特集・サニテーション:食の安全を確保するサニテーション・デザイナー

1999.07.19 182号 2面

◆その1

証券アナリストが、われわれフードサービス業界に対して、「食の安全確保を具体的に実施してますか?」と質問してきたとき、企業は、店舗は、どのように答えますか。また、「最前線にある店舗の食品衛生は本当に実施されてますか?」「本部の意向は末端まで本当に伝わってますか?」「店舗ごとに食の安全確保が実行され、誠実?で努力家?の厨房・ホール担当者が仕事し、クレーム発生時にお客さまへ提供した料理の安全安心を論理的に証明できますか?」。われわれが所属している企業に、こうした証明ができるだろうか。その改善の原点に店舗で働く人がいるわけである。

食品衛生法には、フードサービス業界に必須な食品衛生責任者の制度がある。この食品衛生責任者の役割は、(1)営業に代わって施設の衛生管理(2)設備の不備・不適の改善と経営者への申告(3)関係法律の遵守(4)従業員の衛生教育、の四項目。

今回、この制度がさらに進歩して、食品衛生実務講習会の制度ができたようだ。しかし、末端店舗に落とし込むためには、まだまだ時間がかかるだろう。

食品責任者の知識レベルに大きな幅がありすぎるように思えてならない。筆者が管理している居酒屋軍団の最前線店舗でも、同様な状況がみられる。食品業界全般では、HACCPシステム導入が叫ばれて、はや何年も過ぎているのに、中小企業の導入はあまり進んでいるようには見えない。

お客さまと直接接点がある店舗にこそ、このHACCPシステム実務者が必要なのにいないのが現状だ。飲食店や食品販売店にこそ、最前線店舗に飲食にかかわる危害の予測と防衛的改善の実務屋としての仕事人(SD=Sanitation Designer サニテーション・デザイナー)の養成を必要としているはずだ。

われわれ食品衛生技術者は、この現況を打破しなければならないと常日ごろ思っているし、これをやるためには、従来の考え方を変える必要性があるとも思っている。

この最前線で働く従業員に頼る以上、最前線の衛生実力者、SDの個から始まり、企業、そして業界、国へと新たなシステム構築が必要になるのは自然の利である。産業界は損得抜き、善悪の判断で、われわれのお客さまに還元する意味も含めて、食の安全確保の実務屋としての仕事人づくりをする日本サニテーション・デザイナー協会(仮称)設立支援をお願いしたい。

現在、東京都総務局の調査によると一五歳以上の人口は約一〇四三万人、一〇年後には一〇三七万人となる。

その中身は、一五歳~二四歳のヤングエグゼクティブ世代が三三万人減少、二五歳~三四歳のシングル世代は五五万人の減少、三五歳~四四歳の子育てビジネス中心世代は四六万人増加、四五歳~五四歳までの生活主体の耐乏世代は二四万人減少、五五歳以上の退職&直前世代は六一万人増加する右肩上がりの熟年大増加時代に突入する。

フードサービス業界は、売上げ約二八・八兆円、店舗数約八三万店、従事者数約四一〇万人、食の外部化率四五・一%、外食率四〇・二%、の状況下にある。

東京都の人口構成による影響を考えれば、お金を使えるヤングエグゼクティブ層とシングル層の減少約九〇万人、お金を使えない子育て層と生活主体の層が約二二万人増加時代となる。

熟年の人口増加は、社会を支える青年・壮年世代に負担の追い討ちをかけることになろう。あるゆる業界は、お客さまの減少から始まり、従業員の確保、生産性の大アップを成し遂げなければ、一〇年後の勝ち組みにはならない。そこで、あらゆる経営システムの見直しが必要条件となるはずである。

サニテーション・デザイナーの構築は、衛生を仕組みの中に導入しなければならない産業すべてに役立つ仕事人をもって、社会貢献に寄与するものと考える。

◆その2

〈協会設立の目的〉

本協会は、日本国内の最前線、現場における総合衛生管理(業界HACCP基準)を責務とするサニテーション・デザイナーの養成とその支援をする。もって、個人から店舗、企業、業界への健全性を図り、お客さまの健康に寄与することを目的とする。

