新店ウォッチング:モスフード新業態
純国産のハンバーガーチェーンとして、独自の道を歩むモスフードサービスは、今年に入って立て続けに新業態を出店している。少々駆け足になるが、今回は、これらの店舗をまとめて紹介することにした。
まず、新業態の一号店として今年3月にオープンしたのが、東銀座にある歌舞伎座の真向かいの路地を入ったところにある紅茶専門店「MOTHER LEAF」(マザーリーフ)。
「MOTHER LEAF」(マザーリーフ)とは、紅茶葉の新芽を摘み取った後、次の新芽を生み出す茶葉のことを指している。オープンカフェ風の店内は、ナチュラルカラーの木地に仕上げた家具や什器を中心に、アクセントとしてテーマカラーであるモスグリーンを配したシンプルな内装で、飲食店というよりは、最近流行の生活雑貨店のような清潔さが感じられる。
商品は、紅茶と、ワッフルやスコーン、和菓子などの簡単なお茶菓子のみで、紅茶研究家の磯淵猛氏が選んだスリランカ産の茶葉を産地から直輸入し、ストレートやアレンジティーとして豊富なバリエーションで提供している。
9月には二号店を下北沢に開店したが、ここではさらに食べ物の品ぞろえを増やし、チェーン化へ向けて着々と準備を進めている。
つぎに展開の可能性を見せているのが、5月に誕生した高級ハンバーガー店の「MOS’S C」(モスズシー)である。ツーオーダーで調理したハンバーガーを皿に載せて提供するスタイルで、一号店の茗荷谷店は、地下鉄丸の内線の茗荷谷駅から徒歩五分ほどの春日通り沿いに出店、同二号店は神楽坂のモスフードサービス本社の並びに6月にオープンしている。
このふたつの店舗は、同じ店名ながらロゴマークのデザインやテーマカラーなど、店舗のデザインコンセプトがまるで異なっており、さらに神楽坂店では、店頭を小さなベーカリーとして、店内で焼き上げたデニッシュなどの販売も行っている。
茗荷谷店は月曜定休というレストランスタイルの営業であるが、神楽坂店は年中無休であり、平日は多くのベーカリー店と同様に早朝7時30分からの営業を行うなど、多分に実験的な要素も踏まえた営業形態となっている。
このほか、6月に自由が丘の繁華街の外れに出店した自然食主体の和風レストラン「AEN」(アエン)は、食材に有機野菜や減農薬野菜を使用したヘルシー志向の本格レストランで、この業態を展開するために設立した子会社の「四季菜」が運営しているが、ファミリーレストランの展開構想を打ち出している同社にとっては、試金石ともいえる業態である。
また、去る8月に女性向け商業施設というコンセプトで臨海副都心に開業した新しいスタイルのショッピングセンター「ヴィーナスフォート」内には、大手チェーン企業として唯一「モスバーガー」ブランドで出店し、既存の商品に加えて、パテの分量を二倍にした「グランバーガー」(七〇〇円)などの新商品を投入して新たな展開の実験を行っている。
このように、さまざまな業態を提案し続ける同社の動向には、当分のあいだ注目が必要だろう。
●取材者の視点
昨年暮れも押し詰まってからの、モス社の突然の社長交代劇には、関係者の多くがあっと驚いた。
わずか一ヵ月ほどの間に、前社長の会長就任と末席取締役からの一一人抜きの社長抜てきが行われ、そしてさらに、その社長の突然の解任と現社長桜田厚氏の社長就任という目まぐるしい展開は、経済紙にも大きく取り上げられたので記憶している方も多いことだろう。
その桜田新社長は、今年に入ってから矢継ぎ早に新業態を展開している。
同社は、創業者の故桜田会長の死後、既存店ベースでの業績が伸び悩んでいるFC加盟店側から、今後の戦略方針に関する問い合わせが相次いだとうわさされていた。
そういった経緯の中で、このような新業態ラッシュという事態に至ったのであろうということは想像するに難くない。
これは、いわば「このようにさまざまな業態展開を行って、今後の可能性を追求していますから、ご安心下さい」という、加盟店に対するアピールの意味もあるのだろう。
ただ、これらの店舗には、実は共通するモス社らしいひとつの特徴がある。出店立地である。これらの店舗は、すべて同社がこれまで展開してきたのと同じように、それぞれのエリア内で、いわゆる一等立地からは少し外れたところに位置しているのだ。
多少例外的であるヴィーナスフォート店にしても、このSC施設内の位置づけで考えれば、決して一等地とは言い難いスペースへの出店だ。
この立地戦略が、あくまで戦略的に行われたものなのか、それとも、過去の開発プロセスを踏襲したがゆえのものなのか、それによって、この急速な展開の意味も変化してくるように思える。