超繁盛店ルポ・アメリカ版:スターバックスの原型と新業態
Peet’s Coffee & Teaは一九六六年、オランダ生まれのAlfred Peet氏三五歳の時に米国サンフランシスコの対岸のバークレーに一号店を創業した。UCバークレー大学のすぐそばのWalnutとVineの角だ。近くにはカリフォルニア料理を作り上げたシェパニーズがある。
フレンチローストのような濃いヨーロッパコーヒーを売り物にしていた。個人で長らく営業をしていたが、スターバックスの創業者(三人)の一人Jerry BaldwinはPeet’sで焙煎のコーヒービジネスを学び、出身地のシアトルに帰り、スターバックスを創業したのだ。
スターバックスは後に現社長のハワード・シュルツ氏が買収し、創業者の一人Jerry Baldwinは古巣のPeet’sを一九八四年に買収、社長に就任し現在に至っている。現在は四九店舗をカリフォルニア中心に展開している。
この一号店はまだ、現存しており、ここを訪問すると初期のスターバックスの店舗とそっくりなのに驚かされる。スターバックスは独創的な会社のように思われるが実は、マクドナルドのように創業者から、そのアイデアを買い取り、巧みなマーケティング戦略で店舗展開を成し遂げたのだ。
一号店はUCバークレーのそばにある学生街だ。この周辺には大学教員の住宅や学生たちが共同で住むアパートが点在している。バークレーは以前にも申し上げたが米国の新しい息吹を生み出す街で、最先端の流行を生み出している。
アメリカンコーヒーといわれるように米国のコーヒーショップ(デニーズ、ビッグボーイ)などのコーヒーは、薄くてお茶のように何杯も飲めるのが特徴だった。そのトレンドをちょっと見てみよう。
米国の一人あたりのコーヒー消費は一九四〇年がピークだった。当時、全人口の七四・七%にあたる一〇歳以上の人間は、一人一日あたり五杯のコーヒーを飲んでいた。それが六〇年代になると、一・六七杯にまで下がっている。
しかし、八〇年代に入ってから消費量は再び上昇し、九三年末には三・七杯にまで戻ってきているのだ。そしてそのうちの三〇%はグルメコーヒーやフレーバーコーヒーで占められている。
つまり消費量そのものはかつての数字までは至っていないものの、高級化しているのである。米国ではコーヒーに対して金を払わなくなっているといわれるが、それはいままでのような番茶のようなコーヒーに対してであり、おいしいもの、付加価値の高いコーヒーには、それなりの金を払っているということだろう。
コーヒーの消費量が伸びた一因と考えられるものに、アメリカ人の酒離れがある。
米国では飲酒運転の取り締まりが厳しくなっており、かつてほど酒を飲まなくなっているのだ。だから、アルコールビジネス、バービジネスは壊滅状態に近い。しかし、食後に何も飲まないというのはやはりさびしい。だから、酒のかわりにエスプレッソやカプチーノなど、付加価値の高いコーヒーを飲むようになった、と考えられる。
スターバックスのようなグルメコーヒーチェーンは、こうした背景を受けて、一〇年前からシアトル界隈で偶発的に出現した。チェーンとしては、現在スターバックスのほかに、グロリアジーンズ、コーヒービーンズ、パスカ(最近スターバックスに買収されてしまった)、ティモシーズ・コーヒー、チャックフルオナッツなどがあるが、急成長しているのはスターバックスだけで、それに続くのはグロリアジーンズの二〇〇店ちょっと。あとは四〇~五〇店舗程度のチェーンにすぎない。スターバックスがダントツの出店力を持っているのである。
利用動機の幅は広い。朝は出社前に飲んでいくお客や、会社で飲むためにテークアウトするお客であふれているし、夜は夜で豆を買って帰るというお客も多くなる。
中心は朝となるが、基本的には全時間帯稼働できる。やはりドトールコーヒーと同じように、テークアウトを持っていることが利用動機の多様化につながっているのである。
しかも、こうしたヨーロッパスタイルのグルメコーヒーチェーンのプライスは総じて高い。コーヒー一杯が普通の二倍から三倍に近いプライスになっている。だから利益率は高いはずである。売上高はそれほど高くなくとも、利益率の面では十分な魅力のあるビジネスなのである。
しかも、調理が不要で、コックを雇う必要がない。また、普通のレストランではフロアの人間だけでも何人か必要になるのに比べ、コーヒー店では最大でも四人程度で回せるはずだ。原価率が低いだけではなく、オペレーションコストの面でもメリットは大きいのである。このへんもグルメコーヒーチェーンが注目を集めている原因の一つであろう。