〈会員〉

◇正会員=サニテーション・デザイナー(SD)免許取得者

◇副会員=サニテーション・デザイナー養成講座修了者

◇準会員=衛生関係者、雑誌講読者、学生

◇賛助会員=協会の運営を支援する企業、団体等

〈対象業界〉

フードサービス業界、中小食品メーカー、流通業界、調理師、栄養士、物流業界、検査業界、ペストコントロール業界、病院業界、設備業界、建築業界、人材派遣業界、理化学業界、保育園業界、理容・美容業界、その他

〈学会等情報交換〉

日本フードサービス学会、日本食品微生物学会、日本食品衛生学会、日本公衆衛生学会、日本栄養・食糧学会、日本食品科学工学会、日本感染症学会、日本衛生動物学会、日本水産学会、日本食肉研究会、日本調理食品研究会、その他

〈方針〉

厳格主義の本質を遵守し、個から企業、業界、国へと発展させ、「産業人による、産業人のための、産業人の挑戦的衛生確保」によるお客さまへ予測防衛にて貢献する。

〈仕事〉

(1)サニテーション・デザイナー(SD=Sanitation Designer)資格者の養成、試験、認証および更新

(2)SDに対する情報提供とコンサルタント

(3)業界の総合衛生管理としてのHACCPシステム自主管理基準の作成管理

(4)業界の総合衛生管理HACCP管理運営システムに基づく企業施設の分析、指導、検証および認定

(5)SD業務に必須の設備、機器、ソフトの指定制度

(6)その他付帯業務

〈組織〉

理事長

理事会↓評議委員会

管理本部…総務部、経理部、システム部

研究本部…細菌室、理化学室、官能検査室

認証本部…教育部、認証部業務部

理事長室…秘書室、監査室、企画委員会室

◆その3

フードサービス業界などの最前線現場においてHACCPシステムを活用し、公衆衛生、食品衛生、環境衛生の各種危害分析、予測と防衛的改善、その目的遂行の成果を企業にもたらす仕事人。

その産業界の実務者に「サニテーション・デザイナー」の名称を与え、実務遂行能力によりSenior, Master, Professorのグレードに分類する。

サニテーション・デザイナーの資格と実務要求レベルは別表の通り。

次に、サニテーション・デザイナーの具体的な仕事について、フードビジネス業界の最前線店舗を参考に簡潔に述べてみる。

フードサービス業界の店舗における衛生的な危害は、八つに大分類される。

それは、食材、人、調理器具、容器・包装、設備、店舗環境、気象、経営判断など。この店舗における危害の一つ一つを実務的に分析し、その危害を予測し、企業の立場で防衛的改善をすることが「サニテーション・デザイナー・シニア」の仕事。

食材は、発注業者からの検品時の温度管理、鮮度管理、消費期限などに注目し、実測できる商品は測定し、ほかは官能的検査でモニタリングして記録をとる。その後、食材の特性によって保管場所を決め、そのポイントは温度管理を中心にする。その食材を使用して、下処理などの仕込み、あるいは調理段階に進む。この時、大事なことは、洗浄、消毒・殺菌の濃度管理と時間、解凍法、加熱温度と時間、揚げ物用の油の酸化といった点。

調理終了後は、盛り付けに移る。ここでもTT管理がポイントになり、室温など料理の雰囲気温湿度、換気、風速、照度なども重要な要素になる。そして、料理の提供へと進み、加熱機器との接触などの条件も入れ、喫食時間を早めにするサービスも大事になってくる。特に、鍋物などの卓上調理も食材の芯温管理がポイントになることがある。

そのほかの危害については、モニタリングと記録の押さえ所をフローチャート方式で簡単に整理した。

●食材:発注↓検品↓保管↓下処理↓調理↓盛り付け↓配膳↓提供・卓上調理↓下膳↓ゴミ…↓リサイクル

●人:採用↓ホール・調理の業務↓OJT↓個人衛生の研修↓自立型健康管理…↓SD

●器具:発注↓検品↓保管↓洗浄消毒↓使用↓清掃↓乾燥保管…↓リサイクル

●容器・包装:器具と同じ…↓リサイクル

●設備:取扱説明書↓使用↓清掃↓保守担当者の指定…↓リサイクル

●店舗環境:設計↓5S教育↓保守担当者の指定

●気象:理念↓経営方針↓SD&ISO取得↓実行↓検証↓改善

●経営判断など:情報収集↓パラダイムの変化↓分析・判断↓具現化

以上、各種危害における簡単なフローチャートに基づき、各ポイントにおいてどのようなモニタリングと記録をすれば良いのか、「食材の危害要件」を中心にまとめてみることとする。

