御意見番!業界ニュース解説:飲食業売上げランキングを読む

1999.06.21 180号 16面

日経流通新聞が毎年恒例の外食企業売上高ランキングをこのほど発表した。上位二五〇社の前年対比を軸に項目別ランキングなど、「さすが天下の日経流通」と思わせるほどよくまとめている。同業、異業種を問わず、これを外食界の企業動向の目安とする向きがあるが、舞台裏はどうなのか。御意見番に聞いてみた。

●藤居事務所・藤居代表

ランキングの推移から言える傾向は三つ。

まず、コアコンセプトの明確な企業が伸びている。単品の強みを発揮しているマクドナルド、焼き肉のさかい、なか卯などが典型的事例。セールスポイントがはっきりしていて、お客が理解しやすい業種業態が急成長している。

次に、日常食の外部依存ニーズに対応している企業が好調。ライフスタイルの変化を背景に日常外食市場は拡大の一途。大戸屋などの“定食屋”、オリジン弁当、ロックフィールドなどの“中食企業”がそれに当てはまる。

この分野はCVSやSMとの競合が激しく、お客のライフスタイルに合わせるフレキシブルな対応力が求められる。外食とは違った切り口は、ユーザーニーズを知るうえで大変参考になる。

そして、外資系企業にかつての勢いが見られないこと。いま、外食ニーズは和食回帰の傾向。そのためか。わが国の外食ノウハウやシステムが向上したことも一因だろう。従来は米国のノウハウやシステムを積極的に吸収してきた。そしてお客の洋食志向も顕著だった。だから外資系のチェーンに勢いがあった。

しかし最近はお客がそれに飽きている。和食回帰志向と同時に、米国から持ってきた洋食システムが機能を失っている。だから和食のノウハウやシステムを持った国内企業の方に勢いがあるのでは。マクドナルドは別格として。

総じて言えることは、はやり廃りが従来にないほどのスピードで展開していること。“手打ち”の早い企業ほど成功しているように映る。こうした時代における勝ち組は、今後、積極的に海外進出へ踏み出すのでは。

●永嶋事務所・永嶋代表

トータルの数字を見れば上位の顔ぶれにさほどの変化はない。それよりも項目ごとの動向に関心を向けたい。

「売上高伸び率」には、いまの旬の業態が出てくる。上位の中でFCをやっていないのはワタミぐらいで、全体的にフランチャイズビジネスが強い。直営店で一気に稼ぐのは大変だが、FCだと急成長している。

また新しい業態も顔を出しており、「どんな業態が、どんな手法と売り方をしているか」を三〇〇位ぐらいまでピックアップしたら、企業ではなく個店レベルで今後の動向が予想できるだろう。

「経常利益率」のランキングの上位には、サンマルク、秀穂(ラーメンとん太)、吉野家などがあがっているが、これはFCに卸す食材やロイヤルティなどによる利益が大きい。

調査の対象となっていれば間違いなくランキング上位に入っていると思うが、サザビーが運営するアフタヌーンティールームが高収益を上げている。外食事業部の中の単体で一〇〇億円は売っている。おそらく一七%ぐらいの利益率があるはずだ。百貨店などのテナントが一巡してロードサイドの出店も始めた。

上位一〇〇社の売上げは、外食全体の市場に対して見ればわずか一割ほどにすぎない。他産業のようなか占状態になることはなく、一店ごとのパイが小さいことが特徴だ。このことは、中小飲食店であっても、努力次第で地域一番店になれる可能性があるということだ。

まずは一号店を成功させる。生き残るのは、単に安売りや時代に合ったということではない。もっと真剣にお客さんのことを考えたところが上位に入る。「なぜ成功したか」という着眼点やプロセスを基に、店舗と売上げを積み上げていくことが大切である。

ランクインしている企業は、それぞれのサクセスストーリーを持っている。たとえばカレーのCoCo壱番屋など、典型的なパパママ店からここまで上りつめた。吉野家、ドトールにしても単品勝負の健闘ぶりが目立つ。

一方、かつての老舗やホテルはマイナス成長に陥り、ここ数年、ちょう落の一途をたどっている。ホテルは固定費と人件費が非常に高い。一流ホテルのフロアマネジャーの年収は八〇〇万円とも聞く。ホテル側も思い切って飲食部門をなくし、テナントに切り替えることも考えているようだ。

ただ食文化という観点からみれば、ホテルにはステータスと職人の世界がある。飲食店がすべてファストフードのようになれば食材が偏り、食の文化が育たなくなってしまう。

フランス料理などのいわゆるテーブルクロスレストランは、売上げのランキングにこそ出てこないが、注目すべきところはたくさんある。こうした魅力ある業態を取り上げることも、マスコミの責任ではないかと思う。

