快走続くマクドナルド 強さの秘訣

2000.05.01 203号 2面

競争厳しいハンバーガー業界の中でマクドナルドの快走が続く。1999年12月期の決算では、売上高(直営店とFC店の合計)3944億3600万円、経常利益314億0700万円と、ともに過去最高を更新した。6期連続の増収増益と無類な強さを発揮しているマクドナルド。この強さの秘けつはいったい何であろうか。

絶好調のマクドナルドであるが、図表1を見ると過去やや低迷していた時期がある。九一年から九四年。とくに九三年度は日本マクドナルドの歴史の中でも唯一売上高が伸びていない時期である。店舗数増加にもかかわらず売上高が伸びていないという現実は相当ショックな出来事であったろう。しかし、これがターニングポイントとなって今のマクドナルドがある。

九三年はバブル崩壊後、どの企業も右往左往していた時期。ここでマクドナルドは客単価の分析を行う。すると、八九年に六八九円であった客単価はバブル期を経て、九一年には七九一円にまで上昇していた。これはもうファストフードの客単価ではない。

消費者物価指数の推移を超えた客単価上昇が売上高低迷の原因。こう分析したマクドナルドは、適正な客単価への回帰へと、九二年にシェイク半額セールやハンバーガー一〇〇円セールなどを行う。そして九四年のバリューセット開始。かくして、他社を圧倒する低価格戦略はこのようにして始められた。

しかし、これは単なる低価格戦略ではない。売上高は「客数×客単価」で表される。客単価を低下させる分、客数を伸ばさないと結果的に売上高の上昇は見込めない。マクドナルドは、客数を伸ばすべくサテライト店の出店を開始する。

九二年にテスト店を出店し、九四年から本格的に稼働。九四年一年間で七五店という驚異的出店を行う。

このサテライト店は、新開発のステージングマシンという小型の新機器を導入している。これによりローコストオペレーションを可能にし、正規の旗艦店からの食材の配送や売れ筋に絞り込んだメニューなどの工夫と合わせ、スリムな経営が行える低コスト店を実現させた。これにより、二等立地への出店が可能となったのだ。

低コスト出店による量の拡販に支えられ、低価格戦術を可能にした見事な戦略。この戦略の一貫性がマクドナルドのすごさである。

その結果、ハンバーガーの市場規模を増大させ(図表3参照)、市場リーダーとしての役目を果たすとともに売上高の向上を実現させた。

現在の日本は、可処分所得の減少や失業率などの悪化の影響から、個人消費はなかなか回復しない。長期化する景気低迷の影響から不況に強い外食産業も大きな打撃を受けている。先行きは全く不透明といってよいであろう。

また、そもそも少子化という流れの中で人口が減少しているという事実を踏まえれば、景気の向上などを期待しない方がよい。

マクドナルドの戦略はこのような前提のもとにある。少ない需要の中で、顧客ニーズを確実につかみとっていかなければ生き残ることはできない。では顧客ニーズとは。

マクドナルドでは、ファストフードの二大顧客ニーズとして、(1)利便性(2)リーズナブルな価格を上げている。価格については、前述の通りである。近年のマクドナルドの顧客調査でも、ハンバーガーが二一〇円のときには購買してもよいとされる価格満足度は三〇%であるのに対して、一三〇円では八〇%まで高まる。低価格戦略は今後も続く。

さて、もう一つの顧客ニーズである利便性。実は、この利便性が、近年のマクドナルドの強さにほかならない。これは、いつでもどこでも気軽に買えるというものだ。

個人消費の低迷、少子化。この要因から考えられることは、市場規模の増大には限りがあるということだ。よって、今後は一定地域の中で、シェア(市場占有率)を上昇させていかなければ、生き残ることはできない。

図表4と図表5を見て欲しい。マクドナルドのシェアは九四年四七・七%から九八年六一・四%へと急激にその数字を伸ばしている。

マクドナルドでは、日本全国を市町村別に八四四の独自のエリア(商圏)に区分している。そしてそのエリア内の需要の五%を獲得目標にしているのだ。

一般的に売上高は、次のような式で表される。「売上高=商圏内需要×当店の目標シェア」個店レベルであれば、一次商圏といわれる半径五〇〇mの中で、シェア三%も取れれば上出来といえる。

マクドナルドでは、この商圏範囲をもっと広げてエリアと規定。このエリアの中に複数店舗をつくり、一店ではなく複数店舗によって、エリア内の目標シェア五%を獲得しようと励んでいる。こうなると個店の前年の売上高実績は関係ない。現にマクドナルドの店舗でも売上高が昨年対比で減少しているお店もある。しかし、要はエリア内店舗で協力して、エリア内の目標シェアの獲得を行えばよいのである。

ちなみに、商圏内需要は売上高という数字で表されるので、目標シェアも売上目標という明確な数字で算出される。この売上目標をエリア内の複数店舗に区分すれば適正な売上予算が出来上がる。

マクドナルドでは、エリア内で一番重要な場所に旗艦店を設置。この旗艦店は大抵の場合一等地にある。そこを母屋としてその近辺の二等地や、ショッピングセンター、スーパー、学校やその他の重要ポイントにサテライト店を配置しエリアカバーを行っている。その結果、お客様に、いつでもどこでも気軽に買えるという利便性を提供することになるのだ。

余談であるが、注目されている新興のフレッシュネスバーガーもこのエリアマーケティングを行い、当面のライバルであるモスバーガーを追撃している。

いくら店舗が増えようと、悪いお店ばかり増えたのではどうしようもない。マクドナルドの強さは各個店の完成度の高さであり、人材育成システムの土台の上に成り立っていることも忘れてはならない。

ハンバーガー大学という社内教育機関のもと、システム的なトレーニングはトップマネジメントでもまだまだ教育期間中であるというから驚きだ。

お客様が求める商品は単なるハンバーガーだけではない。おいしさ、品質、安全性、快適な空間などのすべての要素を求めているのである。これらは人によって、作られる。最終的には人材が雌雄を決する。

店舗、人にさらなる投資を行い、今後は子供だけでなくシニア層に向けたメニュー開発(その先駆けがマク牛なべパン)などさらなるシェア向上を目指している。

(中小企業診断士・三浦紀章)

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