わかりやすいHACCP(16)殺菌する(その6)加熱調理
従来は牛一〇〇%のハンバーグステーキの場合、多少生でも大丈夫といわれていました。その他の食肉、豚や羊や鶏はよく火を通さないといけないのに、なぜ牛は大丈夫といわれていたかというと、牛肉には寄生虫がいないので安全であるという意味でした。
従来の食中毒菌ですとサルモネラやブドウ球菌などくらいですから多少混入していても問題はなかったわけです。しかし、この腸管出血性大腸菌O157は牛の大腸菌に一般的に生息しており、と殺の際に内臓の処理が悪いと肉を汚染してしまいます。その汚染率は年々上昇しているともいわれており、米国ではハンバーガーチェーンなどでの食中毒事故の大きな原因となっています。
昔の米国人は確かにハンバーガーなど生焼きで食べるのを好んでいたのですが、最近はよく焼いてくれといって焦げるまで焼いて食べるようになりました。日本人の方が血の滴るようなハンバーグステーキを食べるようになっているのです。こんな無知で無防備な、状態では食中毒はさけられなかったのです。
さて、ハンバーグを出す場合の注意点を見てみましょう。食品を安全に食べるのに必要な中心温度は従来は六〇度C以上であるといわれていましたが、厚生省は堺市の事件以来、大規模給食では七五度Cを一分間保ちなさいと指導しています。米国でも大手ハンバーガーチェーンの食中毒事件以来、温度基準を変更し、以下のようにしました。
鶏は七四度C以上、豚は七四度C以上、魚は七四度C以上、牛は六八度C以上、その中心温度の状態で一五秒間を保つというものです。
では牛の固まりのローストビーフの場合はそんな温度では焼けすぎで、商品価値がなくなりますね。それに汚染されているのは肉の表面だけのはずですから、基準を、中心温度六二・八度Cで三分間、六〇・〇度Cで一二分間、五四・四度Cで一二一分間、加熱すれば良いと決めています。
さて、いずれにせよひき肉を使うハンバーグステーキの場合、中心温度が六八度C以上でないといけないわけです。つまりハンバーグを切ったときに肉の色がピンクではだめなのです。ではどんな注意が必要か見てみましょう。
ハンバーグステーキを焼くのにフライパンを使用している場合が多いのですが内部の温度を規定の六八度C以上に安定して焼くためにはより高度なグリドルが必要です。
(1)鉄板の温度を一定に保つサーモスタット付きのグリドルを使う
ハンバーグを焼くのに適したグリドルの温度は一六五~一八〇度Cです。余り温度が高いと表面は焦げるのですが中に火が入りません。また、いつも同じに焼けるようにサーモスタットが付いていて温度を設定できるようになっているものを使いましょう。もちろん、温度計の精度は時々確認するのはフライヤーの時と同じです。
(2)グリドルの特性を確認する
サーモスタットが付いているからといって安心してはいけません。サーモスタットは針のようなセンサーをグリドルに埋め込んだり下部につけていますから、その部分に肉がくれば温度を関知して、火を点火させます。サーモスタットのない場所に肉をおいても鉄板の温度が下がったことを関知せず、火がつきませんから、鉄板の温度が下がり肉の中心温度が規定の温度にならない場合がありますからグリドルの特性をよく把握しましょう。
また、冷凍のハンバーグパティを焼く場合には冷凍ハンバーグパティの熱量に耐えるような火力の強いグリドルを使いましょう。
(3)温度の回復とタイマー
いくら性能の良いグリドルを使っていても焼く時間がいい加減ではだめです。一定の温度で一定の時間で焼くといういわゆるTT管理(タイム時間、テンパラチャー温度)が必要です。また、同じ場所で連続して焼いていると温度が下がってきますから、温度の回復を待つか、焼く場所のローテーションが必要です。
グリドルの温度の回復を確認するには、鉄板にハンバーガーパティをおいて、ひっくり返すときにグリドルの表面の温度を計測し、その温度の低下具合を見ます。余り温度が低下するようであれば、鉄板が薄すぎる、サーモスタットの感度が悪い、火力が弱すぎるなどの問題があります。
そして焼き終わってから設定の温度に回復するまでどのぐらいの時間がかかるかを計測しておきます。そうすればいつも最適の状態で焼くことができるはずです。
(4)内部温度を時々確認しよう
そして時々ハンバーグパティの中心温度を正確なデジタル温度計で計測するという注意深さが必要です。温度計は正確なデジタル温度計を購入しましょう(価格は五万円ほど、油用の細長いセンサー、グリドル表面を計測する表面温度センサーを使います)。
ハンバーグパティを焼くと肉のかすや肉汁がグリドルの表面に付着し、カーボンがたまります。カーボンが残っていると断熱材になってハンバーグに熱が十分に伝わりません。一回ごとによく研いだスクレーパーでグリドル表面のカーボンを取り去りましょう。
あまり使っていないときにはグリドル表面に残っていた油分がカーボン化しますので、ダスター(できればグリドル用の粗い布地)に水を少々付けグリドルの表面の油分を取り去ります。
閉店後は残ったカーボンを落とすために研磨剤で研磨したり、特殊なグリドルクリーナーでカーボンを科学的に洗い流しましょう。清掃した後はさびが出るので油を薄く塗布しておきます。
焼き上がったハンバーグパティの中心温度を六八度C以上にするには良いグリドルを使うだけではだめです。火通りの良い原材料を使う必要があります。
最近は健康志向から、脂肪分の少ないハンバーグパティを使う傾向がありますが、脂肪分の少ないハンバーグパティは温度むらが多いので注意が必要です。脂肪分は一八~二二%ぐらいないと内部の温度むらを生じます。
また、混ぜ物をするハンバーグパティの場合も十分に温度を確認しないと火通りが悪い場合があります。脂肪分や混ぜ物が均一になるようによく混合するべきでしょう。
いずれにせよ、一日何回か焼き上がったハンバーグパティの中心温度を正確なデジタル温度計で計測して、食材のむらに対応するようにしましょう。
(経営コンサルタント/立教大学社会学部非常勤講師・王利彰)