ピーツコーヒーの一号店は、バークレー大学のすぐそばの角に位置している。濃い木目のヨーロッパ風の外装だ。中に入ると二つのレジがある。入り口は立ち飲みのコーヒー、一番奥はひき売りコーヒーのレジだ。もともとはヨーロッパ風の深煎焙煎した新鮮なコーヒー豆を売るのが主力のビジネスだが、豆を買う際に試飲して確認できるように立ち飲みのレジを設けたのだ。
一号店には立ち飲み用のカウンターだけで、イスはない。コーヒーのほかは簡単なペイストリーだけだ。店内のレイアウト、雰囲気は初期のスターバックスとそっくりだ。この店は創始者がオランダ出身なのでやや暗いヨーロッパの雰囲気だが、スターバックスは店内レイアウトは同じまま、内装を西海岸の明るさと、流行のイタリアンの雰囲気をミックスさせ、イートイン用のテーブルを設けたという差だ。
最新の店は写真のように海岸よりの高級ショッピングモールに入っているが、やはり角店で店内にはイートインスペースはなく、店外に簡単なテーブルとイスを置いている。
これらの店を見てみるとスターバックスはほとんどのアイデアをピーツコーヒーからもらい、それをどれだけ洗練させるか、客の喫茶店としての需要を満たすために大型化の客席と店内デザインをどうするかということを考え、新たに、客へアピールするようなイメージの強化に心がけたのだということが分かる。
スターバックスは二二〇〇店舗を超え、さらにユナイテッド航空の機内食、ペプシとの提携によるフラッペティーノ発売、コーヒー豆のスーパーでの販売などで露出度が高すぎ、米国の若者の間でダサい店、行く奴はダサいというイメージが出てきた。
今後マクドナルドのように店舗数を拡大するためには、ダサくなったイメージをかえなくてはいけなくなったのだ。そのためには大手のファストフードのようにテレビコマーシャルを使用するか、その他の手段でイメージを変更する必要がでてきた。
そこで、ある実験店をサンフランシスコダウンタウンに開店した。
場所は、2727 Mariposa @ Bryant San Francisco
Tel415-552-2649だ。
店名はCircadiaという名前で、三毛作を狙った店舗になる。スターバックスという名前は一切出さず、イタリアのバールのような形態を狙っている。周辺は芸術家の好むニューヨークのソホーのような環境で、店内には絵を飾ったり、音楽の生演奏ができるステージを用意している。
メニューは、コーヒー類のほかにアルコール、サンドイッチ、パニーニ、ピザ、サラダ、スープなどを取りそろえており、朝食、昼食、軽食、夕食、夜食などいろいろなニーズにこたえるようにしている。
従来のスターバックスは店内に入った際にコーヒーの香りが充満しているように、加熱調理のメニューをおいていない。ドトールコーヒーが店内に入るとホットドッグのにおいで充満しているのと対照的だ。
しかし、加熱調理をしていないということは、おいしい食事をしたいという客の要望にはこたえられないという欠点でもある。そこで、簡単な加熱調理食品を提供している。もちろん流行のイタリアンのパニーニやピザがメーンだ。
スターバックスはセルフサービスであり、従来の喫茶店のようにゆっくりとくつろぎたいという要望にはこたえられない。そこで、この店はテーブルサービスも行い、日本の昔の居心地の良い喫茶店のようにしている。
店内はスターバックスのようなすきのないモダンな内装とは正反対のヨーロッパ調の古いアンティークを使った、いわゆる昔の日本の純喫茶的な内装だ。
店の中央にはステージを設置し、夕方には地元のミュージシャンが演奏をしたり、詩の朗読会などを開き、地元密着型の経営戦略を心がけている。
といって決して非近代的な経営手法ではなく、店内にはインターネット端末をおいたり、ネットワークで店舗の訴求をしたりと、シリコンバレーを控えたサンフランシスコらしい趣向を凝らしている。
スターバックスのように巨大なチェーンのまねをするのは難しいが、ピースコーヒーやスターバックスの実験店のサーカディアのような喫茶店は、衰退する日本の喫茶店経営者に大きなヒントを与えるのではないだろうか。
サンフランシスコは一年中温暖な気候であり、日本からも近く親近感の感じられる町だ。サンフランシスコに寄ったら、これらの喫茶店をぜひ訪問していただきたい。
(㈲清晃代表取締役・王利彰)