超繁盛店アメリカ版:KFC1号店「サンダースカフェ」
前回はスターバックスの原型であるベイエリアのピーツコーヒーの一号店を紹介した。引き続き、大チェーンと化したケンタッキーフライドチキン(KFC)とマクドナルドの創業一号店を今回と次回に分けて紹介する。両社とも一号店を博物館として当時のままの状態で保存しており、創業当時の営業のやり方を学ぶことができる。どんな大チェーンでも最初は個人の食堂として営業を開始したのであり、そのやり方は大繁盛の大きなヒントである。
KFCの一号店はサンダースカフェとよばれていた。創業者のカーネル・サンダースは、このテキサスのカービンという田舎町の州道沿いで旅行客用のモーテルを経営していた。宿泊客の要望によって、ガソリンスタンドと食堂をつくったのだ。
南部ではフライドチキンはポピュラーな食べ物であり、旅行客にも当然フライドチキンを提供していたのだ。特殊な調味料と、圧力鍋での調理に工夫を凝らしていたので、フライドチキンは人気商品であった。
内部は博物館になっており、当時そのままの状態を再現してある。
厨房は普通のレストランと同じであり、当初はレンジの上で一般的な圧力鍋を使用し調理していたのがよく分かる。
もう一つの特徴のある展示はスパイスだ。カーネル・サンダースは一一種類のスパイスを調合し、塩と小麦粉を混ぜ、圧力釜とそのスパイスを使うことで独自の味を作り出していたのだ。
では、骨付きのチキンを圧力鍋で調理するメリットを見てみよう。
オープンフライヤーで調理した場合、肉温が七〇度C以上になっても、骨の内部の髄温は六〇度Cぐらいであり、骨から血の色をした髄液が流れ出して食欲を減少させるのである。
一八〇度Cの油温でフライしても、常圧では水は一〇〇度Cで沸騰するので、水分がある限りは品温を八〇度C以上にすることは難しい。肉の温度を上げようとすると、肉は水分を失い硬くなってしまうのである。
圧力をかけてフライを行うと、水の沸点が上昇するため、加圧の程度に応じて一〇〇度Cよりも高い温度にフライ材料を短時間で加熱することができる。
一・八五気圧~二・〇気圧でフライすると、水の沸騰温度は一一六度C~一二一度Cになり、肉の内部温度は九〇度Cに容易に達する。そのために、骨からの肉離れがよく軟らかい。髄液の温度が八〇度C以上に上がり固まって、流れ出すことがなくなる。そのため、肉の内部の黒ずみがなく髄液のにおいも出にくい。
圧力をかけて短時間で調理するため、肉のうまみを含んだ水分を失うことがなく、ジューシーなフライドチキンになるのである。
一八〇度Cに加熱した油にチキンを入れ、ふたをする。加熱されたチキンから水蒸気が出て釜の内部の圧力を上昇させる。一定の圧力に上昇した後は、圧力調整弁から余分な蒸気を逃がしながら、一定の圧力を保つようにする。
一八〇度Cの油に入れられたチキンは表面がキャラメライズされ、内部の水分の流失を防ぐ。チキンを入れてから数分で油の温度は一三〇度Cまで下がってくる。その温度でも、水の沸点が一一六度C以上なので肉の調理は十分に行えるのである。
油の温度を一三〇度C以上に保つように火の調整をする。余り温度が低すぎるとチキンの出来上がりがオイリーになるので、好みにより温度を調整する。
この圧力フライの原理はカーネル・サンダースが特許を取得し、独特の一一種類のスパイスとともにだれにもまねのできない味を作り上げ、世界最大のチェーンになったのだ。