◆その4

コーデックス、ISO、アメリカ、EC、カナダ、その他世界でHACCPシステム推進の動きが見られる。しかし、なかなかお客さまに直接かかる末端の現場までは、手が届いていないのが現状。日本においても、中小メーカーや食品取扱現場にはPL法や衛生の自主管理も浸透していない。免許らしき責任者は、何も知らない。もちろん栄養士や調理師も衛生を不得意としている。

これでは、輸入食品に頼っている外食産業や日本の台所は守れない。食事にかかる仕事現場には、衛生実務者が必要であることは理解できるだろう。この現場にこそ、サニテーション・デザイナーの実務能力が必要になる。

筆者の衛生に関する基本的スタンスは、「人」である。この人・個人こそ、企業や業界を変えうる力を秘めている。この人に対する実学の教育こそ、筆者が求めているサニテーション・デザイナーなのだ。

だからこそ、サニテーション・デザイナーの教育者は、各産業界から求める必要がある。われわれが育成するサニテーション・デザイナーは、この使命に燃える人間であって欲しい。それがSDの役割であり、飲食における事故をなくすことなのだ。

企業の役割として重要なのは、SD資格の取得を社内で積極的に推進していただきたい。また、SD資格者がプライドを維持できるかどうかは、社内のSD資格の認識度合いだろう。ぜひ、資格者には手当ての支給をお願いしたい。

また、企業の各店舗においては、必ず一人のSD資格者がいて積極的に実学衛生を推進している姿(SDのバッジを付けた仕事人)をお客さんに見ていただきたいと思っている。

SDのいる店舗は、安心・安全の衛生システムが稼働していることを肌で感じてもらいたい。それが、日本サニテーション・デザイナー協会の願いであり、われわれからお客さまへの誓いでもある。企業は、SDのもつ任務をよく理解し、決してSDを孤立させないように養護してほしい。それが企業の最大の役割である。

あらゆる業界は人の営みとともに存在しているものであり、そこには必ず衛生問題が絡んでくる。それは、あらゆる商品の接点が人だから。例えば、フードサービスの業界なら食品衛生は最前線に位置する学問であり、除くことはできない。業界は国の基準の前に、業界基準を作るべき。それを国へ認知させることが、自主管理の基本となる。

その基準を守らせるためには管理させる人を養成しなければならない。業界ができなければ外部委託の道を選択すべき。ぜひ、サニテーション・デザイナーの認証を積極的に進め、所属企業に周知徹底させていただきたい。加盟企業の従事者にSDの告知をし、積極的に資格取得を促し、SDを有効的に業務させ、その働きに応じて手当で報いてもらいたい。

協会の役割は、SDの仕事とその実行能力の高さを告知し、広く国内や海外の人に知らせ、最前線現場の衛生ポリスとしての位置づけにしていくことが重要課題だろう。また、今時の言葉でいうなら、現場のHACCPシステム推進実務者として活用できる人間教育の養成機関としての使命、そして、SDの側面的な支援活動がポイントになるだろう。

われわれは、SDの活動を、現場で行動しやすくさせるための援助、お客さまの安全を守るプライドの証明「SD徽章」の発行、企業と業界における地位確立交渉などを手掛けていきたい。

◆その5

今、われわれは新しい世紀に移ろうとしている。これはパラダイムの変化を促すための良いチャンス。衛生も自得・自立管理を推進させるための人づくりが必要である。産業界は、地球の人のために、善悪の判断基準で、産業人による、産業人とお客さまのための、産業人とお客さまの「食の安全確保:自得自立推進」をすべき時代がきた。

すべては、やるぞ! の一言から、現場から、始まる。

一人の情熱と決意から企業、業界、世界を動かしてみよう。

(サニテーション・デザイナー 安藤洋次)

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