンバーガーを提供した。
モスはFFの定義である大量生産、クイックサービスを否定したのだ。これはFFとしては論外であり、マックは別業態としてとらえていた。
故桜田会長はなぜ二等・三等立地を選んだのか。マックは、無理矢理にでもお客に食べさせなければならないから、仕方なく一等地を選んだ。モスは日本人し好の味覚で、しかも「待ってでも食べたい」と思わせる魅力を持っている。
一等地に出てくればたぶんマックに勝てるはずだった。最初は資本力の問題があっただろうが、資金的余裕ができれば、一等地に出して仕組みをつくりあげていくもの。しかしモスは「これからも二等地でやっていく」とかたくなに言い続けた。そして周りは「商品力で勝負」「立地の差別化」などと称賛した。
私は「なぜ負けの戦略をとり続けているのか」と思っていた。そのツケがいまになって回ってきているのではないか。
マックが一等地をすべて押さえ、一等地でつくり上げたブランドを持って二等・三等地にサテライト店の進出を始めた。一方、「モスを食べたい」と思っても、一等地にモスはない。モスに行きたいという人の気持ちを裏切っている。商品力に過信しすぎたのではないか。
今後は、旧態然としたこだわりは捨て、一等地にどんどん出店攻勢をかけて行くべきだろう。
モスの一番の強みはFCに力があること。桜田会長と直結していた心のつながり、これはマックや他のFFにはなかった。二等立地でも、売れなくても、一生懸命やっていこうという大きな気概がある。
桜田厚新社長は就任以来、FCを巡り、オーナーとの対話に奔走しているという。ここに光明が見える。一個人にはすさまじいパワーがある。米国のマックも、FCがメニュー開発など根底の仕組みを開発し、本部がそれをまとめあげて来た経緯がある。
飲食業の問題点は、本社方針の上意下達だけでは改善できない点にある。しかし、モスはそれを克服する力を持っている。FCに改革の素地を見い出していくしかないのでは。