●商業環境研究所・入江代表

既存の大手外食チェーンと新興勢力の戦いが拮抗(きっこう)する時期に入ったのではないか。

とくに追い上げ組のペースが早く、店舗数が急ピッチで伸びている。物件が安いことや資金の手当てが他の産業に比べ比較的容易になっているなどで、出店しやすい環境になっていることが要因のようだ。

既存のチェーンの弱点は「人」だろう。それに対し新興勢力は、人的な部分のサービスをフォローするシステムを持っている。ワタミフードサービスやサンマルク、今回は入っていないが、来年ランキング入りをしそうな、懐石料理専門チェーンとして台頭してきた梅の花などだ。

梅の花は、セントラルキッチンを持っているが、すべて手作りにこだわっている。コストダウンを図る一方で、人を増やしサービスの部分を強化する仕組みを作っているところがいまは強い。ノウハウやオペレーションがあって、さらに人を有効活用する術を持っている。

店に行けば、取り立てて特別な食材や新しいシステムがあるということではない。むしろ昔のファミリーレストランで感じられた人間くささのようなものが魅力になっている。

ランキング五〇位以内の企業は、「そんなことをいまさらやれない」というだろうが、そうした店は行っても疲れてしまう。ただ企業としてこれだけの規模を持ったという意義は大きい。もし、すかいらーくがいまの規模で人材を生かせる体制を作ることができたら、その企業力は計り知れないものになるだろう。

ファミリーレストランが今日まで築き上げてきたものは、いまはスタンダードラインとして評価の基準となっている。ここを中心に上下にニッチのマーケットが形成されていった。洋食の分野に比べ、和食や中華の分野はまだ遅れており、これから二〇~三〇年かけてこの基準を作っていくだろう。チェーンの歴史はこうして繰り返されると思う。

ランキングに入っていないが、フランチャイズが増えてきたことも注目される。「加盟店募集」のチラシがその店の宣伝より目立っているケースも少なくない。営業力が卓抜したチェーンの場合、加盟店を増やすことで売上げを上げる仕組みになっており、個人が安易に投資することには怖さを感じている。

●OGMコンサルティング・榊代表

ランキングに上がっている大手企業のデータは、われわれのような一般の飲食店の参考にはならない。上位一〇〇社のシェアは一四・九%足らずで、そのデータから日本の外食産業を論ずることは危険なことだ。

上位の業績がすべて好調かというと、マクドナルドの二ケタ増が、結果的に上位五〇社の平均伸び率に大きく寄与している。これを見逃してはならない。またマクドナルドはなぜ伸びたのか、この議論がない。サテライト店の出店と商品の半額セールで積み上げた数字であって、これは中小飲食店の通常の売上げとは全く次元が異なるものだ。

上位一〇〇位までは資金力があるため、売上げの鈍化を新店舗で補い、増収を維持することができるだろう。大手の中でも勝ち組と負け組がこのランキングから明確に読み取れる。既存店ベースでみれば、一店舗当たりの売上げ成長率を伸ばしているところは上位二〇社ではほとんどない。

競合は、一店対一店でしているのであって、店舗同士の戦いに勝ち続けたところが大きくなる。会社として儲かることと店舗として儲かることは違う。マクドナルドなどは会社として成長する仕組みはできていても一店舗ごとの成長は止まった。店舗としての競争力の低下は著しい。

この既存店の落ち込みを新店舗で補うスタイルがいつまで続くか。この答えは二、三年先に出るだろう。時代は大きく転換しているのに大手は今の路線で走り続け、ブレーキをかけることができない。すでにシェア神話は崩れている。規模から質へ、思い切って体質改善を図らなければならない時だ。ただチェーンストアの理論、あかが染みついていて、体質を変えることがなかなかできにくい。

従来のチェーンストアがどんどん弱くなっていく最大の要因として、本部機能の肥大化がある。リストラ対策で現場の従業員の首は切っても、本部の人事に手を付けることは後回しになっている。本部を身軽にして現場を強くすることをしない。

われわれのグループがなぜ強いのかというと、本部機能を共有することで、個々の企業が現場に注力できる。身軽さがあるから時流に応じて業態を転換することも容易だ。

これからの経営は、同じ業態の店をいつまでも延命させているのでは、行き詰まる。例えばアトムボーイが回転ずしをやっていながら思い切って焼き肉をやるというのは、よほど不退転の決意があってのこと。フランチャイズで業態を変えるというのは、ともすれば加盟店にとって裏切りとも取られる。それでも生き残りのための提案をしていくことが経営だと思う。

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