料理の鬼人・私のスパルタ教育:イタリアンレストラン「マルーモ」直井料理部長
イタリアンレストラン「マルーモ」勤務一〇年。店の規模拡大とともに料理長として腕をふるい、これまで数十人の新人を教えてきた。現在イタリアで修業あるいは独立したスタッフもいる。時代の変化を見据えた新人育成法を聞いた。
料理人を目指す新入社員に、まずはホールを担当させるのがマルーモ流。毎年入る新人は包丁を持つ代わりに、お客への接し方を学ぶ。
「お客さまがお金を払ってくださるから給料がもらえる。料理がうまいのはもちろん、いかにお客さまに食事のひとときを楽しんでいただくか、また来ようという気持ちになってもらえるか。これはとても大切なことだけど、調理場にいるだけでは分からない。接客を通して学んでほしいんです」と直井さん。
本人の年齢や店のスタッフの状況にもよるが、だいたい半年から一年はホールを経験させる。内向的で、人前で緊張するタイプの新人でも、「慣れればお客さまに笑顔であいさつできるようになる。礼儀作法も身につく。要は積み重ねなんです」。
接客は、年代や体格の違うさまざまなお客がどんな料理、味つけを好むのか、観察力を養うチャンスでもある。もちろんお客の気持ちを酌む力や、お客との付き合い方など、学ぶものは計り知れない。
「料理人を育てるのは上司や先輩ではなく、最終的にはお客さまなんですね。お客さまの『これ、おいしかったよ』のひと言が、本人の自信とプライドになる。日々の仕込み、研さんはそのためのもの」
とはいっても部下からは「鬼の直井」と恐れられた時期もあったらしい。
「いまは全体を統括する立場にあり、各店舗に料理長がいるため私が直接しかることは減りましたが、昔は厳しかったですね」
まずしかるのは従業員同士の無駄話。
「仕事上必要な話ならいいが、従業員同士でしゃべって笑っているなら、その笑顔をお客さまに向けろ、と。結局お客さまに意識が向いていないということですから」
気持ちがお客に向かないと単純ミスも起こしがちだ。
「調理場でも、新人が慣れずに失敗したものなら『しょうがないね』と声をかけて、そこでしかることはしません。でも慣れてきて当然できることができないのは気のゆるみによるもの。これは本気でしかります。料理は一瞬一瞬が真剣勝負と体で覚えさせないと」
直井さんによると、よき料理人になるには「器用さ、手早さ」といった技術を最初から身につけているより、「前向きで、努力家、負けず嫌い」であることが大事という。このため評価するのは「いまより前進しようとの意識やその人なりのステップアップ」。もちろん給与にも反映させる。
自分から動かないと、吸収できることが限られるのがこの世界。「会社に就職したのではなく、いいところを盗め」「やりたいことはどんどん提案せよ」と伝える。全員で店を経営しているという意思疎通のもと、基本的には何でもやらせる方針。店舗の移動希望(マルーモは現在、東京と横浜に四店、来年さらに一店出店予定)もそのひとつ。
「おいしい料理を出すという最終ゴールは同じでも、料理人が一〇〇人いれば、一〇〇通りのアプローチがある。そのなかから自分に合ったもの、また各先輩の工夫を盗み、自分なりのやり方を開発する。違う料理長のもとで働くのはそんな良さがある」
いまどきの新人は「素直な子が多いが、もっと自分が、自分が、といった押しの強さ、アピール力が弱い」と感じる。
「お客さまに出すメニューの調理法が分からなければ、率先して調理場に顔を出し先輩に聞いてまわる。自分のころはそうやって聞いてメモしたものを、帰宅してからノートにまとめたものですが」
進んで行動を起こすことが苦手な新人たちを対象に、ホールの仕事の合間に、実際の作り方を見せて教える新人教育の時間を設けることも考案中という。
何年かをともにし、力をつけたスタッフは手元に置きたいのが人情だが、「修業のためにイタリアへ」という後輩にはエールとともに送り出す。
自分の故郷に戻って店をもった人間もいる。招かれて行ったときには甘言だけでなく、メニューから内装まで厳しいアドバイスも忘れない。
「料理人の目標はいつか独立して自分の店を持ち、成功することだと思うんです。そのための手助けもしていきたい」
店の仲間という範囲を超え、料理人同士の横のつながり、信頼関係の中での教え合いも大切にしている。
◆なおい・ひろみち(マルーモ料理部長)=一九六七年群馬県生まれ。小学生時代にテレビ番組の「料理天国」に引かれ、高校卒業後、大阪の辻調理専門学校へ。卒業後、同校フランス校へ留学。帰国後、当時、地中海料理をメーンにしていたマルーモ入社。お台場店、本店などの料理長を務め、現在は全店を指揮、マネジメントもこなす。













